第二話    

     四


 当たり前の日常に戻りつつある? 

「ひとつだけ? 忠告して措いても、良いかしら」

 マイが、こうに向かって発すると、手に持つグラスを玩ぶように揺らしながら、こうは不機嫌を装い、着席して見つめ返した。

「曖昧な基準でも、提示してくれるのかしら」

「異空間を繋ぐ装置だから、誰かの記憶の中であることは解った、と想うけれども、それを悪意にして終うのが、人間の感性なのよ」

「私に責任を押し付けるつもりならば、回避するために、ランダムにした方が、良いのでは?」

「貴女が悪意に受け止めた? としても、彼は至って真面目に計算しているはずよ」

「だとしたならば、あなたがそれを説明するべきではないかしら」

「誤解があったなら、謝るわ。でもね、恨みが怨念に変わる切欠なんて、人間に理解できないでしょう? それなのに人間は、幽霊が出た? と悪態をついたり、騒ぎたてるよね」

「恐怖を感じるから、条件反射とも云えるし、基本的に見えないものだから、あたふたするのではないかしら」

「だったらなぜ? 不貞腐れるのよ」

「理由なんて知らないわ? 人間の情緒がそういうものだからなんじゃないのかしら」

「幽霊になった理由を知りたい? とは、想わないことは解ったわ。けれど、獣のあたしには見えるから凝視するし、その想いを知るために、行動するんだけれどね」

「例えばそれが事故死だったとすると、あなたには解決できないよね。そうなると、知る意味は興味でしかないし、関わることで取り憑かれるかも知れないのよ。その結果、悪いことが続くのならば、遣ること事態がマイナスを負うことになるからね」

「取り憑く? 貴女を護るために降臨する神と、なにも変わらないよね? 例えば怨念に取り憑かれたとして、怨念が貴女の身体を乗っ取るには、支配している貴女の脳か心の支配権を取ることが必要になるのよ」

「支配権を呪縛で拘束して、機能停止におとしいれると、想いのままに動かせるはずよね」

「貴女の云う呪縛は、人間の条件反射すらも、できないようにするのかしら? あたしは猫だから、金縛りにあったことがないけれど、貴女は金縛りにあったことがあるような口振りね」

「あるわよ」

「呪縛が機能停止だったとしても、脳の支配権は渡してないから、金縛りと判断したんじゃないのかしら?」

「そうなるわね?」

「貴女の概念が、死者を甦らせた空想そのものを、現実に持ち込んだだけでしょう?」

「そうなるよね?」

「だったら、彼の云う創世というものが、感性という非実体となるんじゃないかしら」

「内部破裂が造り出したものが、元素という物語に繋げたい訳? なんだね」

「それを、あり得ないという権威たちは、お他人様を否定すればするほど、地位を高めたように云われているわよね。それを天地に当て嵌めるならば、見えない神と、見えない地獄の悪霊たちが、逆転していても、気付かないわよね?」

「見えないから、そうなっていることもあり得るわね」

「例えばその逆転に、必要なものがあるとしたならば、それはなんだと想う?」

「??⤵・・・」

「貴女は今、魔法か呪文を想像したんじゃないのかな?」

「そうよ」

「どっちにしても、詞にはそんな力が備わっていないことを知っているから、口に出せなかったんじゃないの?」

「???」

「だったらそれが科学反応としたならば、どうなるかしら」

「科学反応? どうあがいても、私は彼に云い負かされる運命? ってことなのね」

「科学者がずるいのは、自分の想像の中に疑問を残さないからで、勝手に変換しているのよ。それが、眼に見えるものになれば、一般人は太刀打ちできなくなるんでしょうね」

「ズル賢い意識イメージはあるけれども、人間のためになる発明をする科学者の方もいるから、勝手なイメージだけは持たないようにしているわ」

「そう、科学者にも善人と悪人が居るからね。善の科学者が造るものが文明を発展させるし、悪しき科学者が造るものが、この世を終わりに導くのならば、この装置は間違いなく、文明を発展させるはずよ」

「その理由は?」

「見えない空気と同じ様に漂う悪霊を、浄化に導くんだからね」

「悪霊と云い切る基準が分からないけれども、最初の意識イメージが変わってきたわ」

「だったら、本来ならば退却するんだけれど、朝まで? 貴女にこびりついでに、噺相手でもしようかしら?」

「帰るつもりだったの?」

「あたしが活動する夜更よふ早更さふは、もののけたちの活動時間帯なのは承知しているわよね?」

「丑三つ時と云われることは知っているけれども、その関連性までは知らないわよ」

「猫は家に懐くと云われることから、家の随所に名を残していることは知っているかしら? 解ると想定して云うけれども、敵対するものに取っては、厄介極まりない存在なのよ」

