第6話 選ばれし勇者

「そっちは、“血祭”圭吾に、“役たたず”」だったかな。

うちの“魔女”をマッチングアプリで呼び出してどうするつもりだったんだ?」



パーティちゃんまつりさんは、ぼくを小突いた。


「なにか反応しろ。」


「ああっ! それは大丈夫なのだよ、“血祭”クン!」

オカ研の岡さんが言った。

童顔で、大きなメガネがトレードマークの彼女は、学校でも有名人だった。

ただ、今回の疫病騒動がおきるまえの話である。

「わたしと、“役たたず”くんは、けっこう前から深い仲なのでね。」


「そうなのか? ハルアキ。」

パーティちゃんまつりさんが、気持ち悪そうにぼくに尋ねた。


いや、そんなに女の子の趣味は悪くないぞ。

童顔、メガネっこに、巨乳の霊能力遮断。

属性盛りすぎで、好きな人には、たまらんだろう。


「深い仲って?」

「DMしたら、一日以内で返事がくるくらいの仲だ。」

「それが深い仲なのか?」

「自慢ではないが、わたしには、一日以内にDM返すような相手は、こいつしかおらん。」

「あ、ぼくもですね。」

「それは、なんというか……」


姫柊さんが、ため息をついて首をふった。


「あまりにも、寂しいキャンパスライフだな。」


「まあ、そういうことだよ。

わたしもまったく相手が分からずに、出かけたわけでもないし、目的はわかっていた。

“一緒にここから出かける相手”。」



「わからないですね。」

パーティちゃんまつりさんは、腕を組んだ。

「出かける…情報収集は必要でしょうが、闇雲にここから出ても危険なだけだ。

どこに、なにをしに行くんです?

うちの役たたずと、そちらの魔女は。」


「ここにいてもじり貧なのは、分かでしょう? 血祭先輩。」

カオンさんが、パーティちゃんまつりさんを睨むようにしながら、言った。

「映画でも、サブスクの連続ドラマでも、そろそろ、血清やらワクチンが登場する頃ですが、そんなもの、ただの大学生のわたしたちにつくれるはずもない。」


「それについては、わたしの責任かなあ。

これでも、薬学が専攻なんで。」

オカ研の岡さんは、うなだれた。

「せめて、教授たちが生き残っていれば、違ったのかもしれないが……いや、電力を絶たれて機材も動かせんでは一緒かなあ。」


「いや、世界トップの科学者でもいないと無理だよ、そんな展開は。」

ぼくは、オカ研の岡さんを慰めた。

「それに、オカ岡さんの説が正しいのなら、これは薬じゃ解決できないんでしょう?」


「うむ!」


なんで、そこで元気になるかな、コイツは。


「まさか、この疫病はじつは、疫病ではなくて、呪いの伝播だという説は。」

「はいはい、わたしわたし。」


オカ岡さんが、手を挙げた。


「わたしは、こう見えて研究者としては、普通の学生なのだが、霊能力者としては、、かなり知られた存在なのだよ。」


「そこは、天才科学者であってくれないか?」


「贅沢を言うな。」

オカ岡さんは、ムッとしたように言った。

「童顔、メガネ、乳デカイ、しかも霊能力までもっている。これで天才科学者だったら、キャラが渋滞し過ぎるわ。」


「相手は疫病だぞ。どう考えても霊能力しゃより、科学者のほうが頼りになるわい。」


「わたしも血祭の意見には賛成だ。」

姫柊さんが言った。

「だが、ないものを欲しがるより、あるものを有効に活用するべきだ。」


「うちの魔女は、バケモンなのだよ、血祭くん。」

オカ岡さんは、どうみてもそういう、手つきで、カオンさんの腰からお尻の当たりを撫でた。

いや、撫でようとしたのだが、カオンさんがすいと、体をうごかしたので、オカ岡さんの手は空を切った。

「あのな。音音は、これまでに感染者に二回噛まれている。」


ぼくと、パーティちゃんまつりさんは、視線をかわした。


そんなことはありえなかった。


噛まれれば、それが致命傷であっても、腕や足といった生命に関係の無い部分であっても、遅かれ早かれ、噛まれたものはゾンビになる。

噛まれたことで死んだものは、ご丁寧に一回死んだ後で、ゾンビになる。


「つまり、うちの音音には、感染者どもは脅威にならないんだよ!

なので、彼女の東京行きをサポートしてくれるものをさがしていて、そうだ、“無敵会”の無能くんならどうかと思ったのだよ。」


「魔女さんひとりでじゅうぶんでしょう?

うちのハルアキは、足でまといですよ。なにしろ役たたずですから。」


「そうかな。血祭どののコミュニテイでは、感染者の始末をほとんど、“役たたず”に任せているはずだが。」


「それにしても、感染がきかない異世界のチート勇者のサポートに回れるほどではないさ。」


ぼくは、黙って、ぼくの得物、バールを突き出した。カオンさんは、愛用の鉈を取り出し、ぼくのバールに触れさせた。


「当人同士がいいと言ってるのだから、ここは。」

やたらに首を突っ込みたがる親戚のオバサンの笑顔で、姫柊さんは言った。

「ふたりに任せましょう。」



「出ていくぶんには、止める権利はない。」

パーティちゃんまつりさんは、ムスッとした顔で言った。

「だが。これだけ、死ぬ事が日常になってる世界でも、ダチの自殺は止めたいと思う。

なぜ、どこに行くのか、くらいは教えろ。」


「これは、わたしの仮説なんだが」

姫柊さんとカオンさんに促されて、オカ岡さんは、説明をはじめた。

「これは。まるでいままで、わたしたちが見たようなゾンビもののように、発生した事態だ。」

日は落ちていて、差し込む月明かりをのぞいては、カフェのなかは真っ暗だ。


オカ岡さんの、体も影の中に沈んでいた。



「だが、そうじゃない。」

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