第五話

    十一


「ねぇ? マイ」

 マイは、こうに名を呼ばれ、『心境の変化でもあったのかしら?』と考えて、マジマジと見詰めていた。

「詞にしないけれども、合格なんだよね、私」

「そうね? 忠告の中から選択出来るようになったから、一人前と認めるしかないわね」

「ならば、次の旅から、同伴を認めてもらうからね」

「ガリレオを演じた同志なら、知恵の補充には合格だけど、知っての通りガリレオさんは処刑去れたから、生前には行けないし・・・」

「身の危険が発生するから、結界で研修でもするのかしら?」

「その強気な発言は、勾玉の効力に気付いたからだよね」

「そうね、授かる理由が死ということに疑問はあるけれども、異世界紀行なんてものは夢物語にロマンを抱くのが男の子だから、説き伏せるのも簡単なはずよ」

「解ってきたみたいだね?」

「なにを?」

「男性といわなかったのは、純真を理解したからでしょう」

「まあね。そこにある天の邪鬼を赦すはずだから親しみを込めて、名前を愛称にしたんだからね」

「そんなことだろう? とは想っていたわ」

「だったら、今宵はお開きにして、研修日程の相談をしておいてくれないかな?」

「? なにが魂胆なのかしら? それでも、やる気を削がないために、偉人たちの意見を訊くわ」

「どのくらい掛かるの?」

「なんでよ」

「この部屋に異性を引き込むんだから、色々段取りが必要になるからよ」

「ならば、ラスボスに次の相談もするから、神々の理にちなんで、八日目の晩に来るわ」

「???」

「パパラッチ対策なら、男性の家からの移動もあり得るけれど、装置の絶対条件は人間の眼と撮影の禁止だからね。その意味は、解っていると想うけれども」

「了解よ」

 マイは、こうの返事を聴いてから、おもむろに消えた。

 こうは「呪文は、念仏でも良かったの?」と、口ずさんでいた。帳に抗うように用意したワインに口を着けた刹那に、夢の中に堕ちていた。眼に映らない心の消耗具合を、それで気付くのだが、簡単に当たり前にはできそうもなかった。



    十ニ


 こうは、エントランスに空いた人間に見えない落とし穴に堕ち、結界に遣ってきていた。

 マイは話す間も惜しむように装置に乗り込み消えた。行き先の予測は付いたが、始めて参加する者をどうやって引き込むのかに興味があった。

 福山氏は、マンションの自室に行くために乗り込んだエレベーターごと装置に乗っ取られて、結界に遣ってきた。開いた扉の先は異世界? と認識したのは、情報処理能力の高さを示していた。

「いらっしゃい?」

 こうの詞に反射的に踏み込んだ福山氏は噺を訊いていたことで、冷静を謀るつもりでいたが、瞼をパチクリさせ、出迎えた元人間たちの眼には、心ここに在らずに写っていた。

「噺は訊いてると想うけれど、いきなりだと、挙動不審は隠せないわね」

 マイは、落ち着かせるためか、ゆっくりと話し、様子を伺っていた。

「此処が、結界? 高低差がないから、杜と云うことか。実に面白い!!」と演じると、

「君が演じているのは湯川氏だろうが、鎖国という形で出遅れた以上、死に物狂いに詰め込んだ学識に粗があることは否めない。それを隠すための距離感が天才肌と云うべきだろうが、機転が逆効果効を生み出したのか、不安な心が居場所を失くして終ったようだね」

 ニュートンが口を挟んだのは、ガリレオに粗筋を手解きさせるつもりでいたからだ。

 ガリレオは応えるように

「処刑という時代背景がもたらした儀式に打ち負かされた心が置き去りに去れたから、足踏み状態を迎えたのが歴史に纏わり付く曰くとなったんだよ。日の本の國にとってそれは、追い風となったから、学識が目覚ましく発展している。しかし、争いで慢性化した感性は、本来の姿を見失っていることにも気付かないから、ノーベル財団が手を差し伸べたに過ぎないのだよ」

