バースデイ(2/4)
それから
自動運転の送迎車内では、ムーディーな洋楽めいた何かが座席の側面をたゆたう。
「≪学園≫鉄道、去年にはできるって(報道では)いってたけど、レールすら完成してないよね。駅ばっかばこすこできて来てさ。オセロでもしてるのかな?」
≪学園≫創設は
それを
「バス停としては、けっこう便利だよね」
「みすぅは
しずりが
「そういえば、しずりんが統一制服着てないの、なんで?」
隣のスウェット姿の変人は、そのとき真顔になり、すぐに今までの気取った子どものモードを顔に貼りつけ直した。
「まあ、おっちゃんらに何も言われなかったし、大丈夫でしょ」
「でも制服ってさ、≪学園≫に行くなら着て行かなきゃダメなんじゃないの」
「べっ、別に、忘れましたーっで通ると思うけどなぁ。『入学』はあっても、『退学』はないんだしさぁ?」
「そうだよね」
しずりの返答を聞いて、
先の
「みんな一緒だね」
違った。
その場にいる何十、百という人間のすべてが、
顔や骨格はもちろん、髪型まで同じ者もいる。似ている、ではなく同じだった。
それらは株を同じくするキノコのようにつながって見え、
人はこれらを≪スキン≫と呼ぶ。
たとえ透見川
しかし、スカーフの下の
「これから、
そこにスウェットをトッピング。
しずりが映った瞬間、群衆は
「しずりん、おかしいって!」
「誰がおかしいだ! 仕方ないでしょ、制服ないんだもん。ほら、行くよっ!」
しずりは強気に言い放ち、
「あははっ、おかしいっ!」
2人は笑い鳴きながら、ざっざ駆け出す。群衆を突っ切る。キノコの谷を
≪学園≫鉄道駅をこえて、2人の目の前には本物が姿を現した。
都市をひと囲みした巨大な円環構造物≪学園≫の大正門。
その場所は門を完全に開け放たれているが、気軽さをひとつとして思わせない
だからといってたたずんでいると、
「いててて……すごい揉まれたよぉ。ぼく、怖かったよぉ」
「ここは、どこ?」
「≪学園≫って、入ったらどうするものなの?」
いよいよ、未知のフィールドに、漂着者一同が固まるしかなくなっていた。
そのとき、建物内にパチパチと鋭い足音が聞こえ、小さなものが近寄ってくる。
「おや。もし、今期入学の
白いちんちくりんの子ども。
体躯に合わない大判の白衣。
安全靴。
床につかんとする白髪。
メガネ。
百人が百人、
「ここは
「あの……あなた誰ですか? 知らない人についていったらダメだって」
漂流者の1人が
「わたし? なはは、わたしは人ではないので
ソフムは
一同は変わらずソフムを信用できなかったが、右も左も分からない現状では、この白い目印についていくしかない。声をあげた≪スキン≫は、ソフムに同意する。
「……わかりました。お願いします」
「ほら、しずりんも行くよっ!」
円環状の学舎は、構造物としての明快さと引き換えに、ブロックごとの移動に時間を要し、
新入生の
「悲惨だね……」
「毎年こうなのかな」
教育棟を目指す≪スキン≫たちのだべり。
これを聞いて、ソフムが後頭部を揺すり、左耳に食い込んだプラグをもてあそびながら笑い声を上げる。
「なははっ。もはや恒例行事ですよ。なにぶん、一都市一学舎であるばかりか、よその都市からの転入受入についてもかなり積極的でして。来年は死者が出るかもしれないです。――そんな話をしていたら、着きました」
教育棟の看板が一同を出迎える。ソフムは
「教育棟では、教室に入る際、ご自身の人倫統制器による照合が必要です。しかし裏を返せば、照合さえすればいいのでクラスという概念はありません。お好きなところでよろしくやってください。まあ、どのみち修了課程に差異はないですし、教室を選んでも意味はないですし、同級の友を選んでも時間のムダですし、ですし……ええ、本当にお好きなところでよろしくやればいいのです」
「えっ、そんなテキトーな……」
「ちなみに、スウェットの君」
ソフムは、学舎に紛れ込んだ変人を指さす。
指さされたしずりは
「それは?」
「あ、すみません、制服忘れちゃって」
「いけないですね。
ソフムは変人を職員棟まで連行するからと、苛立ったようすのまま一同の前からてちちと立ち去る。
小さな歩幅の白い後ろ姿はなかなか遠ざからず、水鈴たちのなかに何とも言えない気まずさが立ちこめた頃。あの果敢さの≪スキン≫が言い放つ。
「そ、それでは……みなさん、クラスメートになりましょっ!」
自ら発言することもはばかられる雰囲気の中、一同の誰も拒否しますと口にすることはできなかった。
後ほど、ソフムから解放されたしずりも加わり、水鈴は漂流したメンバーたちと数日間を同じ教室で過ごした。
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