第25話 入口は時に鬼門となる
「私達の仕事の話は置いておくとして・・・この砦みたいなのが、全て買い物のための場所だというの?」
「はい。出発の時にも少しお話しましたが、食べ物や服、雑貨などのお店が・・・数十軒は入っているかと思います。」
私達が日々を過ごす世界の、バッファローに関する話が一段落したところで、尋ねたひいかにクサカベが答える。
「・・・要はこの大きなものの中に、市場があるということかしら。」
「はい! そちらの世界の市場を見たことはありませんが、合っている気がします。」
うなずくこの少女も、これまでの会話の中で、私達の世界についての推測が出来るようになってきたようだ。
「なるほどね。中が気になってきたわ。早速入ってみましょうか。」
「は、はい、行きましょう・・・! あれ? こっちの入口って確か・・・」
『バス』という名の乗り物を降りたところから、そう遠くない建物の出入口らしき場所に、どんどんと人が向かってゆくのが見えるけれど、クサカベが少し表情を曇らせたのは何故だろうか。
「あら、ここは食事処が集まった場所かしら。あちこちから良い匂いがするし、見たことのない料理らしき絵もたくさんあるけれど、あれはどんなものを注文できるか示しているの?」
そして人の流れに乗り、横に開いた透明な扉をくぐれば、間もなく騒ぎ出すひいかに、先程の反応の理由を察する。
「あ、はい・・・それぞれのお店の、代表的な料理を掲げることが多いと思います。よろしければ、ご説明しましょうか?」
「ええ、お願いするわ。」
少し引きつった笑顔でクサカベが答え、自ら困難の中へと飛び込んでゆくのが見えたけれど、気になるのは確かなので、私もひいかと一緒に話を聞いた。
「わたし、すこしつかれました。ちょっとだけ、やすませてください。」
「え、ええ。色々と説明ありがとうね。」
そうして、しばらくの時が経ち、少しばかり覚束なくなった言葉と共に、クサカベがふらふらと横長の椅子に腰掛け、瞳を閉じる。
『賢者』によれば、この世界ではこうした状態を、燃え尽きたとか、真っ白な灰に・・・などと言うのだったか。
「ひいか・・・質問責めにするのは止めてあげなさいよ。」
「だって、知りたかったんだもの。というか、みいかも興味津々って顔で、一緒に聞いていたわよね?」
「まあ、それはそうだけど・・・後のほうは何か覚悟が決まった表情だったから、私も止めにくかったわね。」
「みーとそーすって、いせかいのひとにどうせつめいするの? おにくのそーすじゃそのままだし、おみせによってあじつけだってちがうよね? けっきょくあれのめいんはとまとなの? なまえはみーとそーすなのに・・・」
ひいかと二人で話していると、クサカベが目を閉じたまま、うわ言のように何かをつぶやいている。もしや悪夢でも見ているのだろうか。
「・・・・・・はっ!」
揺り起こそうかと考えたところで、弾かれたように少女が目を覚ます。何かの気配が浮かんだ気もするけれど、疲れているのは明らかだし、深くは聞かないほうが良いだろうか。
「お、お待たせしました。もう大丈夫です。」
「ええ、疲れさせてしまったみたいで、悪かったわね・・・それで、あの中から何を食べようかしら。」
間もなく、クサカベが再び立ち上がったところで、ひいかが耳を疑うようなことを言い出す。
「ちょっと、ひいか。お昼にはまだ早いと思うけど。そもそも、さっき朝食を食べ過ぎて運動したのは誰かしら。」
「ねえ、みいか。ここの貼り紙を見る限り、この建物の上のほうには演舞台があるみたいよ。空いていたら、そこでもう一回どうかしら?」
・・・いや、それがあるとして、なぜ人が大勢いそうな場所で手合わせをするのか分からないけれど。
「待ってください、こんな所でリアル超人ショーは開催しないでくださいね!? そもそも、ステージは勝手に使えない可能性が高いですから!」
「あら、そうなの? でも、こんな風に皆で仮装をして遊べるような、楽しい場所ではないのかしら。」
「それ、特撮もののキャラクター! 子供の夢とか色々を、敵に回すのは止めてください!」
私が止める前に、クサカベが切迫した表情で何事かを叫び出す。意味が分からない言葉もあるけれど、どうやらこの世界でかなり良くない
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