死骸
白兎
死骸
これは私がまだ幼い頃のお話です。ある時、玄関の三和土にネズミの死骸が置いてありました。幼い私にはそれがとても不気味でしたが、家には大人は居ませんでした。誰にも言えず、ビニール袋に入れてごみ箱に捨てました。幼い私が一人きりで家に居るのも、今では信じられませんが、とにかく私はいつも一人でした。当然、父は仕事に行っています。母は? 仕事だったのか、だいたい家には居ません。この頃の私は、たぶん、小学校の低学年だったと思います。一人で居る事も慣れていて、都会でもないので家は鍵もかけずに、玄関は開け放たれたままなので、誰かが勝手にネズミの死骸を置いていくことも出来ますが、そんな嫌がらせなど無意味です。一体、なぜこんなものがあったのか分からないのです。
そんな事があって、また数日後、今度は蛇の死骸が置いてありました。状況は同じです。開け放たれた玄関の三和土に置かれているのです。私は嫌だなあと思いながらも、それを袋に入れて捨てました。一体、誰が何の目的でこんなことをしているのだろう? 特に怒りはなく、ただ疑問に思っていたのです。こんなことがあったのに、私はその事を大人には話していませんでした。
その当時、家には飼い猫のミミと言う名の白い猫がいました。飼い猫と言いながらも、家の中で飼うスタイルではなく、外で自由にしています。そして、時々帰ってくるのです。蛇の死骸が置いてあった日から、数日後の事、ミミがネズミを咥えて玄関から入ってきて、三和土にそっと置きました。そして私を見て、何か言いたげな顔をしています。
私は首を横にゆっくりと振りました。ミミの気持ちは嬉しいけれど、私はそれを食べられないのだ。きっとミミは、獲物を捕る事が出来ない私に捕って来てくれたのだろう。
その日以来、死骸が玄関に置かれることは無くなった。
死骸 白兎 @hakuto-i
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます