第21話 朝の運動

「さて、少し食べ過ぎてしまったから、体を動かすとしましょうか。みいか、付き合ってくれる?」

「いや、私はもう一杯お代わりするの、一応は止めたわよね?」

朝食を終え、お茶を飲んで落ち着いたところで、ひいかの言葉にため息をつく。


「お願い、みいかだけが頼りなの! もし駄目なら・・・一人で演舞をしようかしら。せっかくだからクサカベさんにも見てもらって。」

「ふえっ!? 唐突な流れ弾!」

私の腕を取りながら、上目遣いで求めてくる声に、洗い物をしていたクサカベが振り向いた。


「はあ・・・仕方ないわね。ここでは狭いでしょうから、庭でやるのが良いかしら。」

「ありがとう、みいか! そうしましょう!」

私を除け者にしての演武は実行されたくないのでうなずくと、ひいかが笑顔を向けてくる・・・最初から分かってやっているわよね?


「出来レースごちそうさまです・・・じゃなくて、庭でどんな運動をされるおつもりでしょうか・・・」

何やら異世界の言葉をつぶやいた後、クサカベが不安げな表情で尋ねてくる。どうやら、これから起きることを察したようだ。


「二人で少し模擬戦のようなことをするだけよ。武器は使わないし、周りにもなるべく配慮するわ。」

「は、はい・・・! 念のため私も立ち会いますので、少々お待ちください。」

ひいかの声に引きつった笑顔が返り、ばたばたと片付けを終える音が部屋に響いた。



「さて、始めようと思うけど、クサカベさんは何をしているの?」

「か、花壇に向けての攻撃は、どうかご遠慮ください。なけなしの戦闘力を使ってでも、この場は守ります!」

向き合う私達から距離を置いた横手に、クサカベが両手を広げ花壇の前に立つ。その髪には花をあしらった飾りが輝き、何かの力を漂わせていた。


「あら、そこまで覚悟が決まっているなら、遠慮せずに参戦して良いのよ?」

「むむむ無理です・・・! 余波だけで簡単に命を落とす非戦闘員がいることを意識して、加減の上で運動していただければと・・・!」


「ひいか、恐がらせるのは止めなさい。確かに、制限を設けた上で力を出しきるのも良い修練だわ。」

「そうね。多少のやり過ぎはご愛嬌ということで。」

「そのご愛嬌で私達を消し飛ばさないでくださいね・・・!?」

実のところ、賢者が魔力で守っている気配があるので、多少のことは大丈夫だと思うけれど・・・これ以上怯えさせたら流石に可哀想なので、気を付けることにしよう。



「ふう・・・このくらいで良いかしら。」

「ええ。異世界だと身体の感覚も違うし、やっぱり試してみて正解だったわ。」

そうして、子供の頃から何度となく繰り返してきた徒手での模擬戦を終え、二人で軽く息をつく。


「あら、そっちには衝撃が飛ばないよう気を付けたはずだけど、クサカベさんはどうしたのかしら?」

「うう、お二人の動きが速すぎて、目で追うだけでも情報量が・・・」

大方、万一の事態に備えて力を使いながら視ていたのだろうけど、その影響は私達にはどうしようもないからね?

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