5:置いていかれル

「っと。……この感覚も四回目となると慣れたもんだな」


 景色は再び見覚えのある場所に移り変わる。

 もちろん、ギルドの転移部屋だ。

 ここもこの前のところと似たような雰囲気なので、安心感を覚える。


「そういえば、ルルちゃんはどうするの? 私たち、二人って申請してるから色々聞かれそうじゃない?」

「シルフィアを召喚した時なんもなかったからいいと思うけど……一応なんか対策しとくか?」

「え、あたし邪魔者扱い!?」

「そこまでは言ってないぞ俺!?」

「ちょっとは思ってるんじゃん!」

「まぁまぁお二人さんや落ち着いて。ここにとっておきのがあるから」

「「とっておき?」」


 俺らの問いに、「ふっふっふ」と笑いを浮かべて取り出したのは、一本の剣だった。


「これは魔剣【解析不能ワトソン】。これを持っている人は指定された人を除いて誰も認識できなくなる効果を持ってるの。声も、姿も一切ね」

「ワ、ワトソン!? まさかここで出てくるとは……」


 前回ダンジョンに潜ったときに【解析不能ワトソン】という魔剣があることは意図せず聞いていた。それがこんな場面で出てくるとは想定外。

 そんな伏線回収アリなのかよ……


「さ、ルルちゃんこれ持って」

「わ、分かった……ってかそのルルちゃんって何よ」

「ん? ニックネーム。かわいいでしょ」

「確かにそうかも……ありがと!」


 どうやらシルフィアは、仲良くなった人にニックネームを付ける癖があるようだ。

 ルル、というネーミングは、俺としては黒そうな騎士団のリーダーの皇子を思い浮かべて仕方ないのだけどね。


「さ、いこっか」


 そして歩くこと数分。

 無事にギルドに戻ってくることができた。


「お疲れ様です、帰還おめでとうございます。亡くなられた方もいないようでなによりです」


 またしても同じセリフを、今度は厳格そうな女性職員が呟く。


 前回と違うのは。並べられた椅子に数人の男女が座っていることだ。 

 服装からして、おそらく探索者。つまりは同業者というところだろう。

 

 俺は親父とその友人以外で探索者を見たことがほとんどないので、少し緊張してしまう。


 だが、それと同時に違和感に気づく。

 彼らは4人。

 それぞれが、祈っていたり、悲痛な顔持ちをしていたりしているのだ。よく見れば服装も汚れている。


 もしかして、何かあったのだろうか。

 

「と、とりあえず魔石を換金してもらおう」

「そうだね。これ、お願いします」

 

 シルフィアが魔石をいくつも取り出すと、背後から無数の視線が向けられた感じがした。多分、さっきの彼らだろう。

 

「ひっ……!?」


 職員が引きつった顔をしたのを見て、何事かと思い机の上を見ると、魔石の中に天使の心臓らしきものが混じっていた。


「こ、これは魔石ではない……です」

「そうなんですか? せっかく『彼が倒した魔物』なのになぁ、残念だなぁ」


 ちらっと俺の目を見て、あからさまな様子で言った。

 多分、なんらかの意図があるはずなので、何も言わないことにしておく。


 ちなみに、職員の方は引きつった笑みで「も、申し訳ないです……」とどう考えても謝意が全くこもっていない謝罪を口にしていた。


「じゃあ、残りの分は全部換金で。もちろん彼のカードに」

「は、はい」


 魔石の鑑定作業が終わり、無事に俺のカードに意味不明な金額が追加された。

 今回はC級20体と、B級5体。D級は1体だけだ。合計金額三十万円。


 残高は、シルフィアの食費のために少し引き出したので三十八万。


 うむ、おかしい。

 

「お、おい! そこの二人! 道中で緑色の服を着た男を見てないか?」


 そこで声をかけてきたのは、探索者4人――若そうな人ばかりで、皆20代くらいに見える――のうち一人。

 いかにもリーダーっぽい風格を感じさせる男だ。


「いえ、見てないですね。それが何か?」

「実は……」


 そこから男は、涙ぐみながらも事情を話し始めた。


 要するに、「パーティーメンバーが自分たちを逃がすための殿しんがりになっているので、助けに行ってほしい」ということだった。

 彼らはとあるクランの訓練生らしく、ここで失敗すれば合格はないとも言っていた。


 帰還者用ロビーにいるからてっきりボスを倒したのかと思ったが、どうやら入口の方から出てきたらしい。それで、帰還者に聞き込みをしようと待っていたのだという。


「頼む! 報酬はもちろん出させてもらう。倒した魔物の魔石も全部換金してもらっていい!」


 必死の形相で頭を下げる男。

 それに続いて、ほかの3人も頭を下げてきた。


「えっちょっ!?」


 人にこんな頼まれ方をされるのは初めてだったので、思わず困惑して言葉に詰まってしまう。


 すると、ルナイルがこっそり耳打ちしてきた。


「ねぇ、実はあたしにいい案があるの。だから、ここはこいつらの提案に乗ってみない?」


 まるで、それは悪魔のささやきだった。

 なぜなら、この美少女ギャルが何かを企んでいるような顔をしていたから。

 

 この商人は、とんでもないことをしでかす気でいるのだろう。


「まぁ……分かりましたよ。その人を探して、助けて帰ってこればいいんですね。シルフィアもそれでいい?」

「私は全然いいよ。何人助けたっていいくらい」

「それは頼もしいな。では、そういうことで」

「あぁ! 恩に着る!」


 横を見ると、ルナイルが楽しげに、かつ怪しげに「くふふ!」と笑っているのが見えた。


 俺はとんでもない決断をした感覚に襲われつつも、突入者用ロビーへと移り、受付を済ませる。

 

 本当は彼らも道ずれ……じゃなかった。同行してもらうつもりでいたのだが、肉体と精神の疲労や、脱出した人――実力不足という烙印なのだ――であるとの理由でギルド側によって突入を拒否された。


 同じダンジョンの周回は、様々な事情から普通は行われないが、別にダメではないので問題ないと思ったんだけどな……


 仕方ないものは仕方ない、と割り切り、再び転移魔法陣のある部屋に入る。


「ここからは、最短最速でいく。あとついでにこれを使っておいて」

技能種子スキルシード……!」


 二回目のご対面となった、ゲーミング種くん。

 不安な気持ちになりつつ胸のあたりに押しこむ。


「な、何回見ても身体に刺さってる光景は見慣れないな……」

「そうなんだねぇ。お金を持ってる冒険者たちは皆使うからわりとありふれてたんだけど」

「ひえっ……」


 不意に、人々が自分の胸元に手を突っ込んでいる光景を思い浮かべてしまい背筋がゾッとする。……ドロップ率が低くて本当に良かった。


「じゃあ、行くよ。ダンジョンに入ったら補助魔法をたくさんかけるから、その間にステータスを確認しておいて」

「わかった」

 

 魔法陣に乗ると煌めき始め、数秒後、浮遊感とともに景色が移り変わった。


 =====

 ルルちゃんという言葉に伶が反応していますね。黒い騎士団はそのまま黒の騎士団を表しております。

 いやぁ、コードギアス好きなんですよね……映画見に行けなくてめっちゃ悔しいです……

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