リプレイ(2/4)

 丘陵きゅうりょうの工業地帯。

 道路のわきは背の高い柵と鉄条網でおおわれ、歩道もなく道幅も狭い。


 屋外に、デマンドバスの車窓からながめる学生たちの心のあまりを満たすものは、果たして目的地へ着くまで何もないままだった。


 セキュリティ設備を通過し、工場の足元に降り立つ一同。大勢のソフムが学生たちを囲い、正門までのルートを誘導する。



「ようこそ、愛玩用ウイルガ型≪スキンプラント≫へっ!」



 威勢の良いあいさつとともに、工場入口で水鈴みすずたちを出迎えたのは、水鈴の両親――と同様の、第一世代バーナム型≪スキン≫だ。


 愛玩用ウイルガ型≪スキン≫と大きく異なる外見であるため、社会に属する者であれば瞬時に見分けがつく。


 第一世代≪スキン≫は、ぶ厚いブルゾン丈のベストを羽織り、社員証を首からさげている。

 の横にソフムの1体が近寄り、学生たちに紹介する。


「こちら当工場の主任、透見川うおせ 農定ときさださんです。前回もお世話になりました」

「あっ! パパぁ! パパぁ? 何してるの!」



 名前を聞いて、第一世代≪スキン≫が父親と知った水鈴は顔いっぱいに喜びを表出させ、彼のどうに飛びついていく。



「水鈴。今日は、透見川うおせさんだぞぉ?」

「ちがうでしょっ。なんで、今日のこと言ってくれなかったの?」

「いやー、しずりさんのゲーから、伝えるタイミングなくって……」



 父親の言い分を聞いて、水鈴がさっとしずりのほうを振り返る。


 しずりはばつが悪いという表情を浮かべて「さ、サプラーイズ! ……なんつって」と言い、お茶をにごした。


 そのようすに、水鈴はふっと微笑じりにため息をつき、父親から離れる。



「まあいいや。パパのお仕事、やっと観れるんだし。今日は一日、よろしくおねがいしますっ!」



 それから、すでに工場のセキュリティシステムより承認を受けている水鈴たちは、形式的な入場証をはじめ、一切の装備を身にまとうことなく着の身着のままで≪スキンプラント≫の内部へ立ち入った。


 ≪スキンプラント≫の内装ないそうそのものについて、肉片やつるりとした液体が、通路と設備に所々ところどころ取りついた光景が平均的に広がる。

 しかし、これをのぞけば、無意識の想起するステレオタイプとは何もかけはなないザ・工場的空間といえる。


 工場の各作業場では、何十体ものシンプルなデザインの≪スキン≫が、せわしなく働いていた。



「皆さんも≪学園≫で学んだと思いますが、念のためのおさらいです。≪スキン≫は、『あるもの』の体細胞を採取して作られた完全なクローンで、産まれるまでを人工子宮の中で過ごします。ではその、『あるもの』とは何でしょう?」



 製造ラインまでの道中、水鈴みすずの父親がクイズを出題した。

 

 すると学生たちはしゃぎ回って一斉に挙手をする。

 子どもたちの誰もが、この世に無慈悲むじひなひいきなど存在せず、自身に順番が回ってくるものと信じてうたがわない純真さを、水鈴の父親にアピールしている。



「はい、水鈴さん」

「≪スキンルーツ≫です!」

「正解! じゃあ行きましょっか」



 出来レースだった。

 水鈴の父は、学生たちから飛びだすブーに付き合わず、まっすぐに

≪スキンルーツ≫の膝元ひざもとへと学生たちを連れて行く。


 水鈴たちの頭上に、巨大な肉塊にくかいが現れる。


 肉塊は培養ばいよう液に満たされた水槽の中で細かな根をり、水鈴たちがまばたきをする間隙かんげきにびくびくとからだを蠢動しゅんどうさせる。



「この都市まちにいる愛玩用ウイルガ型≪スキン≫は、全部この工場で作られています。これが、皆さんの『本当のお母さん』ですよ」



 水鈴の父親の言葉を聞いた水鈴たちは、ひどく感心した表情になり、水槽にただよう肉塊をいとおしげに見つめる。


 そのとき、水槽の中にブレードのついた採取さいしゅが飛び込んでくると、肉塊の一片を切り取り、持ち去っていく。

 水鈴は「すごい!」と言ってその場で飛び跳ねた。

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