スキン(2/2)
直後、2人の
「まずいっ。≪学園≫に行かなきゃっ! ほらしずりんも――」
衣装棚から統一制服を取り出した
しかし、すでにスウェットの下へ、統一制服を着こんでいるしずり。
「みすぅ。ぼくが死んだ日から、≪学園≫行ってなかったんでしょ。おじさんから聞いた。どーして?」
「それは、だって……こわくて」
「でも、ぼくは死んでもいなくならないでしょ。だから大丈夫」
「うん。分かってるよ。ごめんね」
首元の人倫統制器をおおうように真っ白なシルクスカーフを、きつくしぼると自室を立つ。
しずりも
リビングに、朝食の用意を済ませた
「おはよう、
「ごちそうになりまぁす」
そして、
テーブルには、しずりの死により気落ちした
その上にはチューベローズの造花、鮮やかな
「すごい量……
感心する
「それでは」
すばやく
好きなものだけ自身の手前にかき集めると、みぞおちに
それに負けじと
「2人ともいい食べっぷり! うーん、試作品だけど、せっかくだから出しちゃおっかな」
まもなく、小皿の乗った盆をもってもどってくる。
小皿にはフレッシュミートのフリッターと、青トウガラシのディップソースが乗る。
「味の感想きかせてね?」
「やった! お母さんありがとう!」
「からーい! 青くさーい! おいしー!」
「へー。じゃあぼくも」
盆の上の小皿をすぐにも
そのとき、しずりは
「ぐふぉえ」
ばちゃっ、ばちゃっ、しずりの吐しゃ物が音を立ててテーブルを
「べっ! えっ!」
他方、
なおも
ひとまず、しずりが胃の内容物をすべてポンプし終えた頃。
嘔気の余波に身体をびくびくと震わせるしずりは、何も出てこない口を
このとき、吐しゃ物が気道をふさぎ、人を殺す可能性があると
「しずりさん、大丈夫かい? ごめんね。まだ、
「いや、あはは……大丈夫です。ぼくこそ吐いちゃってすみません」
「いいのよ。
「おばさんもありがとう。ナゲット、よかったっすよ、たぶん!」
しずりは、
そして使い終わり、やや黄ばんだ布きれを、
「……お風呂入っていきなさいね?」
しずりはまだ、すりガラスの向こうで鼻歌まじりにシャワーを浴びている。
「しずりん? もうそろそろ出ないと、最初の講義間に合わないよー」
シャワーの噴水音にかき消えたのかと
しずりは足元の何かをシャワーで流しているのだ。
「しずりん、ちょっと開けるね――って、ねえ!」
戸に手をかけ、室内のようすを見るや否や
「なんだなんだっ! どうしたの、みすぅ」
「
先ほどまで、しずりのみぞおちに接する長さがあった白絹の髪。
その3分の1がすでにバリカンによって刈り取られている。2人の眼下に散乱した髪のクズが流水にただよい、
「いや、だって……髪長いと
しずりは
「そう、だけど……もっと自分の体、大事にしてよぉ」
しずりは上方から
しずりの肩をつたう水が、温度と速さを失って、
「大丈夫だって。さっきも言ったじゃん。みすぅは考えすぎ!」
しずりがバリカンを浴槽のへりに置き、
打ち身の
もしも、現存する
その事実に、『世界』は、確固たる決意をもって、次のように回答するはずだ。
「それがどうした」と。
「分かってる! でも、しずりんが傷ついたり、また急にいなくなったりするのもこわいの!」
それでもなお、
しずりはそのことを分かって、涙目の
「ごめん」と、言い慣れない謝罪の言葉を口にする。
風呂から上がったしずりは、自身の統一制服に着替え、中途半端に
「もー。帰ったら、責任とってみすぅが整えてよ?」
自虐的に笑うしずり。吐しゃ物まみれのスウェットを、透見川家の洗濯かごにぼんと放る。
「あのさ。今日は……講義終わったら、いっしょに帰ってくれるよね」
玄関で靴を
しずりが振り返る。
虚ろな目の
しずりは笑顔をくずすことなく答える。
「あたりまえじゃん! こんな髪型ぜえーったい笑われるし。みすぅに守ってもらうから」
「うん、うん! じゃあ約束ね!」
2人は、お互いに同じ長さ、同じ太さ、同じ歩幅の足の調子をそろえて≪学園≫に向かう。
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