「敵対? それは、人間にとってとは限らないよね?」

 マイは少し悩んでから

「エサをもらうから、飼い主のためと考えてみて」

「解ったわ」

「死なれては、生きていくことに不自由が生まれるから、悪霊を近付けない効力というのは解るはずよね」

「あなたの云い分だと、悪霊はもののけ限定になると想うけれど。悪魔とは本来、人間に対して悪事をはたらくとなるはずよね?」

「貴女の得意な例えで云うならば、生け贄にされた者の死後に抱く恨みという感情が怨念に化けたものでしかないわ。事故死だったとすると、猫に犬、カエルなどの両生類や虫にまで及ぶけれども、生命体の心に当たるんじゃないかしら」

「そうなると、斬り倒された樹木もあるし、人間が口にする野菜まで拡がるわ。それら総てとするなら、この世は恨みで埋め尽くされるわよね」

「それら総てを量子と過程すると、量子の隙間に存在するが元素となり、高い場所に分布するが、存在する質量比率により上乗せとなる。という循環があることが解るわよね」

「一般的に必要ならば、教育か躾か分からないけれども、すべての生命体が知っているはずよね。そこに獣だからと云ったところで、意思の疎通が完了していない限り、相手の気持ちを理解出来るわけなんてないんじゃないかしら」

「ほら、理解できない気持ちにたどり着いたでしょう」

「?」

「たどり着けるのに解らなかった理由があるとするならば、テストという管理体制が生み出した術となるはずよね。そしてその術は、反抗物質を取り除くために必要とされたのよ。だから、若い命が消えても、誰の責任にもならないし、政府が乗り出して、相談出来る窓口が出来上がったの。税金を配分するだけの官僚たちが、身を削ったからなんだけれども、教育委員会の重鎮たちは信用を落としただけで、なにも失なっていないのよ」

「でもそれで、教師たちは、地獄の日々から、解放されているわよね?」

「同じように流通業界も万年人手不足状態だから、事故もなくならないし、建設業界も、過労死から、逃れられなくなっているのよ」

「化石燃料という文化の象徴的産物が、可能性と同じだけの悪徳物質を残している? とでも云いたいようだね」

「資本主義経済の根本が金であり、無い袖をふれない者たちが多い世の中だから、格差がなくなることはないはず。そこに理解を求めても、次元の違う発想が生み出す兵器が規模の拡大を助長したり、更なる兵器を生み出す循環は終わりを告げることはないわ。併用するものが利益だから、発展途上国の予算よりも多い金が廻り、更なる利益を生み出す循環が出来上がっていくわ。その片棒を担ぐのが科学者だから、今生の終わりの意識イメージが拭えないのよ。なんなら、悪霊を迎えに来たミカエルを、紹介しようかしら?」

 こうが、瞬きを繰り返していたので、マイは呪文を唱えて、ミカエルを眼に見える存在に写し出した。

 こうは、ミカエルを確認したが、外国人の判別方法を知らないらしく、西洋人という認識しか持てなかった。

 国に境界線のある欧米ならば、○○系という認識があっても不思議ではないが、海に囲まれた日本では、基準点の曖昧さが際立っていた。ただ、闇に蠢く悪霊が、倭人?という影を認識できたことから、捕虜となったか、敗戦国の不届き者? という意識イメージが働き、後ろめたいような気に襲われて、こうは消沈を隠せないで居た。


 疲れとストレスを癒すためのワインの力によって、こうは睡眠に堕ちていた。マイは、その無邪気な風貌を確認してから念に化け、こうの部屋から退去していた。



     五


 十日ほど音沙汰はなかったが、帰宅した部屋に、マイは平然と毛繕いしながら待っていた。

「お帰りなさい」

「聴きずてならない御託に付き合い切れなくなって、二度と表れないかと想って居たけれど、性懲りもなく現れたわね?」

「貴女の云うランダムを善処するために、時間を要しただけよ。貴女の命に安全を確保するため、あたしも異世界に往かざるを得なくなったけれどね」

「往ったからとはいえ、私の命を護れる保証はないでしょう?」

「人間の死は、尊いものを終らす作業でしかないけれど、いきなり死ぬことはないわ。行動の初動が解れば、強制連行して回避出来るように、して貰ったのよ」

「誰に?」

「結界という空間の住人でもあり、偉人と云われる科学者たちよ」

「もしかして、湯川秀樹氏とか?」

「まぁ、同じ人間だけど、神に愛された者たちだから、日本国という狭い空間ではなく、地球上というべきかしら」

「外国の物理学者と云うことかしら」

「物理? 何時、境界線を引いたか分からない専門分野で解決できるならば、量子や幾何きかに打ち負かされて終うわよ」

「どういうこと?」

「慣れてきたら、実体を此処に置いて措き、魂で徘徊することが望ましい? って云ってたわ」

「逃避行だから? なの」

数学的現実デジタル社会という観点でみると、異空間自体がゲームの画面の中と認識するほかなくて、ステージ変更が、交差する点の利用から、あみだくじのように張り巡るらしいわよ」

