4:死闘の報酬(こたえ)

 喜びに耽る中、勝利の証である魔石を取ってルナイルに渡す。

 彼女も満足げに頷き、魔石を謎の空間に収納した。


 ――パチ、パチ、パチ。


 すると、突如聞こえた拍手の音。


「いやー、お見事。ひ弱な少年少女が、まさか火岩竜フレグドラを倒してしまうとは。D級ごときがすごいじゃないですか」


 俺たちが進もうとしていたあの一本道から、真っ白なスーツの男が姿を現す。


 彼の頭上には光輪が一個、ぽつんと付いており、まるで天使のような見た目をしていると感じた。見下すような物言いも、そう思うと腑に落ちる。

 顔がどこか見覚えのあるものな気がするのはまぁ、気にしないでおこうか。


「……あんた、何者? 目的は?」

「おぉ怖い怖い。そんなに睨まないでくださいよお嬢さん。私はね、あなた方に会いに来ただけの者なのです。決して、やましいことはないのです」

「ふぅん……《投石ストローン》」


 ルナイルが魔法を唱え、魔法陣から現れたこぶし大の石が天使に飛んでいく。

 ドン、とぶつかる音はすれど、なんの痛痒つうようも感じていない様子だった。


「……下賤なガキ共が。この私に向かって石を投げるなんて考えられないな。私にはこんなちっぽけな魔法なぞ効かないが」

「あたしに会いに来るようなヤツは、こんなんじゃ怒らない。怒るということは、いい感情を持ってない証拠だからね。ほら、さっさと吐いたら? あんたの目的を」


 さすが商人、交渉には手慣れているようだ。

 あの意味不明な武勇伝、ここで活きてくるんだなぁ……。


 この際手段が手荒なことは目を瞑りましょう。それがいい。


「ちっ……まぁいい。あの白い女もいないようだしな。この第四大天使ネルヤ=アルカンゲルが、あのお方に代わって裁いてやる!」

大天使アルカンゲル……?」


 ふと、口からこぼれ落ちた言葉。

 白い女という言葉――恐らくシルフィアだと思うが――も気になるが、やはり「大天使アルカンゲル」が一番引っかかる。

  

 大天使。

 

 それは天使の九階級のうち、下から二番目を表すものだ。

 あくまでこれは俺の知識のものだから、実際にファンタジーな世界になってる以上断言はできない。


 だが、自分より上の立場がいると仄めかしているということは恐らく俺の認識は正しい。


「さぁ、矮小なる存在よ。その身の愚かさを悔やみながら消え去るがいい! 〈天裁インペリア――


 天使の背後に展開される数多の魔法陣。

 もしここから魔法が放たれてしまえば、俺たちは――!


「獣王流剣術、鋭牙エイガ


 刹那、天使の胸元から剣が生えた。


 その白い刀身が、まるで天使と一体化しているようで美しい。血のごとく溢れ出る透明な液体も、神秘的に思えて仕方ない。


 しかし、天使は苦悶の表情を浮かべている。それが、決して今が合理的な状況ではない事の証拠だ。


「な……ぜ……貴様ッ……!」


 必死に振り向く天使。その隙間から見えた顔は――


「シルフィア!」


 気づけば、その名を口に出していた。


「よく頑張ったね、伶」


 そう笑う姿は、どうしようもなく可愛く、どうしようもなく神聖な雰囲気を感じた。

 

 まるで、俺にとっての英雄ヒロインだった。


「うががっ……! 貴様、何をしたか分かっているのか!? こ、こんなことをすれば第三権天使コルメ=アルカイ様が黙っていないぞ!?」

「へぇ、権天使アルカイか。じゃあ大丈夫だね。私は主天使ドミニオンを葬ったことあるし」

「なっ……!?」


 天使の顔が驚きに染まる。

 権天使アルカイは下から三番目、主天使ドミニオンは下から六番目。さすがシルフィアだ。こんなやつよりも格上を倒しているらしい。


「だいたい君たちの計画は理解したよ。だから――」


 次第に、自分の未来を察してなのか恐怖に震え始めた。

 ジタバタともがくも、剣が杭のようになっているのか、その場から動くことはない。


「や、やめろ! まだ私は何もしてない! 魔物をいくらか解き放ったりしただけだ! 第一層の崩落は事故で何も関係はない!」

「「あっ……」」


 火岩竜フレグドラやさっきの魔物たちは、こいつの仕業だったようだ。天使が魔物を解き放てる、というのはロジックがわからないが、原因は判明した。


 ただ……ね。


「そ、そうだね。あれは災難な事故だったなぁ~」

「お、俺もそう思う」

「……貴様ら、いきなりどうした? なぜ目が泳いでいる?」

「あ~、そっかぁ……」


 当事者とその横にいた俺、事情を少し話したので知っているルナイル。

 あと何も知らないのはこの哀れな天使だけだ。色々可哀想。


「じゃ、じゃあ、殺すね?」

「なんでこの流れで私は殺されるんだ!?」

「現実逃避で殺される天使……アーメン」

「帝国流剣術、心奪シンダツ


 その瞬間、目にも止まらぬ速さで剣が動くと、シルフィアの手に赤い正四面体が——まるで心臓のようだ——握られていた。


 剣を抜かれた天使は力なく崩れ落ち、砂粒のように消え去っていく。


「本当に死んじゃったよ……」

 

 いつ見てもシルフィアの剣技はかっこいい。芸術的だ。

 それを見せる理由がしっかりしてればもっとかっこいいんだがな。


「さ、帰ろっか。もうここに用はないよ」


 踵を返し、来た道を引き返そうとするシルフィア。


「あれ、ボスをまだ倒してないけど」

「ボスならもう倒したよ」

「えっ」

「あれ、ボスを倒せば内側からなら開けられるからね。さっさと倒して伶のこと探してたんだよ」

「そ、そうだったのか……」

「たった二人でB級を倒すなんて、偉いぞ」


 シルフィアが、俺の頭をワシワシと撫でる。

 

 無性に恥ずかしさを覚えたが、胸の奥から沸き立つ「認められた嬉しさ」がそれを打ち消す。


「へへっ、ありがと」

「どういたしまして」


 美少女に頭を撫でられるという実績を解除できるなんて思ってもみなかった。脳内でファンファーレが鳴り響く錯覚に陥るのも致し方ないことだろう。


 人生、意外と捨てたもんじゃないな。


「……あたしを置いていちゃつかないでもらっていいかなぁ」


 ルナイルがぼそっとつぶやく。


「おっと、ごめんごめん。あ、そういえばまだ紹介してなかったな」

「うんうん。私もずっと気になってた」


 シルフィアの提案で、俺たちはボス部屋まで歩きながら自己紹介をすることになった。俺は既に済ませているので免除だ。


「じゃあ私から――私はシルフィア・アヴァイセル。二つ名はいろいろあるけど、一番有名なのは【千魔剣戟】かな」

「せ、せんまけんげき!?!? それって、あの……!?」

「そうだよ。すごいでしょっ!」


 えっへん、とでも言いたげに胸を張っている。 

 一方、ルナイルは愕然としている。お忍びの芸能人に会ったみたいな感じだろうか。こんなに驚くということは、本当にとんでもない有名人なんだろうな……改めて俺がとんでもない人を召喚したのだと実感する。 


「あ、あたしはルナイル・ブラウディカ。アルファナス王国随一の商人よ」


 少し経ち、多少落ち着いてから言葉を紡ぐ。

 しかしまだ動揺は収まっていないままだ。


「ほぉ、商人なんだ。ってことは色々持ってるでしょ?」

「その通り! あー、あの千魔剣戟と商談できるなんて夢みたい……!」

「積もる話はまた後で。ほら、ここがボス部屋ね。ドロップ品――技能種子スキルシードは回収済みだから安心して」


 また技能種子スキルシードか。

 ということは、またしても俺は強くなれるんだな。


 ――あぁ、期待に胸が高ぶるばかりだ!


 そんな思いを秘めながら、俺たちは転移魔法陣の光に消えていった。


 =====

 さて皆様お気づきですか?

 このタイトルがアニメFate/stay night UBWの第七話タイトルと同じだと……!

 

 まだ全然見れていないんですが、Fateの影響でこれ書き始めたところあるかもしれません。もうちょっとそれっぽい要素入れてみようかなと思います。

 

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