第10話 初公開?異歴図書館
「なんで学内の作業ロボが地下に潜ってくるんですか…?」
美しいをつけ忘れてます生徒会。
それくらいは、みんなに意外なことらしい。
「会話はできますか食堂のロボット」
『現在業務中ですが、なにか御用でしょうか』
普通に応対してる。
優秀である、最近の技術。
作業ロボとは言うが、見た目かなり人に近い小ぎれいなメカである。
まんまメイドのような長髪女性の体と服で、下半身はスカートだが内部は車輪という風体。
今まで配膳する様子しか見ていなかったが、人と会話しているかのような違和感のなさに驚きを感じざるを得ない。
「この危険なダンジョンに来るのが業務なんです?」
『図書館の清掃も私の業務ですので、そうなりますね』
「……よく壊されないでずっと通ってたな」
いや、実際よく壊れて何十台も作られて今の形なのかもしれないが。
と、言うよりも、だ…なんで会話の役は俺なんだ。
内出屋くんは疑問に思うが、まぁそこはいい。
「とにかく、今はこの奥、戦闘中で行ったら助からないから、戻るべきだ」
『状況は確認しています、そして、私の使っているルートではないので問題はないです』
「…いろいろ諮問したい話が一気にきすぎだ」
『お話だけでは時間が足りませんから、図書館でわたくしめの業務のついででもよいでしょうか、その質問』
言って、一同の休憩場所から少し進んだところに給仕ロボットが石をかざす。
そこの岩場そのものが消え、道ができる。
しかも舗装路のような奇麗なものが。
みんなでそこを進み、少しするともう、出口。
このメンツでは生徒会と魔法部以外は見ているだろうが、見ることは生徒ではほぼない、異歴図書館の入り口ドアである。
みんな、謎と言うよりも驚きで言葉にならない。
「使ってたルートは曲がりくねったり上下していたから、これが最短なのか…」
『さようですね、あそこで兄弟に挨拶するのも楽しくはありますが、お互い業務優先でしょうから』
知ってると言ったり兄弟という単語が出たり、このロボの言葉の意味がずっとさっぱりだ。
もちろん行動も。
その掃除と言うのも、誰に頼まれたのかをもっと知りたい。
「本当に来ちゃったねぇ…」
センパイも、思ったよりも面食らって驚きの声を上げる。
「告げる、来訪したるは永劫なる深淵に触れる異端なる理を求めるもの。応えよ…求めるものの名は、城戸咲。神聖なる地の美しき主に知恵と答えを求めしもの」
『告げる、来訪したるは汝がしもべ。止まりし空気に流れもたらすもの。盟約を果たす日のため今一度その扉開かれんことを。求めるものの名はソメイヨシノ=ハナ』
センパイとロボが、扉に片手を触れてそれぞれに唱える。
これがないでいきなり開けると死ぬより怖い何かがあるらしい。
そして、唱えても自分で開けてはいけない。
死ぬらしい。
『すぐは開きません、先にこれを下ろしましょう』
言ってロボが背中に背負ったものを下ろす。
大きめの荷物のようなもの。
それについても聞きたかったところなのでちょうどよかった。
割と振動に気をつかって静かに置き、中を開く。
「…え…後輩…?」
「何事ですかこれ!?」
中に入っていたのは、探検部の部員。
しかも裸。
眠っているようにして、祈るような姿勢でみっちりと箱に収まっていた。
「ほら男子~!こっちくんな!!!」
人払いされ、魔法部、ぱんつ、先輩の三人で箱の中にいた部員の着付け、蘇生等を行う。
蘇生?
「おはようございます…あれぇ、何で人がいっぱいいるんですかぁ?」
「お前がなんでいるんだという話でしかない」
「きっ…貴澄さん!!」
内出屋君の名前だ。
この呼び名がたまらなく内出屋くんには違和感なんだが、直らない。
「いやですね貴澄さん…こんなとこまで私に興味が…」
「ないですよ」
「「またまた」」
センパイとかぶるな。
「どんな状況でこんなことになったんだ」
津保玲穂(つほれいほ)。
探検部の部員として、内出屋君の少しあとに入った一年生で、それでいて活動にはほぼ一切参加しない、たまに資材調達の伝票整理で見る程度の存在。
じょせい。
内出屋くんにとっては、見ると常に顔が赤い影の薄い部室のなにかでしかない。クラスも隣。
会話しようとしても逃げられるからだ。
…だが、こう見ると先輩とそこそこ仲がよさそうに見える。
いつの間になんだろうか。
「…とにもかくにも、この不思議な運ばれ方に疑問でないわけないじゃないか、だから……」
言い終わる前に、ゴゴゴゴと言う音が遮る。
玲穂は先輩の陰に一目散に隠れ、すんなり話す気はないらしい。
『許可が出たようです、お入りになりたい方はどうぞ中へ』
「唱えた人以外が入ると攻撃されたり…は、ないのかい!?」
『あの方に初歩の抜かりはないと確信しておりますので、開ける前に人が何人いるかは確実に見ております』
「そ、そうか」
疑念が晴れないが、確信まで言われるとさすがに。
ロボのあとをみんなで付いて入る。
本棚にずらり並ぶ本。
山のように積まれた本。
浮いている本。
本だけでなく浮いてる宝石なのか光だけなのか見分けのつかない物体たち。
ガラスの円柱のようなものも稀に見えるが、そこに見える植物、生物はその場にあるのか伺い知れず、見たこともないもの。
まさに異界と呼ぶべき空間、異歴図書館。
『フロアマスター、今のこの世界の情報を追加します』
そう言い、ロボが手持ちの石をその辺の光に触れさせる。
一瞬、さらに光ったと思えばすぐそれは消え、一冊の本がその場に落ちる。
…意味を理解するのに、これだけでも数年かかるのだろうと内出屋くんは思う。
「よき働きである。今後も変わらぬ姿勢であるとよいな」
「どこから聞こえてるのかわからない…まさかテレパシー?」
興奮する魔法部。
たしかに耳から聞こえている気はしない。
「訪れたからには、ほかも暇つぶしに足りる話は土産に持っておるのであろうな、矮小なるものたちよ」
「小さすぎて最近おいしかった食べ物くらいしかないですかねぇ~」
「センパイはどうしてそこまで物怖じしないのかな…」
「知り合いは友達だよぉ後輩」
「であるな」
この王様か何かと言う威圧感にこれで馴染む胆力は素直にすごい。
「自警団と生徒会はココ自体には用はないんだっけか…魔法部はあるんだよね?」
「あとうちの新人がわざわざ来た以上、何かあるのでは?」
「のぁ、お客さんが先と言うことで、魔法部~?」
「き、緊張しますね…あの、彼の傷ってすぐ治せるような何か、ありますか…?」
「意外な切り出しだな」
魔法部、自分のせいで何か起こしたとずっと気にしている模様ではあったが、そこまでとは。
固定して見た目大けがだが、当人は何とも思っていないのが異常?
それは間違いないが。
その状況を知ってか知らずか、探検部の途中追加人員、玲穂は地味に細目で魔法部をにらんでいる。
「そんなのは見る分にはすぐに回復するであろう、手間をかける意味などはあるまい…それだけなのか」
「それと、うちの部が暁の公爵ロマの召喚に失敗して儀式の途中で放置になっていまして、成功させる方法をお伺いしたんですが」
「……こいつ殺していいやつか」
「ダメデスヨー」
いきなり。
そんなに、図書館の偉い人が殺意を持つようなこと言ったのか?
「それじゃあ、わざわざ来たうちの新人は…」
「気にしていただいてありがとうございます!」
…なにもないようだ。
「他に何もないなら僕が一つだけあるんですが、もしかするとここの入り口を撮影したり配信した人をご存じないですか」
「…それはそこのしもべに聞いておけ。我は急に忙しくなったので、もうここは閉めるのだ」
「急だわねえ」
『作業もなくてよろしいのですかフロアマスター』
「しばらくはいらん、上を見張っているがよい」
『承りました』
「それとだ…」
一同の目の前に、人影が姿を現す。
「女性…?」
「怪物!?」
「生き物なんですか?」
様々に何か、相容れなさそうな反応がある。
思うに、まさか見る人によって見えるものが違うのか?
後で確認してみてもいいだろう。
内出屋くんには、大きなローブを頭からかぶった、腕だけが見える動く布のような姿だった。
途中で鏡のようなものが通り過ぎていくが、その鏡に映った姿はあどけない少女として映っている。
なんなのだろう、これが図書館の管理者なのかすら、怪しい。
「おぬし、対処ができるならひとまずこれで止めろ」
魔法部に、それが本を一冊渡す。
「一度止めないと続けられないという意味…なんでしょうか」
「死にたくはなかろう」
「そりゃそう……ですね」
「わかったら立ち去るがいい、おまえたちを相手にできん場合がある」
「急だなぁ…本当に他に誰も何もなかったの?」
「生徒会としては聞きたいことはあったんですが…まぁね抜け駆けだからいいですよ」
「無礼を働いた輩の一団には、それの頼みでも恵んではやらぬからな」
「だそうで」
生徒会、上の世代で嫌われることをしたのだろうか。
それとも、この会計だけなのか。
そのまま、バタバタと追い出されるように扉を閉められる。
なにか成果があったのは、結局のところ魔法部だけ。
後は、待つか、帰るかしかない状況となったわけであるが…。
「このロボに聞けというようなこと、言われた気がしたけど…」
「配信のことで何か知ってるの?」
『大体のことは存じていますが』
「「「え!?」」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます