sexy dynamite
チャプター4 インク(1/2)
当年限りの基礎課程を修め、
生涯クラスとは読んで字のごとく、愛玩用≪スキン≫が生涯にわたって決められたテーマの研究を行う、≪学園≫の中心的プログラムだ。
(もっとも、ここで挙げている「生涯」とは、現在の≪スキン≫が死ぬまでの期間ではなく、研究そのものが意義を
生涯クラスで行われる研究成果のすべては、人類の
≪スキン≫に
なかでも優秀であると認められた技術については、将来の人類存続につながることもあり、全世界の第一世代が、愛玩用≪スキン≫の可能性に注目していた。
そして、時を同じくして、歳月をへることに劣化以上の意味がない≪スキン≫の
「
水鈴の母親がしっとりとした声で問いかける。
はっとした顔を浮かべる水鈴。銀紙からショートケーキの生地をこそいでいた手を置いて、母親の顔に向き直る。
「あっ、うん。水鈴は生物科にしたよ。生化学だけじゃなくて、動物の歴史とか
「うんうん。おもしろそうなのはいいことだっ!」
少量のアルコールに酔った水鈴の母親は臭気をまとって、ウリウリと水鈴の小さな身体をかわいがる。「お母さんおさけくさーい」と口先だけの抵抗をして、母親からもみくちゃにされる水鈴。
父親が混ざりたそうに2人を見ている。
「あ、まぁた
突然、温度のない声で水鈴の母親は水鈴へ物申す。
はじめ、水鈴の顎先ほどの長さだった
過度な長髪は女性のステレオタイプの典型であり、ソフムをはじめとする
水鈴の母親は監督者として、水鈴のメンテナンスをしようとしているに過ぎない。
そのとき、水鈴は小さく強く「イヤ」と答える。母親に代案を供する。
「髪、こうやって編み編みすれば……ほら、短くなったよ! これならいいでしょ、ね?」
水鈴は手短に編み込んだ三つ編みの髪型を、両親に見せる。
たしかに長髪ではなくなった。
ただし、魅惑的な装飾の
「えっ。ちょっ……お父さん、いいのこれ?」
「うーん……いいんじゃない? うん、いいよ。パパは、かわいいと思う」
うろたえる水鈴の母親。
彼女――≪憲章≫への絶対服従を
またさらに「かわいい」と評された水鈴は、にんまりと笑って、父親に「ありがとっ」を返した。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
新しい髪型をして、
生涯クラスの教室がある研究棟へと歩みを進める。
途中の教育棟にて、今年度の新入生≪スキン≫たちが起こしたいくつもの
もはや、≪学園≫の日常と化したやりとりに、危険な安らぎを覚えていた。
水鈴の暮らす都市の≪学園≫生涯クラスは、生物科のほかに都市開発科、情報科を加えた計3学科が存在する。
しかしながらその実情は、他都市の≪学園≫とは比較にもならないほどに小規模であり、生物科以外の学科の通算成績についていえば、「落第生の受け皿」と呼ぶにふさわしい。
生物科は当該都市において、
始業。
わずかに遅れて、≪学園≫のエリートたちを束ねる教室の長が、威勢よく扉から入ってくる。
「おはよう、エゥッリートな諸君。先生が来たんじぇね!」
パチパチと軽い金属めいた足音がやがて静止する。
安全靴に、白衣姿の白いちんちくりんの子どもが、教壇の前に堂々と立ちふさがる。
≪学園≫生物科における、教育と研究を一任された
通称、ソフム。
「と言いつつ、今日は気が変わってさ。別に先生をお呼びしているから、君たちもいっしょに楽しみながら勉強するんじぇね」
ソフムのもったいぶった導入を経て、本日
≪スキン≫が、教室に姿を
「≪
つめたい声で名乗った彼は、合図なしにつらつらと自身の業務、そして≪インク≫の基本知識について話し始める。
要約すると、次の内容だ。
・≪インク≫とは、
≪スキン≫を短時間で生み出すことを可能とした技術だ。
・≪インク≫の開発が、現代の≪スキン≫社会の大いなる発展に
――これらは愛玩用≪スキン≫からすれば、「決まった場所で用を
水鈴たち学生は、針塚の話を、徳がない念仏のように考えていた。
「ほいほい、
針塚による解説を、白い長い髪を振り乱してソフムが途中でさえぎる。
「今日はせっかくイイモノ持ってきてくれたんだし、こっからは実験じぇね!」
「あっはい……ええ、本日は、≪インク≫による効果を体感してもらいたく、こちらで試験用の人工子宮をご用意しました」
「君たち、5つの
すかさず、ソフムが廊下に飛び出す。
そのちんちくりんの身体で、教室へ運び入れてきたものは、台車に乗った5台の人工子宮のカプセルだ。
ガラス材とおぼしきその
中には、子宮
学生たちはソフムの指示に従い、各自判断で計5つのグループを作った。
目の前に、ソフムが次々人工子宮のカプセルを設置していく。
カプセル内の子袋はしぼんだままだ。
「先生、これどうやったら子どもが
「あ? もうその袋に入ってるんじぇね!」
学生の1人が発した安易な質問に対して、ソフムは不用意に強い語気で、投げやりに返答する。
「いちいち、なんでやかんで
「あの、そのプリントってまだ配られてないですよ?」
「あっ」
学生に指摘され、ソフムは目を丸くする。振り返った教卓には、当該プリントが差し置かれていた。
ソフムは赤面し、「ア、アナログなのが悪いんじぇね!」と叫んだのち、各班へプリントを配りに、てちちと走り回る。
ついでとばかりに、これも配布しわすれていた教材用≪インク≫の入ったカートリッジも学生へ手渡した。
教室内に、学生たちのくすくすという笑い声がきこえる
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