DAY 30
ワープホールが繋がってから、一か月が経とうとしていた。
無機物については、繰り返し移動実験が行われたが、ワープホールを通過することにより、成分変化を起こした物質は確認されていなかった。
「よし!次の段階に進もう」
有機化合物の移動実験が始まった。
紙や木材など移動させてみた。ワープホールを通過したことによる変化は見られなかったが、時間の経過と共に影響が現れる可能性があった。
ワープホールを通過した有機化合物は経過観察を行った。経年劣化を考慮に入れ、ワープホールを通過することによって、影響を受けたと断定できるものは見つからなかった。
現在、ワープホールは直径一メートルほどの小さな穴だが、将来的に巨大なワープホールを維持できるようになれば、物質の輸送に劇的な変化をもたらすであろうことは容易に想像できた。
有機化合物の移動実験の成功を受け、最近の神崎とアーデーンの関心事は、「何時、有機体、すなわち動植物の移動実験を開始するか」に移った。
「植物については、直ぐにでも始められます。問題は動物ですね?」アーデーンが言う。
「ええ。特に、動物実験は慎重の上に慎重を期す必要があるでしょう」
「ワープホールを通過させた後、一定期間、経過観察が必要でしょうね」
「はい。経過観察を行う場所を確保しなければなりません。暫く様子を見て、変化がないか確認しましょう」
「明日から植物の移動実験を始めましょう」
「分かりました」
こうして、植物の移動実験が始まった。
ワープホールで繋がっているとは言え、植物が日本とオーストラリアの間を移動することになる。当然のように、実験には動植物検疫が必要となった。感染症や病害虫を持ち込んだり、相手国の生態系を破壊したりするようなことがあってはならない。
検疫官の立ち合いのもとで、植物の移動実験が始まった。移動させる植物は相手国の事務棟に設けられた検疫センターで検疫を受け、厳重に管理されることが条件だ。検疫センターはシールドされ、検疫官と限られたスタッフ以外、立ち入りが禁止された。
花束状態のものや、鉢植えされた植物が続々とベルトコンベアを通して移動された。
「ああ、綺麗だ」色とりどりの花々は実験で疲れたスタッフの気持ちを和ませた。
ワープホールを通過することで、異常が見られた植物はなかった。後は経過観察だ。検疫センターに一定期間放置して、異常がないか確認を行う。
一週間毎に一度、計四度、四週間、経過を観察する。
自然に枯れた植物はあったが、経過観察で異常が見つかった植物はなかった。無論、検疫で問題となった植物も見つかなかった。
「植物も問題ないようです」
「いよいよ動物ですね」
四週間後、神崎とアーデーンは動物の移動検査について、相談を始めた。
「単細胞生物から初めてみましょう」
「微生物を使って、ワープホールを通過することによる、生体への影響を調べてるのですね。何時から始めますか?」
「ここまで来たのです。焦りは禁物ですが、出来れば明日、明日から開始しませんか?」
「明日からですね。やりましょう」
「先ずは、どんな単細胞生物を移動させるか、相談しましょう」
こうして、移動実験はいよいよ動物実験へと移ることになった。
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