「デジタルの世界観が造り出す、管理で統率された時空ということなのね」

「詳しいわね」

「そういう作業が好きな男性を知っているからね」

「まぁ、良いわ。貴女の意見が採用されて、三つのボタンが淵に造られ廻っているわ。基準は三角形らしく、頂点は素数の臨界点を写し出す時空間で、右下が概念の時空間になっていて、左下が観念の時空間だそうよ」

「ならば何故、廻っているのよ?」

「時代背景を写し出しているから、頂点が下になった時に、地獄から脱走した悪しき想いになるらしいから注意して。頂点の時の色は青で、下の時の色は赤らしいよ」

「概念と観念は変色しないの」

「逆転があるんだから、あるという認識なんじゃないかな」

「逆転の発想? 発想の転換とは違うのかしら?」

「ニュートンさん曰くなんだけれど、暗黒色はダークシャドウが君臨する世界だから、効率クリアーは儘ならないらしい」

「ニュートンさん? ということは、重力比重の関係性が深いのかもね? そうなると、気圧や気化? 帰化と考えるなら、回帰や還元と考えるしかないから、そこから生まれる循環に導かれる? って導きたいのね」

「学習したみたいだね」

「当然でしょう? 科学者が導きたいことは、現状に潜む曰くとなりし疑問でしょうからね」

「だったら、教えておくわ。ゲリラ豪雨を当たり前にして終った現代社会だけれど、線状降水帯ができる理由は、伏線でしかないらしいわ」

「降水量の増大が、循環と観れるからよね」

「そこに誰かの思惑があるなら、それこそが悪意になるわよね」

「天気を想いのままに操る人間が居れば? そうなるわね。だけどそこに悪意がないなら、自然の脅威と観るしかなくなるよね」

「悪意がなくても、欲が働いてさえいれば? それら総てを、悪しき風習と観るしかないからね。でもね、人間の間違いを修正できるのは、人間しか居ないのよ」

「どういうこと?」

「科学者の発想が造り出した悪しき風習だったなら、科学者がそれを暴き出して修正しなければ、被害を被る一般人の恨みは、怨念に化けるしかなくなるのよ」

「なるほど」

「例えばそれで絶滅したなら、回避するためにできることがあるはずだから、想像しない科学者を悪者にするしかなくなるわよね」

「善人と悪人を分ける以上、そういう基準で観るしかないことは解るわよ。でもね? 例えばそれが薬だったならば、研究員を雇う会社の範疇になるんじゃないかな」

「範疇? だから貴女は、物理に拘ったのね。物理だけでなく、数学や化学も科学なのよ。確かに、専門と細かく分けたことで、目覚ましく進歩したわ。だからといって、脅威に想える自然に対抗するには、総ての学識を統合しなくては、良い結果なんて望めるはずもないことが、解っているんだからね」

「本来は、生きている者がするべきことを、お亡くなりになった科学者たちが、歯痒く想い? 奮起したわけなのね」

「貴女は、ランダムにすれば、異論がでない? と想っているようだけど、時代背景が求めるものが必ず存在から、不公平は必ず生まれる。それを使命感に想えないならば、科学者なんて公言して欲しくないわよね」

「まるで、昭和の精神論みたいだね」

「そこに生まれる達成感を手にするために、頑張ってみない」

「そのつもりだから、苦手な学習も克服できたのよ」

 マイは、こうの瞳が放つ輝きを視て、確信を抱いていた。

「だけども、ひとつだけ条件を出して良いかな」

「何よ」

「早急じゃないのだけれど、興味を示している人の話しをしたよね」

「参加希望者? と、共に行動したいのね」

「是が非にでも参加したいみたいだからね」

「良いわ。その代わりに、結界の住人になることを承諾して」

「結界の住人?」

「元人間を此処に連れて来ることは、あたしにはできないからね」

「私が結界に出向く? というわけね」

「彼の娘と、親友の環奈の知恵を借りなければ、何かあった時に困るからね」

「うさぎさんに娘が居たの?」

「結界を造りし、女神様のお気に入りだそうよ」

「もしかして、血の途に導かれている案件なの」

「あたしには、よく分からないけれど、貴女は一度死ぬらしいから、地獄に迎えに行く手間を省くためなんじゃないかな」

「私が死ぬの? どういう経緯で」

「あたしは、夢先案内猫でしかないから、経緯なんて分からないわ」

「あなたはさっき、私に同行するのは、命を護るためと云ったでしょう」

「あなたの頼みを聴いたんだから、猫のあたしに不釣り合いの行動を無くすための提案をしただけよ。時間移動の空間は無重力だから、私の重荷くらい減らしたところで、罰は当たらないでしょうからね」

「ということは、科学者はその提案を知らないのね」

「それくらい? 多目に視て貰わないと、あたしの小さな身体では、対応しきれないからね」

「成り行きに任せた結果、役不足に気付いたから、増員も致し方ない? とするわけなんだね」

「さあ、疑問も粗方解消したようだから、そろそろ行こう」

「了解よ、夢先案内猫さん」

 マイは刹那に呪文を唱え、時間移動の装置を顕にした。こうにしても、やる気スイッチが入ったようで、勇んで翔び込んでいった。

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