第49話 トカゲ御殿

「こいつは、イノフスキー粒子なのか? マーちゃんはドラゴンじゃねえだろうな? こんなに小せえ龍がいるのぁ聞いたことがえぞ!」


 アッコワの兄貴が驚くのも無理の無い話だろう。

 ちなみにイノフスキー粒子というのは、法治の神の御使いや信徒が発現させる光だと聞いたことがある。これを最初に出したのは、法治の神の信徒であるカイボーラ・イノフスキー司教という大昔の伝説の人物だ。


「私はドラゴンではないのだ。それにこれは殴打力オーダちからだそうだ。聖都から司教も来られて確認された」


 うちのトカゲ姉さんとしてはそう言うしかないだろう。


「黙ってた件についちゃあ勘弁して下せえ。滅多に言えることじゃねえんで。こいつを知ってるのぁ司祭様達と兄貴とメゲネーズ係長と、後ぁ金級の連中とヨッシュア達ぐれえでさぁ」


 この辺のことは街守様もご存知なのだが、今回そこははぶいておいた。

 神の望みは何故なぜか人類の発展で、政府側は街の発展を目指している。そういう訳で、ベッチョリと癒着ゆちゃくしてもおとがめ無しの俺たちだが、人はまた別の考えと道徳心を持っているだろう。


「そうなのかぃ。おめえは魔法の神の信徒だから、知恵と関係する何かだと思ってたが違ったな。マーちゃんは戦いの神の御使みつかいか。メゲネーズの奴と仲が良いのぁ秘密を知ってるからかぃ」


 アッコワの兄貴の疑問はもっともだが、俺たちにしてもその点については謎なのだ。

 ちなみにアッコワの兄貴は、法治の神を信仰しているとのことだ。


「誤解の無い様にしたいのだ。メゲネーズ殿は生き方を変えた。必要があったのだ。彼には良い変化が訪れたと確信している」


 マーちゃんは、先にメゲネーズ係長が知ることになってしまったことをフォローしてくれた。あの結果は良かったと俺も思う。


「お気づかいに感謝しますよ、マーちゃん。それで、トマンネーノのオヤジにはいつ言うんだ? オヤジはメゲネーズのハゲが治った件で、おめえが持ってくるっていう薬に期待してんだぜ」


 兄貴の言う組合長の頭髪については、正直に白状すると有耶無耶うやむやにならないかなと思っていた。


「それについてなんですがね、もうしばらく黙っておいちゃもらえねえですかぃ? おやっさんにゃわりいたぁ思いゃす」


 トマンネーノ組合長に対しては、もうしばらく秘密にしておくことにしたい。


 アッコワの兄貴には引っ越しの件も含めて報告し、手続きも頼んでから事務所を辞去した。

 今日中に屋敷の内部を確認しておく必要がある。実は街守様にも黙っていることがまだあるのだ。






「さすがに広い屋敷だ。ここぁ外区でも一等地なんだとよ。商人じゃねえから関係ねえけどな」


 俺たちが今いるのは、カモネが使っていた外区北側の屋敷だ。外壁と内壁の北門にも近く、北東部の倉庫街によっているから治安も悪くない。

 お行儀の悪い奴が、ある日をさかいに消えるりつが高まると思うが、岩塩鉱山の方も回転率が高まるので問題にならないだろう。


「扉も修理されているのだ。ここの使用人については任せてほしい。使用人に給料を払って、秘密も守らせるのは難しいだろう? 買い物は黒子さんがやってくれるのだ」


 この広い屋敷に俺だけ、というのはいかにも不自然だ。そこでマーちゃんが、アンドロイドぜいを投入してくれることになった。


 黒子さんは商店街に溶け込んでいて、何故か存在を認知されているという状況なのでそのままだ。

 家政婦関係については、機械歩兵ティウンティウンという、妙な名前のロボットさんが活躍してくれることになった。


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●機械歩兵ティウンティウン

悩み事を聞いてくれるアンドロイド。料理や給仕、壁の修繕やトイレ掃除が可能。

一応は兵士であるが、戦争が始まる前の政治的な状況について、手厳しい批判をくわえる機能まで有する。

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 俺の鑑定では、彼女達を見たところそう表示されたので、そういうロボットさんなのだろう。

 様々なタイプの女性型アンドロイドである彼女達は、1ローテーション30体で屋敷内の家事全般を担当してくれるとのことだ。

 俺の食事の用意をしてくれるのは黒子さんだし、ここの風呂とトイレは使用しない可能性が高い為、掃除と屋内警備が主な仕事になるだろう。

 まともに機能するのは来客時のみ、ということになる。


「屋敷の照明は魔道具のようだ。それ以外は手動で動かす部分が多い。風呂はまきを燃やすタイプだ。シンデル先生からの資料と、生き物から抜いた魔石の出番なのだ」


 うちのトカゲ姉さんは、こちらの世界で知り得た技術の再現をこの屋敷でやるつもりらしい。

 少なくとも自動み上げポンプと、魔法コンロに暖房と湯沸し器、照明器具の改善についてはお任せしたいところだ。


「マーちゃん、機械時計を欲しがってたろ? アレを買ってここに置こうぜ。1メートル半だか、2メートルぐらいのがあんだよ。それと、シーシオンの所で買った模造品を置いたら良いんじゃねえかな?」


 こういう事は先に提案しておくのが良い。


「良いアイデアだ。ついでだから真作のあの絵も、階段の踊り場に飾ってしまうか。退色防止の為に、透明カバーをかけておけば問題無いのだ」


 内装は適当にやるか、という方向で決まった。文化財に関しては、マーちゃんも仕舞い込んでおきたいわけでもないとのことだ。きんや銀と同じで、文明が続く限りは放出していく物であるらしい。


「後ぁ看板かんばんだな。こっちの世界じゃ表札はえんだけどよ。こういうデカい屋敷で貴族が住んでる場合は家紋かもんで、商人や庶民しょみんなんかは看板かんばんを出しとくんだ」


 正規の手続きによって、ここに俺たちが住んでいることは、周辺にアピールしておかないとならないだろう。看板を玄関の上辺りに出しておくのはそういう理由だ。


「では何かの図案を考えんとな。スーちゃんに描いてもらうという手もあるのだ」


 翌朝のことなのだが、マーちゃんの頼みを聞いてくれたスーちゃんは、玄関の上につける看板を描いてくれた。

 それは、マーちゃんの普通のトカゲモードをモチーフにした物で、丸っこい可愛らしさを前面に押し出したものだった。


 俺たちはこの看板を大いに気に入ったのだが、近隣の人達はこの屋敷のことを『トカゲ御殿ごてん』と呼び、れ物にれるような扱いになったのだ。これについては理由の説明がほしいと思う。



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