「俺の残したものに手を付ける者がいないのは、道徳ではなく、理念の違いからだよ。お山の大将にしてしまった節があるから、日の本の國の見識がずれているのかも知れないな?」

「それが民族性ですから、影の悪意に振り回された結果とも云えます」

「と、赤瞳は云ってるが、おふたりにはおふたりの考えがあって当然だから、蓋をせずに話しなさい。結界を造った意味は、本音をさらけ出すことで、争いを回避できるはずという初心を重んじているからな」

 福山氏は、こうの勾玉が変換する翻訳に耳を傾けながら聴いていて、頭を動かさずに視界だけで、状況を判断していた。

「赤瞳が居ても、初見さんを気遣うことのできない貴方たちの傲慢を晒しているから、本人にとっては、格差に感じて終っているわよ」

と、云いながら姿を顕した卑弥呼に向かって

「あの女性がラスボスの女神様よ」と、こうが助言を加えた。

「それは君が、若き日のニュートンさんに云ったことだろう? 偉人みなさんは、尾ひれを知らないはずだから、注意点を教えるつもりで、詞を発しているのだろうからな」

「自己紹介が必要なら、女神ジクを呼んでも良いわよ」

「ねぇ、マイ? あの女神様は誰なのよ」

「彼の成長を見届けた三妹さんよ」

「女神さんが和(日の本の國で、神語のわを倭とするのは、聴き間違いである。)を護る理由があるとしたら、それが宇宙の理念ですから、次妹さんと、娘の理性さんも居ますが、錯覚する人間の眼で追うことはできないんですよ」

と云ったうさぎが、福山氏に近付き、胸元に手を翳した。福山氏の胸元に勾玉が備え憑いていて、手を放すと

「死ななくても、勾玉を授かることができるじゃない」と、こうが喚くように云った。

「神々が管轄する場所では通行証でしかないですが、勾玉の効力とは本来、活性のバロメーターなんですからね」と、うさぎが説明すると

「彼が云うんだから、それが真相なんじゃないかな?」と、マイがこうと福山氏に告げ口を入れた。

「マイはペットなのに、もと飼い主に敬意を示さないわね」

 三妹は人間とペットのを知らぬ振りをして見せた。

「自由を満喫するのが猫だから、思惑に振り回されたくないんでしょうね」と、卑弥呼が云ったのは、古代ギリシャに措ける曰くを教えるために誕生させたクロネコを詫びた節を因んでいた。

 その都市伝説を聴き噛った?マイが口を挟みたくなったのは、因縁に目覚めたからだったが、研修の意味に絡みのないことで、噺に進展はみられるはずもなかった。

「女神さんの誰かが、夜目を与えたからでしょうけれども、神の眼や神の手という部首は、必要に応じて継承しています。問題は、地獄耳で解るように、悪魔に渡して終った神の嗅覚と、人間が持て余した第六感の行方ですからね」と、うさぎは繋げる術を心得ていて、やんわりとさせるために、枝と導いていた。

「持て余した結果、刺すような恐怖感になったと云うの?」

「女神さんたちは人間を盾にしないですが、男神さんたちは平気で盾にします。日の本の人間が情けに厚いのは、女神さんたちの導きに応えようとしたからです。そこから生まれた義侠心を持ち続けると約束したのが上杉謙信公で、軍神と呼ばれる所以ゆえんとして、兜に標としたのが毘沙門天の毘なんです。ほぼ無敗で終えた争いも神憑っていますが、女神さんたちは回避を望んでいることを知ったから、身を引いたのです」

