第24話 買い物に罪は無い

「さて、もうすぐ到着です! あっ、次に待っているのは新しいバスではなくて、本当に目的地ですので。」

出発から二度目の『バス』に乗り、初めよりも少し長めの時間に感じてきた頃、クサカベが口にする。

どこか脅えた様子に見えるのは、さっきのひいかの反応を気にしているからだろうか・・・別に怒っているわけではないのだけどね。


「あら、そうなの・・・? 市場のような所だと思っていたけれど、人の住む気配が少なくなってきたところに、意外だわ。」

「えっ・・・? ああ、確かに住宅街からは離れていますね。」

クサカベも一緒になって見つめる窓の向こうには、農地やただの空き地らしき場所が多く、その間を貫くように広めの道が伸びている。


「私達が今向かっている場所は、近場の人達が集まるというよりも、この乗り物や個人所有の車で、離れた所からもたくさんの人達がやって来ることを想定していると思います。

 それに・・・とにかく広いので、最初から住宅などが多いと、土地を確保するのも大変かもしれませんね。」

「なるほど、だから今はこういう景色なのね。そういえば、こちらの世界では皆が遠くまで移動しやすいのだったわ。」

「広い土地の確保が大変、ねえ・・・こちら側でも、既得権益を持つ人達との軋轢は生じたりするのかしら。」


「ちょっ・・・! ミカさん、デリケートな話題! え、えっと・・・そんなニュースも時々目にしますので、どこかで起きてはいると思います。でも個別の事例には詳しくないですし、私達がこれから行く所に合わせて何か言及する気持ちも、全くありませんので。」

「え、ええ・・・あなたはよく知らないということは分かったわ。」

クサカベが少しひきつった顔で答えてくれる。そういえば、言霊というのを気にしていたようだし、何か悪いものを引き寄せるような話題だったろうか。



「さて、到着です! 既に分かりやすく見えているのが、こちらの世界で『ショッピングセンター』などと呼ばれる、たくさんのお店が入った建物です。」

そんな会話から程なくして、クサカベに案内されてバスを降りれば、見上げるほどの巨大な構造物が、私達の前に存在している。


「・・・なるほど、これは砦のようね。何と戦うことを想定しているのかしら。」

「いや、軍事施設じゃないですからね?」


「ねえ、みいか。ここに兵をきちんと配置すれば、突進してくるバッファローの群れも防げそうじゃない?」

「それは同感ね・・・そういえば、全体の大移動とまではいかなくても、飽和状態になった群れが動き出す周期はそろそろだったかしら。準備も楽じゃないから、情報は集めておかないとね。」


「あの、お二人とも・・・? こんな所に野生のバッファローはいませんからね!? お買い物をする所ですからね!?」

クサカベが声を上げているけれど、そんな話を思い出してしまうくらいには、規模の大きな建物だったので仕方ない。ひいかは半分冗談のつもりだとは思うけれど・・・

そう考えていると、だんだんと聞き慣れてきた、『賢者』からの言葉を伝える道具が振動する音が響いた。


「えっ、このタイミングで賢者さんからの伝言ですか? ・・・『バッファローの群れに対処するのでしたら、私達への依頼は早めにお願いします。それなりに移動距離はありますし、前のように到着がぎりぎりになると困りますから。』

 いや、これ異世界の業務連絡・・・この世界のショッピングセンターが、何をしたって言うんですか・・・!?」

クサカベが空を仰ぐ。そういえば、今年の対処についての話はまだしていなかったから、『賢者』は半分本気かもしれない。

ちょっとした行き違いは起きてしまったけれど、今は休暇で旅の途中。帰ったらちゃんと相談することを約束して、案内人も慰めてから、この世界の大きな店を確かめるとしよう。

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