第九話

    二十三


 見えない心に従うことは、人間としては愚かなおこないかも知れないが、そんな些細な事実が、此の世を変える気がした。

 ふたりは、

『眼に写るものがと云う、うさぎの心境を観察することが可能ならば、視てみたい』という、蟠りに気付いていた。

「僕は今まで、記憶は一時的に必要だから行っていたが、記憶に導かれる物語とは、恐れ入ったよ」

「云われてみればそうよね。私が関心を示さなかったことが、実は繋がっていたなんて、眼から鱗が落ちるとは、まさにこの事よね」

「堕ちることと、落とすことをあい間見えさせたのが地獄ですから、行って観ましょうかね」

「見せたいものでも、あるのかしら?」

「もしかして?」

「湯川秀樹氏ではなく、野口英世氏の本心ですよ」

 うさぎは云って、思念を送り込み、装置の行く年代を定めた。

「支配神は四弟さんですが、えにしや情けを毛嫌いする、閻魔大王は初志貫徹主義者ですから、実体は装置の中に措きますので、静かに電磁籠に納まっていて下さいね」

「逃避できないのか」

「逃亡? 子供じゃないんだから、従わないとばちが当たるわよ」

「どちらも可能ですが、心と脳の疎通が切れると植物人間になりますから、注意して下さいね」

「それでも、君が居るから、戻ることも可能なんだろう」

「馴染むための時間は、とてつもなく永く感じます? その苦痛は、人間の小ささに気付けますから、天空の織姫と彦星の想いを理解できるはずですよ」

「天の川伝説を必要とするなにか?でも、教えたいのかしら」

「伝導? 電磁波の基礎となれば有難いのだが、違うようだな」

「伝導に気付いたのならば、第二次世界大戦の終戦から、百年の節目を迎える近未来に起こる災害が、空襲や爆撃の反響であることを予測できますからね」

「そういうことだったのか? しかし、当時を知る生存者が少なくなった今では、その恐怖心も薄れているだろうからな」

「ちょっと待ってよ。衝撃波は消滅するから、失くなるはずよね? 百年の時を経て、反響するなんて、教わってないわよ」

「数を減らすから、実体は少なくなっていますが、非実体の神々様や悪魔たちはその力で分裂して残っています。れに、地獄で処罰を受けている魂も居ますし、宇宙の中心 (玉手箱と云われる天国) に存在する、永遠となった権化様たちも、高みの見物を決め込んでいるはずですからね」

「だとすると、戦争の影響が、末代の災いになることになるな」

「災いの被害者たちは、先祖たちの悪しき行いによる被害者だったの? いくらなんでもそれは、酷い仕打ちになるわよ」

「因果応報? まるで、祟りと云うしかないな」

「だから、地獄の詮議が過酷を極め、永い粛正を受けると云うわけなのね? でもさぁ、そうなると、輪廻転生説はどうなるのよ」

「ひとつだけ解らないのだが? 仏様たちも、輪廻転生するのかな」

「産まれた時点で心が存在しないのは、記憶ができないことで解りますが、本能で確認するなかで選択肢が生まれますから、後から備わることが理解できます。後の祭りでわかる様に、降臨することで、補整の意味が生まれます」

「神童?と、呼ばれるのは、どうなるのよ?」

「神童か。だが、早熟が永続きしない理由は、選択ミスによる踏み外しが例をすのではないかな。そう考えるならば、早熟とは、化学反応のなせるわざということにもなる」

「運の尽き? なんて云われることがあるくらいだから、閃きなのか?と、想って居たんだけれど、化学反応の存在は、相性の良し悪しじゃなかったのね」

「具体的な想いは、後で纏めるとして、今回は、実体を装置内に置いて行きますので、観たものを記憶に刻むことに心掛けて下さい」

「良かろう! 記憶力勝負?と、云うことだな」

「記憶力勝負? 勝算のない勝負を受けるわけにはいかないわ」

 こうは云い、尻込みを抱いていた。

 うさぎが微笑みかけていると、マイが足元にすり寄っていた。


 うさぎの呪文で念に変化した一同が、量子に取り込まれるように大気に馴染み、地獄の境界線を越えて行った。時間軸が違うことで、得体の知れない恐怖心が一同に生まれ、それが違和感を生じさせ、心細さで張り裂けそうになりながら、地獄の本土へと渡って行ったのであった。

 眼に映る光景は、本人の思想がもたらす観点でしかなく、その観点は空想化するしかなかった。それでも、話して措かなければ、接点が生まれないので、うさぎの語りということを承知して欲しい。


 大木たいぼくの枝が分かれるような分岐点の間にあるのが、関所であった。


 第一の関所は、衣服を矧ぎとる関門であった。霊魂となった生命体の意識がもたらす錯覚? を、捨てさせるその場所は、人間という個体ですらも捨てさせるために存在する。


 第二の分岐点に存在するのは、遺伝子という受け継ぐ記憶を捨てさせるために存在し、想いという感性や、個性という資質を剥奪されるのだ。


 第三の関門の先にあるのが途であることから、現実という認識を捨てさせて、無心にされるのである。そこに主観は存在せず、客観という観点も存在しない。そこに存在するものは、現代社会でいうところの、空虚ということだった。


 関門で取り上げられたが、ふるいという天秤にかけられるのだが、その量りとなる対象物の理念は重く、指針を揺らすことはほぼない。ほぼという表現をしたのは、地球史のなかで、指で足りるだけの数回の揺らぎが存在したからである。その数回が、人が神に成り上がった実績となり振り撒かれたから、都市伝説が生まれたのである。


 第四と第五の関門を人間という生命体が通れないのは、神(非実体)の管轄と共に、生後の間もない時間に喪われた霊魂のためにあリ、言葉の使用ができない生命体を識別していた。(第三までに、天秤を揺らしたは第四関門に進み、揺らさない[ 霊長類 ] が悪意を秘めているとされていた)


 やっとの想いでたどり着いたのが、詮議という結果を告げられる場所であった。運良くという表現が烏滸がましいのには理由があり、関門は十三箇所あり、五臓六腑を通過する仕組みの詮議場から先が、処刑地であった。地獄とは、現代社会でいうところの、刑務所だったが、受刑者のように、休憩や食事のための中断は存在しない。その先は、点のような扉があるだけであった。その扉が開く(大きくなる)と、二名と一匹は、装置?と、錯覚するほど似ていて、眼を疑った。

 うさぎは、野口英世の魂が浄化を受けている場所にそよぎ寄り、疎通を敢行した。うさぎ口から流れた彼の詞は

「臨機応変を好む発想は、先生の感性の方が向いている。僕の感性には、野心と云われる雑念が多く、調子の良し悪しが結果に結び付く感性を、忌まわしく想っていた。だから、得たいの知れない細菌が繁殖する地域行きを志願したんだよ」

 その時に、監守の見廻りに気付き、帰還を余儀なくされた。想い想いに魅了されていて、軸の違う時限装置の中に取り込まれそうになっていた。

 ふたりと一匹は、うさぎの詞で我に帰り、呪文に導かれるように反転し、来た道徳みちのりを逆行して、実体の待つ装置の中に帰還していた。

 うさぎは安堵の笑みを携えて

「永い人生を経験する人間だけが、詮議を受けるわけではありませんから、歯痒い想いをさせて終いました? よ・ね」と云った。

 血の気のひいていたこうは

「教えてよ。無音の魅惑を、怖い? と、想ったのは、五感を奪われたから、なの」

「眼に焼き付けるしかない状況を理解できるとしたならば、死を受け入れたことになるのかも知れない。まだ死んだことの無い人間に、死を受け入れさせるために魅せるとするならば、それこそが、罪の意識ではないかな?」

「そうですね。人は、死んだ気になれば、なんでもできる?と、云いますが、それこそが、罪になるはずですからね」

「そうじゃない! 私たちが云いたいのは、何もかもが無い状態を、生きている人間が受け入れることはできない、ってことよ」

「そうだ。現実社会に身を措くから、生命体だろう。いつか? という誤差の範疇があるとしても、今、必要では無いのだから、・・・」

「現実が冷徹と云われる所以ゆえんは、人間の甘えを戒めています。西暦という基準は、イエス様を基準にしていますが、それよりも遥かに前から地球は存在していますし、宇宙にしても始まりから存在しているんですよ。簡単に云うつもりはないですが、153億年の経緯が経験ですから、従うことに意味が存在するのです」

「無? ってことでも教えたいのかしら」

「もしかして、当たり前にしてしまったことへの罰? とでも、云いたいのか」

赤瞳わたしは、高校を中退する際に、現実に見切り? を、つけました。その時に幽体離脱したのが、徘徊の初体験でした。その記憶を忘れないために、折に触れて想いかえしています」

「それが、冥界の徘徊とどう繋がるのよ」

「地球上を五大陸と云いますが、アトランティック大陸が存在していれば六大陸になりますし、ムー大陸を別物とすれば七大陸です。神々は、ギリシャ神話では六兄弟ですが、その繋がりを模索すると、隠された一神が居ることにたどり着きます。ガイアと云う女神様が基礎と視ると、トーナメント表のようなあみだくじになっていますが、ウラヌスの弟のようなプロメテウスが出現する理由が存在しますから、違うトーナメント表があることを示唆していると考えましたからね」

「地球というガイアが、ウラヌスという宇宙を必要とした理由があるとすれば、一員という仲間意識を必要としたわけ? としたかったのかも知れないわね。でもそうなると、一員ではない理由が必要なんじゃないの」

「量子という境界が生まれた理由かも知れないな。そうなると、光の紫外線ガンマー波などを反射した理由は、生命体を守るための手段だった?となるはずだよな」

「絶滅した理由や、沈没理由は、どうなるのよ?」

「地核の運動で出た熱が、生命体を造りだした?と、綴っていたはずだ。噴火したマグマの成分は、冷えた後で採取するしかないが、単細胞の胞子でも含んでいた?と、云うんじゃないかな」

「地球の始まりは、宇宙空間に漂うゴミ(素粒子)の合成と綴っていたわよ。ゴミの集合体でしかなかった地球に、化学反応チャンスを与えたのが、熱(地核の運動によりでた熱)ということなのね」

「どちらもおなじ境遇でしたから、起死回生の事実を造り出した?(熱による化学反応) ということです。それが示すものは、ビッグバンの前に起こったはずのスモールバンにも考えられ、神が先か? 元素が先か? という疑問を、与えられました。今はそれも名残りになって終いましたがね」

「名残り? その時にだした答えは、どっちだったのよ」

「? もしかして、死を選択していたのか」

今際いまわふちから帰還できたのは、三女神からの想い? だったのかも知れません。ですが、隠された一神に当たる、閻魔大王を震い立たせたのは、想いがマグマやマントルの波を越えたから、衝撃波が波間に隠れたのです。いびつを造り出した点は、ゆがみから発生し、衝撃波となり流れを造り出す。元素の執念が概念となりますから、赤瞳が神々に敬意を著す意味を含ましたことで、云わずもがなたどり着けたのです」

「と? 云うことは、恨みが怨念に変わる化学反応を、元素に気付かれた?と、したんだな」

「だから、人間を形成する元素は善意と悪意を含むことから、数億個の集合体と綴ったのね」

「元素の合成が造り出した原子も、今は分子となって多様化を極めています。その観点を弁えると、父となったウラヌスが隠された一神でもあり、オジのプロメテウスとの両極だとすれば、地獄という空間が宇宙の様相をしても当たり前であり、熱を必要とする化学反応とすれば、隠れ蓑になっていても、不思議ではありませんからね」

「もしかして、私と、マイの会話を気に掛けていてくれたの?」

「宿世? 僕の宿世とも結びつけたのか。それを、選択肢を突き詰めたと、表現したんだな」

「チャンチャン?と、終らすために必要なのが知恵のはずだから、人は考える葦という宿世なんだもんね」

 マイが囁いたので、うさぎは微笑みながら、マイの体内に帰還して行った。呪文は静かに唱えられ、現代への帰途についていた。


 世の中に不思議なできごとがあるが、なんらかの形で、繋がりをきたす。

 博物館に纏わる曰くのもとは、たわいもない話が多く、接続するものが多過ぎて、一筋縄には繋がらない。

 人の歴史も、人口に比例するから多いが、繋がりは必ずあるはずで、その組織図に皺寄せが寄れば引っ張られ、阿弥陀あみだくじになり落ち着いた、ということになる。

 追い風や向かい風?を、地表上と考えれば、 威力として流れるのも当たり前になるし、衝突すれば向きを変え、旋毛つむじ風となる。試練しょうがいぶつを人の頭脳あたまとすると、力関係で大小ができることにも、辻褄があうはずだ。

 視る位地にしても三百六十五度あり、潜在意識によるいろ眼鏡メガネで視ていることに気付くならば、観念も自由に羽ばたくというものだ。脳にしても潜在意識に左右されるから、概念がてられないのだ。

 多様化する社会が求めることは、過去のいわくに左右されない自由な発想を求めるはずだし、それを行うことを、革命と位地付けているはずだが、手に入れたものを投げ捨てることは、なかなかできないのだろう。重ねたものが身に積まされることで重石とならないから、自身も振り回されて終うのだ。


 経験を活かすことは、繋がりを強靭にするはずだが、バトンやたすきのように軽くなれば、意識への伝達までも妨げる。想いが眼に映らないことを弁えて、言葉で捕捉して欲しいのだが、育った環境という背景が違うことで、上手くできないものである。ただ、時間の効力で気付けるのも人間であり、冷静さは必要不可欠となるのだった。

 ふたりの口数が減ったのは、想いに従ったにすぎなかったが、理や理論という難しいことを抜きにして、経験が重石となろうとしていた。

 

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