第26話 こだわれば奥は深い

「なるほど、主に子供達が楽しむことを想定した、特別な力を得て戦う物語ねえ・・・それを表すために、少し変わった見た目をしているのかしら。」

「はい。長く続いている作品では、昔見ていた子供達が親世代になって、自分の子供を連れて見に来る・・・なんてこともあるので、大人と子供がどちらも楽しめる工夫なども、増えてきているそうです。」

貼り紙に描かれていた存在について、クサカベが慌てて説明してくれたのを聞けば、思った以上に人気のあるものらしい。


「物語を創るほうも色々考えるわけね・・・あら、あっちに貼られているのは、随分と可愛らしい姿をしているけれど、あれも同じようなものかしら?」

「そうですね。主に女の子向けとされています。ああいう衣装を着て、きらきらとした魔法を使って悪者を倒す・・・といった印象がありますね。」


「あら、本当に可愛く感じるわね。魔法が使えるみいかも、あんな服を着てみない?」

「はあ・・・? 急に何を言い出すのよ。そもそも、魔法ならひいかも含めて、身近なところの人は大抵使えるわよね!?」

ひいかがいい笑顔をしながら、まだこちらを見ている。これは面倒なことになりそうだ。


「だってみいか、普段は目立たない衣ばかりでしょう。昨日の夜のあれ、すごく可愛かったし。」

「それは仕事柄、当然じゃない! 護衛が目立ってどうするのよ。」


「なるほど、夜のほうの話題からは逃げると。」

「言い方! そもそも、あの絵の衣装を私達が着て、人前を歩く気分にならないわよ。」


「じゃあ、二人きりならいいのね。」

「ちょっ・・・!」


「あ、あの・・・盛り上がっているところ申し訳ありませんが、あれと同じような服を見付けるには、少し特別なお店に行く必要があるので・・・

 実のところ、その辺に詳しそうな人を知っている気もしますが・・・頼むのが少し恐いかもです。」

ひいかと言い合っていると、クサカベが恐る恐るといった様子で話しかけてくる。

・・・と、それに応えようとしたところで、彼女の持つ道具が振動した。


「えええ・・・? 『クサカベさんのお師匠様からの伝言です――知人の繋がりで、そういうお店も知ってはいるけれど、ちゃんと作るなら採寸からやる必要があるから、旅の期間中では難しいわよ。――』 すみません。今から用意するのはやはり難しそうです。」

「ええ、急に言い出したことだし、気にしないで良いわ。それにしても、あなたが師事している人は、そういう所に詳しかったのね。」


「あ、あはは・・・時々そうした言動が・・・えっ、またメッセージ?」

不安げな表情を浮かべながら、少女がまた道具を操作した。


「・・・・・・こんなことで恐がられるのかって、少し凹んだ後に怒ってる!? 結局怒るんじゃないですかあ!」

嘆きの声が空・・・ではなく建物の天井へ消えてゆく。どうやら、この少女を取り巻く師弟関係は、少し複雑なようだ。



「気を取り直して、お昼前でも軽く食べるくらいなら・・・ということで、こちらです。一皿だけ頼みましたので、分ける形にしましょう。」

そうして、ひいかが何か食べてみたいと言い出した件に立ち返れば、クサカベが球形の食べ物を入れた皿を持ってくる。


「確か、『タコヤキ』という料理だったわね。この中に、海の生き物を具材として入れているの?」

「はい、この国では割と人気なんですけど、他で食べている所は少ないそうで・・・そんな意味でも、ここ特有の料理かもしれません。あっ! 中は熱いので気を付けてください。」

少女の注意を聞きながら、少し冷ましたところで口に含めば、歯ごたえのある具材と、周りのふわりとした食感を楽しむことが出来た。


「よし、テンプレ発動からの、無礼討ち案件回避・・・!」

・・・何やら小さくつぶやかれた言葉は、よく分からなかったけれど。


「確かに、私達には珍しさもあるし、これは美味しいわね。上にかけるものもいくつかあるけれど、これは食べる人の好みで・・・ということなのかしら?」

「はい。一種類だけにしたり、あるいは自分に合う配分を見付けたり・・・お店によっては、外側をかりっとするように調理しますし、楽しみ方も幅広い料理ですね。」


「なるほどね。それならもうひとさ・・・」

「ひいか、お店を見て回るのは忘れたの?」

このまま昼食まで済ませてしまいそうなひいかをどうにか促して、私達は本来の目的である、この建物に存在する数多くの店を見回ることにした。

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