6:救助するということは、助けて救うということです。

「さ、ステータスはどうなってるかな?」


 〜〜〜

 朝宮 伶

 スキル:〈召喚〉〈天眼〉〈龍炎〉

 体力:50%/100%

 魔力:90%/100%

 アビリティ:精神苦痛耐性LvⅣ 炎熱耐性LvⅡ

 〜〜〜


「おぉ、スキルが増えてる! 〈龍炎〉……って、名前はかっこいいけど想像が難しいな」

「伶は魔法が使えないよね?」

「そうだな。残念ながら」

「簡単に言えば、そのスキルは炎魔法が使えるようになるスキルだよ」

「魔法が……!?」


 魔法を使うためには、魔力があればいいというわけではない。

 詠唱はものによるが、基本的にはスキルで魔法系統のものを取得する必要がある。

 例えば〈下級炎魔法〉だったり〈氷魔剣士〉みたいな感じで存在するらしく、そうでない場合は魔法を使うことはできない。

 魔法を放てる魔導具とかもあったりするが、かなり高価だと聞く。


「こっからは移動しながら話そうか。《空間飛行フラース》、《超級結界グレートバリアオール》」


 シルフィアが魔法を唱えると、身体がふんわりと浮いた。


「行くよっ!」

「うおおお!?」


 そして、視界が高速で動き出す。


 上下左右に身体が動き、壁にぶつからないかと思って〈天眼〉を使ってみる。


 すると、全然普通に壁にぶつかっていた。そして結界の方が硬いのか、壁が粉々に砕かれていた。やばい。この移動方法は結界なしじゃダメそうだな……便利だと思ったのに。危険度MAXだ。


 さっき、俺が落ちる前、シルフィアが「防壁がない」と言っていた。

 だからこんな脆いんだろうな。普通のダンジョンならさすがに壁の方が硬い……よな。


 と、そこでシルフィアが再び話しだしたため、俺も〈天眼〉で件の人を探しながら耳を傾ける。


「ともかく、私達はそんな感じのスキルを魔法技能マジックスキルって呼んでる。違いは大きく分けて二つ。一つは、一つの魔法しか使えないこと。工夫は色々できるけど、大元は同じ。もう一つは、連続起動ができること。魔法は詠唱して発動の繰り返しだけど、こっちは魔力のある限りずっと出し続けられる。かなり大きな差だね」

「なるほど……!」


 多分、俺の場合は魔力で動く火炎放射器を手に入れたと思っておけばいいのだろう。

 魔法が使えるか使えないかの差は大きい。これからの探索に大いに役立つに違いない。

 

「おっと、もうそろそろかな」

「やっぱり……あれがそうか」

 

 ふと人影を見つけ、伝えようかと思った矢先のことだった。

 辺りに魔物がいる様子はない。少なくとも、見える範囲にはいなさそうだ。


 そして、縦横無尽にダンジョンを駆け抜けた先に一人の男がいた。

 さっきのリーダーの言う通り、緑色の軽鎧を着ている。

 全身は血だらけで、息が荒い。もしかしたら、魔物から命からがら逃げてきたのかもしれない。


「はぁ……はぁ……あ、あんたらは……?」


 俺たちが地面に降り立つと、ようやく存在を認識したようだ。

 年齢は30代前後か。まだまだ若い。


「私たちは君らのリーダーに頼まれて助けに来ただけ。さ、立てる?」

「き、気をつけろ……マグマのっ……ごほっごほっ」

「あぁ無理しないで! 《回復癒光リライト》」


 男に駆け寄ったシルフィア。

 その手からは、淡い白色の光が燦々と降り注いでいる。


 すると、真っ青な顔をしていた男に段々血色が戻っていく。


「な、なんだこれ……急に身体が元気に……!」

「回復魔法だよ。珍しいかもしれないけどね」

「回復魔法だって!? ってことはあんた、巷で噂の【聖女】なのか!?」

「聖女……? ねぇ伶、知ってる?」

「あぁ、親父から少しだけな。確か、そこら中のダンジョンを回っては人々を癒やし、金銭も一切取らずに去っていく美しい女性――だったか。その見た目と行動から【聖女】って名前がついたんだとさ」

「あっちの世界の聖女とは大違い――じゃなくって……そうなんだね。私はそんなにすごくないよ」


 今、かすかに「あっちの世界」と聞こえたような気がした。恐らく向こう側にも聖女と呼ばれる人がいるのだろう。

 こっちの方もそうだが、そんな二つ名がつけられる人とはいつか会ってみたいと思う。


 いつか俺も……なんてね。


「お、おいお前ら、逃げろ……! 俺をあんな身体にした化け物がこっちに来てる……!」


 また怯えた表情になった男が、俺たちの後ろに指をさす。


 そこには、のろのろと動く溶岩の塊があった。


「あれに俺たちで魔法や剣で攻撃したけど、全然効果なくって……見るからに炎は効かなそうだし……」

 

 つまり俺に出番はないのか。俺とこの人を連れて逃げるんだろ――


「じゃあ伶。戦ってきて。新しいスキルのお披露目も兼ねて」

「はぁ!?」

「新しいスキル……!? それってどういうことだ!?」

「シルフィア、俺のスキルを知ってて言ってるよね!?」

「まぁまぁ、騙されたと思ってやってみてよ」

「命懸けなのやばすぎる!」

「お、おい、俺は無視な――」「ほら、行ってらっしゃい!」

「うぅ……分かったよ……」

「おい!?」


 すまない、名も知らぬ人よ。

 助けたのはいいが、今はそれどころじゃないのだ。

 明らかに「ぼく炎効きません^^」って顔してるやつに炎で攻撃しろって言われて大変なのだ。


 見た目は溶岩の塊。そのまんまだ。大きな炎のスライムに岩がくっついている、みたいな。


「……シンダラ、チャント、ホネハ、ヒロッテネ……〈龍炎〉!」


 毎回遺書を書き忘れる俺に内心ため息を付きつつ、その名を高らかに叫ぶ。


 ――刹那、突き出した手のひらから炎が吹き出した。その勢いはまるで龍の息吹の如し。


 彼我の距離は目測で4メートルほど。その距離まで、炎が届いている。


「もっと細く長くをイメージしてみて!」

「こ、こう、かな」


 手の先に集める魔力を、なんとなく細いものにしてみる。

 すると、炎がバラけなくなった。まっすぐ、直線的に。


「――!」


 近づいてくる溶岩を、押しのけるように連続で炎を浴びせ続けること数十秒。ついに動きがあった。


 鎧のように覆っていた岩が少し赤みを帯びてガタッと崩れ、真っ赤な柔らかそうな身体があらわになったのだ。

 どうやら、シルフィアが言っていたのはこういうことらしい。


「さぁ伶! チャンスだよ! 剣を使って!」

「了解!」


 鞘から剣を抜き、美しく光る蒼い刀身を一瞥し、目の前の生物と相対する。


「ハッ……」


 勢いよく駆け出し、距離を一気に縮める。

 

「――!」


 それに対し、拳のような部分を振り上げ、ドロドロの溶岩を投げつけてくる。


「ひっ!」


 恐怖を感じた俺は咄嗟に避けるも、無意識的に切ろうとしてしまったのか、剣がそれに当たってしまった。

 剣が溶けたのでは、と思い見てみたが、傷のようなものは一切ない。変わらずに静謐さを保ち続けている。


「ビビったじゃねぇか……その恨み、ここで晴らすぜぇ!」

「――!?」


 なんでやねん! といいたげに鳴き声をあげ、再び腕を振り上げている。数秒後には溶岩が俺の顔面に直撃することだろう。

 

 しかし、そうは問屋が卸さない。


「オラァッ!」


 雄叫びを上げながら、思い切りそいつの身体を袈裟懸けに切る。返す刀で横に一文字。そして勢いをつけ、真っ直ぐに剣を振り下ろす。


「……」


 そうしてこいつは沈黙し、ドロドロに溶けつつ粒子になって消えていく。


「伶はさすがだね。今度はB級を一人で倒しちゃうなんて」

「B級……!?」


 さっきの男が驚いたように声を出す。

 

 B級……俺はB級の魔物を倒せるのか。

 人外一歩手前のレベルの魔物を……!


「じゃあさっさと帰ろう。こっからだとボス部屋のが近いし、そっちからね」


 ――そして、何も知らない緑男を空中に浮かせたまま、俺たちはついにボス部屋へとたどり着いた。


 ボスは、さっき俺とルナイルが倒した火岩竜フレグドラとどこか似たような風貌だったが、その姿を目にしたシルフィアは一瞬だけ冷たい微笑を浮かべ、短く「《氷爆》」と呟いた。


 氷の嵐が巻き起こり、轟音と共にボスが凍りつき、そのまま粉々に砕け散る。

 

 まるで、そこに脅威など最初からなかったかのように。


 =====

 聖女も第三章で出てきます……1月から始まるのでお待ちください……!

 そして名前がない緑男……次出てきますw

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