#1:【初配信】イラードのダンジョン配信【D級】
ダンジョン配信――数十年前まではただのファンタジー用語でしかなかったこの言葉は、今では老若男女の誰もが知る言葉になった。
その原因は、西暦2020年に起きた「
世界各地にダンジョンと呼ばれる迷宮が出現し、そこには現代には存在しない様々なものがあった。
それには、魔物という危険で獰猛な生命体も含まれる。
そして現在、配信界隈の規模は拡大し、毎日何万人もの
例えば――有名人になりたい、お金がほしい、皆に元気を与えたい、強さを見せつけたい。そんな多種多様な思いで、カメラに己を映すのだ。
僕、
覚醒者になったのは中学一年生の夏だが、怖い怖いと思ううちに四年が経ち、今日この日。高校一年生の初夏の訪れとともにダンジョン配信を始めることにしたのだ。
ダンジョンは既にいくつか回っており、今回は【
目的は、僕の弱点である陰キャの克服。そのために、今までかなり研鑽を積んできた。
それを、ついに世界に見せつける時なのだ。
「み、皆さんどうもおはこんばんちは、イラードです! 今日は初配信をしていこうと思います……!」
ダンジョンの中に入り、落ち着いた場所を見つけて配信を開始し、画面の向こう側へと緊張が滲み出た声で話し始める。カメラは最近の主流である自動追従型ドローンを使っているので、身振り手振りも交えれば伝えたい思いをより一層引き立てることができる。
まぁ、企業勢でもない配信者の初配信なんて1人来るかどうか怪しいのが現実だ。実際僕も現在0人。
配信やるから来てね、なんて言える友だちもいないし、親にも言えるわけがない。
「ん……? 今誰かいたような」
そう口に出し、そういえばロビーに人がいた形跡があったことを思い出す。もしかしたらその人たちかもしれないな、などと思いつつ、少しばかり近づいてみることにした。
ダンジョン内で人に会うなんてことはあまりない。もしかしたら、その人がいい人でファンになってくれたりしてくれるかも!
「同接は……0か。じゃあいっか」
腕に取り付けたスマホの画面を閉じ、その影を追う。
すると、男女二人が魔物と戦っているのが見えた。
片方は白髪の美少女。もう片方は黒髪の青年。年齢は二人とも僕と同じくらいだろうか。
「すごいなぁ……あんな美人な人とダンジョンなんて」
彼女いない歴=年齢くらいしか書ける経歴がない僕にとっては、中々に羨ましい光景だった。
すると、女性が魔物に向かって思い切り剣を振り下ろし――地面が割れた。
「……えっ?」
ダンジョンの床が壊れるというのも理解しがたいが、何よりこの振動はなんだろう。
「ま、まさか」
亀裂があの女性のところから広がっている。
その瞬間、一気に血の気が引くのを感じた。
「くっ……〈
自らの足元も崩れ始め、咄嗟にスキルを唱える。
そして、自分の姿が世界から「消え失せた」。
そのまま、カメラにも映らない僕は、物体をひたすらに貫通しながら――岩に当たっても何も感じない――落ちていくのであった。
◇
[なにこれ、なんで誰も映ってないんだ? もしかして配信主は死んだのか? しかもカメラが勝手に動いてるし……]
地面に激突してだいたい数分後。普通に歩いていた僕の右腕のスマホがパッと光り、コメントが来たことに気がつく。
「はっ! 初めてのコメントだ!」
[!?]
[こ、声はどこから……!?]
[幽霊とかやめてくれよ……!?]
あまりに驚いたのか、同じ人から三回に分けて送られて来た。
「えっと、この通り僕は人間です! 始めまして!」
そう言って発動しっぱなしだったスキルを解除し、姿を見せる。
もちろん、身バレ対策――という大義名分――でフードは被っている。
「イ、イラードって名前で活動してます! もしよければ、チャンネル登録してってください! あ、あと……!」
言おうと思っていた言葉が溢れ出てくる。毎秒噛みそうになりながらも、なんとか頑張って言葉を紡ぐ。
[お、おい! なんか後ろからでかい足音がするぞ!?]
「ん? ……あぁ、魔物がいたんですね」
コメントに従い後ろを見ると、大きな人形――ゴーレムがいた。
大きく拳を振りかぶり、今にも僕を押しつぶそうとしている。
[早く避けろ! 潰されるぞ!]
「だ、大丈夫です。〈
そう呟くと、今度は姿がブレた。まるで、僕がこの世にいない幽霊かのように見えるだろう。
「――?」
おかしい、確かに今潰したはずなのに。
そんな風に首を傾げるゴーレム。
そこへスタスタ、なんの警戒心もなく歩いてゴーレムに触れ、呟く。
「えーっと、〈
刹那。
ゴーレムは、魔石と、足元に大きな影の沼を残して姿を消した。
[今、何をした……?]
「ただスキルを使ってゴーレムを消しただけですが、なにか?」
すると、コメントが途絶えてしまった。
「あれ、いなくなっちゃったのかな。でも同接は1人……」
まいっか、と現実逃避スキルを発動し(そんなものはないが)、再び歩く。
少しして、長い一本道に入った。
引き返すか迷ったが、誰かの話し声が聞こえたので足早に進む。
そこには、先程見た黒髪青年と、見覚えのない金髪の女性がいた。こちらもまた美少女だ。
何やら話している様子だが、遠くてよく聞こえない。
再びスキルを発動させ、姿を消して近づく。
「ちっ……まぁいい。あの白い女もいないようだしな。この
「
僕にはわかる。これは喧嘩が起こる前の雰囲気だ。
あの白い存在が何者か分からないけど、ともかくやばそうなのは伝わってくる。
そしてついに、天使っぽい人が魔法を放とうとし始めた。
目の前の二人は警戒してるけど、後ろにさっき見た白髪の女性がいるので多分安全だ。
――数秒後、僕の予想は完全に的中した。
それから色々戦闘とか会話をしてたけど、よく分からなかったのでシャットアウト。
強い人のおこぼれにあずかろうと、ボス部屋までついていくことにした。どうせバレることはない。
[な、何が起こってるんだ……]
[初見です。今の人たちは誰ですか?]
2人目のリスナー……!
ちゃんと同接2人に増えてる……! やったー!
「え、えっと。あの人たちはたまたま会った人で、遭遇しちゃっただけなんですよね。こ、声かける勇気がないので、こっそり見守ってるっていうか……いや別にストーカーとかじゃなくて……」
あの三人から少し距離を置いてコメントに返信していると、同接が1人に戻った。
「あっ……」
[まぁ、元気出せって……]
とんでもない喪失感に襲われつつ、とぼとぼ一定間隔を開け、置いていかれないようについていく。
ボス部屋に到着したが、そこにボスはいなかった。多分、あの白い人が倒してしまったのだろう。
大人しくボスのリスポーンを待ち、ボスと相対する。
――無論、格好つけたくとも運動できるわけもないので、さっきと同じように影の沼に消し飛ばしてしまいましたとさ。
めでたしめでたし。
[やっぱりデタラメな能力すぎるなぁ!?]
=====
次回の配信回、更新はなんと1月1日でございます。
今回よりもっともっと面白くできたと自負しておりますので、ぜひフォローして更新をお待ち下さい!
☆での評価はいつでもお待ちしております!
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