イミテーション(2/2)
「「許してあげて。ハムスターは、また買ってくればいいんだから」……」
唐突に、乗り移った青年の弟によって、文言を読み上げさせられる
中編小説の3分の1を過ぎたばかりのページで、その手が止まった。
左
「なはっ、お目が高いですね。印象的な話作りには欠きますが、場面描写のよりとテーマの太さは、
「あの……解説はいいので。終わってもいいですか?」
「君がそこで終わっていいなら。と、言いつつ、何が気に
ソフムがはっきりと問いかける。
「水鈴は、もうちょっとでハムスターになるんです。……先生は知っていました?」
「え。いや、人がハムスターになるという話は、聞いたことが……と、ボケるのはよして。
君の≪スキン≫の寿命が
ソフムが何らかの意図をもって、『
不意に、ソフムの手を
「今日、『がん』になったって言われて。あと1年半しか生きられないって。そう言われたんです。……
「何が、わからないんですか」
ソフムは、自身にしがみついた
「死ぬってことに、どうやって向き合ったらいいのか……ふつう、大事な人には死んでほしくなくて。死んじゃったら、悲しくてしょうがなくって。
「うん」
「でも……違いますよね?
ソフムはそうだと捉えている、
「君の語る『ふつう』は、まるで旧時代の映画のようですね」
「そうですよ……」
「ええ。現代の価値観にはまるでそぐわない。
≪スキン≫とは、
『がん』はこの≪スキン≫という道具の宿命、つまり絶対の命なのです。『がん』により死ぬこと、それ即ち≪スキン≫が役目を全うしたことを意味する。
君が≪スキン≫の死の受け止めについて、あれこれ考えていることは、教本たるわたしが
まさしく、洗礼と呼ぶにふさわしい忠言。
WFMOの、知能をもった指先。
ソフムたちのお陰で、
「はいっ。ありがとうございます!」
「最低ですね、こんな世界」
「えっ」
しかし、言葉はソフムの本心にちがいない。
「当人がこれまで獲得した記憶や社会性は≪人命データ≫として、≪ノストルム・アルカ≫のサーバ上に保管される。
これを人間そのものと定義し、≪スキン≫は生活を
だからおのずと
なんて残酷でおぞましい! こんなものは、真の平和じゃない。何世紀も前から
強い口調で話したのち、ソフムが席を立つ。
「君の『がん』が、どのくらい重症化しているかわかりかねますが……先端医療をもってすれば、治療できる可能性は十二分にあります。
けれど、完治したとき、あらかじめ≪スキン≫に定められた20余年のリミットに
改めて、
無数の遺伝子操作によって、全身がもろく真っ白い色に変わり、小児の身体で成長が止まる。
脳内には人倫統制器を通じて、個体差など考慮しない
気取ったメガネ、ダボダボの白衣、床につかんとする長髪、
「君は死ぬんだ。いいですね?」
ソフムの感極まった表情を
「よし! でも、これからもどうか悩んでほしいです。
……君は、一度きりじゃないから。
友だちの死に胸を痛めて、自分の死を苦しくても受け止めようとする君には、何度でも悩んで、本当の正しさを探してほしい。わたしからのお願いですっ」
「先生、ひどいこと言いますね……頑張って、みます」
返事をした
ソフムは照れくさそうに、左
突然、
「あっ、園外学習のときの……」
「やっと気づいた! それと、入学日ね。『なんでちゃん』、
感動の再会(?)。ところが、2人の
講義と休憩の際にはけっして流れない、最終帰宅勧告だ。
ソフムたちは≪学園≫敷地内の建屋で生活しているため、水鈴を正門まで見送ったのちに帰途へとつく。
水鈴は
2人の影が小走りに、正門へと急ぐ。廊下に差した外光の色は、眠気を誘うオレンジを
「待ってください。これをどうぞっ」
正門は閉じかかっていたが、かろうじて正門前駅方面に脱出することができた水鈴。
ソフムは施錠を目指す正門をへだてて、水鈴に1冊の本を手渡す。
「『湧き出す猫』、だからこれはっ――」
「なんでそんなタイトルか、わかりますか?
結果的にトラ猫を捨てた主人公でしたが、数年後にその
それからというもの動物福祉に目覚めて、野良猫の保護活動や里親探しに奔走するのです。
いい話ですねー。死とは死者への理解の、
「内容バラさないでくださいっ! これじゃもう、
「なははっ。どうぞ独断と偏見の感想、お願いしますっ。ではではー」
ソフムの気の抜けたあいさつを合図に、正門の柵は完全に封鎖され、
送迎車を拾うため、≪学園≫鉄道正門前駅の駅舎へと歩き出した
するとまだ水鈴の背に、小さな手を振り続けるソフムのシルエットが目視できる。
機械的に一定のテンポで見送っている。
その真っ白い子どもの
フレッシュ 石鬼輪たつ🦒 @IshioniWatatsu
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