第9話 困ったときは生徒会へ?

 銃を持っている手が食いちぎられた。

 まず出血止めないとな…でも警棒まで手放したら全身くまなく食べ物にされる。

 先輩がすぐに来ても、あの人のメインが散弾だから、襲ってくるセッソクマダラを遠くから足元狙ったりするのは無理だ。

 散弾でこっちがむしろ大目にダメージ食らう。

 だとすると、何をするのが今一番なんだ…?

 内出屋くんは精一杯考えた。

 何にせよ、呼び寄せているかもしれない頭のライトを取り外すことすら今はできない。

 実質詰みである。

 さらに、出血のせいか、少しふらついたとたんに自分の振り回していた警棒の重さに振られてこけた。

 まずいにもほどがある。


「…つれぇ」


 少し、終わりを覚悟した。

 そのとき。


「3歩分だけ頭の側に移動できますか」


 確かに聞こえた。

 必死だった。

 何でもいいから、遠ざかろう。

 幻聴でも、やるだけやらないと、と。

 相変わらずセッソクマダラは増えて向かってくる。


 もう遅い…!


 そこに。

 銃声。

 いくつもの、どうにも何丁も連発するような銃声。

 セッソクマダラが吹っ飛ぶのが見えるが、それで処理できない数が寄ってきている。

 しかし…。

 来ない。

 何かの壁があるかのように、足元をちょっと離れた場所から、寄ってこない。

 なんなのだろう、この状況は。


「こんどは、全身固定して全く動かないでくださいね、数秒でいいので」


 はっきり聞こえた。

 考えるだけ頭がめぐらないので、そのとおりに従順になる打出屋くん。


「…はい、傷口の断面を遮断しました、出血はちょっとの間しないでしょう」


 何を言っているのか。


「誰ですか?ここにいるって、相当危ないと承知できているのか確認しないと…」

「…もちろん。 生徒の行動と規律を守るのが生徒会執行部です」


 は?

 言葉に真後ろを振り返る。

 本当に見た顔だ。

 そう、牢屋の中で見た、そう、後ろのほうにいた…。


「執行部会計、淡ノ美勇気(たんのびゆうき)…ま、知りませんよね名前までは」


 居たのは覚えているが。


「いやぁ、それにしても、命を懸けて必死に私の命令で体を動かすあなたの姿…美しかった、命の輝きの極みと言える」


 思い出した。

 語尾にずっと美しい美しい付けてたやつだ。


「せ、生徒会全員で来てんですか」

「いえ、会長は今日華道と着付けの座学とクラシックのリスニングと暗記、あとテーブルマナーの予約で予定が週で一番立て込んでまして、副会長も付き添いで同様ですから来れません」

「…生徒会って何するところ…なの…」

「実務は分担すれば事後確認で済む期間なので、こちらを今回私が担当した、と言うことで、生徒会からは私一人です」

「いや、銃声が今もしているんだけど…うちの部員から聞いたことない連携整った感じの」

「あれらは、私たちは関与しないことで今回平和に終わろうと思っています」

「何かは知ってるわけなのか、関わらないけど」

「その通り、美しい判断力で」


 会計の思考回路が、打出屋くんにはわからない。

 ただ、今敵対していないのと、不思議な何かで助かっているのは間違いない。


「そうだ、止血して…腕取ってこないと」

「必要なんですか?」

「なくなったら片手でしょうが!」

「痛みとか、死にそうな恐怖とか、そういうのより先に気にするには奇妙かと…」

「…ま、そうかもしれないですね」

「後輩、そういうのにドライと言うのか、妙に場慣れしたような、変な行動するよねぇ」

「探検部が荒事多すぎるせいじゃないですかねぇ」

「そうかなぁ?わたしはそこまで戦場メンタルしたことないけど?」

「この状況の人間を見ながら日常会話できるだけでも、なかなかの場慣れと思いますよ、美しいクイーン」

「そういう呼び方やめようか…」


 いつの間にか、見えないところから先輩もこの場に合流したようだ。


「た…たた、探検部!!痛くないの!?怖いよ!血がすげえよ!なんなのこれ!」

「…これが、本来平和を味わっていた人の心からくる美しい反応ですよねぇ」


 会計の反応もよっぽどだが、魔法部、宇塚まほだけは打出屋くんの姿にすごい心を痛めて取り乱している。

 先輩のところに行けて、ここで合流し、大けがなどはないのだろう、よかった。

 内出屋くんは、そう思いながら切れた腕の付け根をリュックからやっと取り出したひもで縛り、救急キットから局部麻酔を取り出し無針注射をぶちこむ作業をしている。

 軽口をたまにきく以外そこそこ無言なときは、ずっと布を口にくわえて悲鳴を出さないように顔をゆがめていた。


「助かりました生徒会の人、失血で気絶しなかっただけまだ気楽だわ」


 起き上がり、たぶん前進して腕を取りに行こうとしている内出屋くん。


「これ!これ飲んで探検部!」


 口よりも、頭からかけるように何かを魔法部が持ってきてぶっかける。


「…まっず」

「うちの部の本来持ちだし禁止のエリクサーなんだから我慢しなさい!」

「貴重なものを、それはどうも」

「私だって死にかけじゃないと自分では使わないって気持ちでもってきたから、使う予定じゃなかったんだから…もう」


 涙目で言われたら、そこからいきなり責めるわけにもいかない。

 効いているかはわからないが、気持ちは嘘じゃないと感じた。

 だからいい。


「侵入口まで戻っていただきたい!全員動けますよね!?」

「わかりましたよ上の人」

「ほいほい、行くよ後輩」

「あの腕…」

「なんとかなる!」


 とっさに聞こえた、また別の声。

 上の人?

 と思って上を見ると、天井からぶら下がっている人間の姿があった。

 まさか…。

 そう思っても、今は会話している場合ではなく、一度その指示に従う。

 そうして…数分かけて道を発見し安全圏へ。


「はい、お探しの腕ですよ」

「ありがたいですが、何か頭を下げにくい気持ちがちょっとありまして…聞いてくれますかね」

「こっちも、顔、合わせづらい気持ちはありますよ、そりゃ」


 天井からぶら下がって何かしらの行動をする…その姿に覚えがあり、姿も全く同じ。

 口元などを布で覆い、黒ずくめでニンジャを思わせるような…学生なのか、部外者なのか。


「で、そっちのパンツの方に関してなんですが」

「パンツって二度と言わないでよバカ!」


 行き帰りを邪魔されて、内出屋くん。も思うところが大いにある人物。

 配信の話の首謀者とも思える奴にやっと会ったのだ。

 少し言葉にトゲがついても、立場からは致し方ない。


「こちらが何か気に障るようなことをしたようで」

「しましたよ、と言うよりですね、僕の名前で配信するのはさすがに」

「それは彼らではありませんよ」


 黒服その2が紳士的な対応をしようとしているところを、生徒会がフォローしている。

 どういうことだ?


「私たちはその…学校の自警団のようなもので、独自にこの学園の守秘義務と生徒の命を守ろうとしている独立組織…に近いものでして」

「風紀委員や生徒会と別に?隠れている感じでもなく堂々と?」

「ま、風紀委員が特別執行官や学内公安委員会などと、どんどん強権を持とうと動いていると、彼らのようなのを置くほうがましと言うときはあるんです…美しくないですけど」

「生徒会が裏で指示している組織でも…ないのかこれ」

「存在と状況は把握してます、歴代ずっとね…だから事実上我々は今話していても、何も証拠は残しませんし、見ていないフリをします、それが現状のお互いのルールです」

「面倒なのがまた…しかも見た目から変なのが」

「変なのはそっちにはかないません」


 折り合いが悪いのがまた増えた。

 しかし、なんでそんなのが必要だというんだろうか、この学校。


「だいたい生徒会だって変ですよ?なんですかその異能バトルみたいな超能力」

「人の気にしているところを抉るのは美しくないですよ探検部」

「魔法部だって、何か騒ぎが大きくなってたらしいし…」

「なんでもいいから早く帰ろ…?腕、手術しないと無くなっちゃうか死んじゃうよ…」


 魔法部は、落ち着いてからずっと泣きじゃくって話があまりできない。


「帰るのですか?我々が先導できますが」

「なら生徒会と魔法部は連れてってくれたら助かるよ」


 内出屋くんがさらりと言う。

 黒服その2とぱんつ…いわゆるその1は、それを黙っては受け入れない。


「探検部が一番留まるのに問題がありそうですが?」

「経験は一番あるはずですよ?遮断とか宙に浮くとか、変な力はそっちほどないですが」


 言いながら、内出屋くんは持ってきてもらった腕を手に取る。


「先輩、おにぎりちょっとすり潰してくれます」

「もうやってるぅ」

「助かります」


 一同、「?」が浮かんでいる。

 切れた腕の断面を見て、少し顔をしかめた内出屋くんは、貰ったおにぎりを手に持ち、足で腕の切れ端を固定して塗り始めた。


「余計なことしないで早く…その治療…うちでも出せる薬探すから…」


 一人だけわかりやすく、一般っぽい反応は心安らぐものがある。


「こんなんね、雑に治りゃいいんですよ」

「大事ですよね探検部」

「後輩、いつもこんなんだしなぁ」

「くっつきゃ治りますってこんなの」

「……デンプンのりで……?」


 そのまま自分の切れたところに持っていく。


「あて木で抑えて、こっち固定して…」

「いや、神経や、筋肉や、断裂しているところを見ないでそれは後からやりにくく…なりませんか」

「テーピングでいいよ」


 適当にもほどがある。

 そうして、このお菓子な行動を眺めていた一同。


「ほら、指動いた、完全にくっつくまでは不自由ですけどまぁこれでいいでしょ」

「ほんとだ…」

「なにこれ」

「美しいかは微妙…ですか?」


 なんでだろう、当たり前のようにおかしなことが行われている。


「これ以上変なことは起こさないでいいですから、俺はとりあえず、ここまで来たら例の配信の疑惑晴らします」


 お前が一番変だよ!!

 一同、心の中でドン引きしながら叫んでいたのは言うまでもない。

 

 そして結果、そこで誰も帰ることはなく付き合うことになる。

 思惑もあるが、図書館への通路が大戦争なのだ。

 その警告も含めて、これからその配信の犯人が向かったら危険なので止める役もいる。

 少人数で帰るのに怯えるものも、納得しないのもいる。

 なら、仕方ないから全員で。

 そんな理由だ。


 そして…しばらくの時間が経ち…。


「なんか来たよ」

「今度こそ犯人か…全く、手間かけさせるよ」

「いえ…あれ…人ですか?」

「え?」


 見えたもの。

 一同、みんな一度は見ていたそれ。

 学食にいた、あの配膳ロボだった。

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