「歴史に遺されていない理由はなに?」

「神の恩恵を持ち得なかった秀吉が、自分本意に歪曲したからでしょうね」

「だから産まれに因縁があることが解るようになりました。彼が爪弾きに遇ったのは、心の奥底に悪意や欲を隠したからです」

「それを説明の内とすると、人間の見えない心が持つものが、善意と悪意を兼ね備えている? と、するのだな、実に面白い」

「まぁね、御伽噺と受け取るか、与太話と受け取るかは、個人の感性に委ねるから、現実が想い通りにならない理由と、分析できるからね。当面は、慣れ親しむことが重要で、実態を置いて徘徊できるようになった暁には、徐霊もありにするつもりだけれど、いきなりできない理由は、身の危険を案じた結果ということなのよ。けれども、人間の思念で回帰するには骨が折れるから、回避の糸口に繋げる、貴方の機転が重要になるから、参加が了承されたのよ」

「猫のマイは夢先案内でしかなく、異世界に踏み入ると、匂いにまみれるらしくて、私たちの心に宿る神々さんが、身体を奪いに来る悪霊を成敗するみたいなのよ」

「成敗? 死に神が地獄に連れていくのだろう」

「それは、仕組みに従わない悪霊を回帰するためで、懲らしめることは、罰になるらしいのよ」

「ならば、僕たちが罰を与えることもアリとなる。思念の強さよりも、ひれ伏すことを目的とすれば、現段階でも良くないか?」

「肌を刺す恐怖感に征服されたなら、貴方は悪魔になるだけよ。人間の正義感と云うものは、人間同士で発揮できても、神々や悪魔を手負いにできないわ。神々と悪魔の死闘は生命を消す争いではなく、征服権を巡る争いなのよ」

「それが神々の自尊心ならば、実に下らない」

「貴方の意見に同意したのが古代人だから、神々を抹殺して終ったのよ」

「抹殺? さっきは回帰できないと云ったではないか」

「実体を終わらせましたが、此処に存在して居ますから、回帰したことにはなっていません。そして、同じ非実体の霊魂になった時に、恨みを返されるから、従うしかなくなるのです。福山さんが潔白を主張しても、影で泣くものを生み出している事実が存在していますから、従うしかなくなります。それを人間たちは理不尽と云ったから、苛まされるこの世が出来上がったのです」

「君が授けたこの勾玉があれば、僕は輪廻から逃れることになると訊いたが、それでも従わなければならないのかな?」

「だから、マイは彼に恩義を返さないのよ?」

「もっと拡げると、うさぎ氏は、神々を尊敬していないとなるよね? それは、綴られた物語を読めば理解できる。僕の学識は未だ素人レベルかもしれないが、目標が定められれば、追い付くことは間違いないし、必要になる時間の制約がないこの場所は、僕にとっての楽園と想えたから、経験してみたくなったのだからな」

「ガリレオさんも来たばかりの頃は、同じようにささくれていたようです。福山さんが努力を惜しまなければ、想像通りになるはずですから、頑張って下さい」

「ひとつだけ、ワシにも云わせてくれ。剛は折れるだけだが、柔は耐えることで存在を強める? と云う格言があるようだが、完成されたものは居場所を失くすが、協調と云う柔を教えてくれたのが、赤瞳だったんだよ。あの傲慢の塊の六弟ゼウスでさえも、今は温和に目覚めているからな」

「赤瞳」

「何ですか、卑弥呼さん」

「実体を此処に持ってきて、福山氏の標になりなさい」

「必要在りませんよ。福山さん賢いですから、見本や手本なんて必要としませんからね」

「僕もそう想う。経験がもたらす効力こそが、時間であることを知っているからな」

「では、こうさんとマイに追従して下さい。赤瞳わたしは、命の危険を察知した時に顕れますから、安全は保証します。しかし当たり前にしていることが窺えたなら、罰を逃れることには加担しませんから、承知して措いて下さい」

 うさぎは云うと、マイに憑依して、時間移動装置に飛び込んでいた。

 今宵の徘徊は記念に残るだろうという好奇心が、一同の心を踊らせていた。



    十三


 何時ものように

「ねぇ? マイ」

 マイは、こうに見向いたが、疑問の趣旨に見当が、なかったから、応えを詞にしなかった。

「さっきの説明中に想ったんだけれど、神の眼の効力を勾玉に仕込んだなら、わたしたちは自らのちからで、危険を回避できるのではないかしら?」

「選択肢を間違わない経験は、どこに置いて来たのよ?」

「経験?」

「正確に云うと、人間の判断では、ことの善悪を秤に措くから、境界線が曖昧になって終っているのよ。例えば詞とすると、主張する意味は、個性がした判断でしかないはずなのに、押し通すから、傲慢になるのよ。見えないものと隠したものが存在すれば、顛末は天地ほどの差が生まれることを知らないんだからね」

「それを、作者が僕に教えようとしたんだな」

「身をもって体験しなければ、糧にならないからね」

「糧? 面白いことを云う。糧を使った意味は、人間を形成するものを終わらせないために摂取するものを差している。ならば、大事なことは、食事ではなく、栄養素となるはずだからな」

「だとしたならば、新型コロナから身を護ったのは、ワクチンであって抗体ではないことになるはずよ。人間の血に含まれる記憶なんてものは必要ではない? と、云いきれる学識が、貴方に在るならば、教えてよ」

「今はまだ、ない。だが、教えてくれるならば? 調べる努力は軽減される」

「ニュートンさんや、ガリレオさんは、生涯を通して明かそうとしたわ。彼はそれを、志と観たから、愛おしく想ったようよ。日の本の國に、爪の垢を煎じて飲む、と云われる風習があるのは、見えない垢を煎じることで、見えない化学反応を期待したから。同じように見えない目標に印を付けることで、見えるものとして生み出す効果を期待しているはずよ」

「その想いを発表した作者が爪弾きに遇ったのは、現代人に良識がない? とでも、云いたいようだな」

「そんな魂胆を持つ編集者が口にする詞を鵜呑みにするのが実社会だから、流行り廃りに忙殺されるんじゃないかしら? 神々が口にする詞や文字が、化学反応を興して、消える現象を知らないから、理不尽になっているのよ」

「理?不尽と云うのだな。その表現を道理になぞると、不公平が生まれる理由にはなるな」

「だから人生を、物語と云うのね」

「確か、必要とされる話しならば、海をも越えると、綴っていたよな」

「日の本の國が必要としたから、海を渡ったことになるわね。でも? 必要とした理由はなんなの」

「源氏が殿様になった理由? と云うことかな」

「卑弥呼さんが台頭したと云われる弥生時代より前には、マリア様だったと綴れているし、ギリシャ神話のヘスティア様も、神話の初めしか登場しない理由と関係があるんじゃないかしら」

「興味深いや、湧くと云われるのは、折りにつけ心を見直すことを差しているわよね。キリスト教で懺悔する理由は、過ちがなかった? という確認を強要しているわよ。強要を教養とするならば、學ぶことで切り開くのが運命であって、煩うことを患うとすれば、終る理由と考えるしかないわよね」

「そういう変換ができるから、日本語が神語に近いと観れるのか」

「でも、現代人だけでなく、古代日本人の詞にしても、消えたことはないはずよ」

「だから、悪意に勝てない? と、考えたならば、善と悪の三角関係が見え、ユダヤ民族が、日の本の國を目指した理由になる。六弟ゼウスに嫌われた民族ならば、ヘスティアという女神様に助けを求めたと考えられ、日本を目指した理由となるのだな」

「その國の体たらくを証明しているのが、爪弾きの現状ということなんだよね。さぁ、着いたわよ。疑問がなければ、出発するわよ?」

「一緒に出掛けるつもりなの?」

「彼がいないと、ふたりの安全が確保できないからね」

けむりにならなくても良いのね」

 こうは云い、笑顔で飛び出して行った。

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