第44話 人間狩り

 今日は6の月16日で、俺がマーちゃんと出会ってから108日目になる。108が4で割りきれるということで、本日はフロアに雨が降る日なわけだ。


 雨を見ていると感傷的な気分になってくるので、こんな日は出かけて来ましょうということになる。

 今日は岩塩鉱山について、ヒルマッカラン総督閣下のところに行ってこなければならない用事もあり、丁度良いから早めに顔を出しに行こうということになった。


「マーちゃん、今日はとうとうこいつが役に立つ日だ。通行証もらっといて良かったぜ。それによ、姿を消しとかなくても、普通のトカゲの振りで行けるだろ?」


 今日の俺は、まだ暑いということもあって夏の神官服姿である。

 身分証だけは、内区通行許可証と魔銀級探索者証が首から下がっている状態だ。紐ではなく、かぶれない平たい加工のいぶし銀の鎖になっているのは、マーちゃんの気づかいというヤツである。


「ペットの振りの方が楽ではあるな。危険でない生物は出入り自由というのは良かった。ケンチ、紹介の方は頼んだぞ」


 今回はマーちゃんも少し違う感じで内区に行くことになった。

 マーちゃんは今まで、姿が見えないようにして頭や肩の上にいるのだが、最近になって普通のトカゲの振りをする方法に切り替えたのである。


 全身から出てくる光を消灯にし、頭の上にある光輪が消せるようになった為、鳥のような短い翼と、頭の葉っぱを引っ込めれば普通のトカゲに化けることは出来た。青い身体だと少し派手なので体色も茶色に変更し、丸っこくえた感じの頭胴長60センチペットに変身したのだ。


 出かける準備が出来た俺たちは、内壁の西門に向かって歩いて行くことにした。今日のスーちゃんは、龍に戻ってうなりながら原稿を書いているので、マーちゃんと俺だけだ。






「こりゃガウリーノ副長じゃねえですかぃ。ケンチでさぁ。今日は街守様にご報告にあがらにゃあならねえんで。よろしくお願いしますよ」


 今日の内壁西門に詰めているのは、副長のラヴェントーナ・ガウリーノさんである。

 意外なことにマルッキ・リアホーの旦那だんな相方あいかたは、この23歳になるワイルドな美女だったりするのだ。相変わらず茶色い髪は短くし、兜は被らないでヘアバンドをして、革鎧を着崩きくずすという器用な真似までやっていた。


「あんたも最近は羽振りがいいじゃないか、行き倒れ。探索者証が変わったんだねぇ。通行許可証は良いとして、こっちの金色の方は預かっとくよ。今日はオッサンが本部に呼び出されてんのさ」


 俺はガウリーノ副長が女性だからといって差別したりしない。

 だから、魔銀級探索者証と通行許可証の上に、さらに金貨を2枚置いて差し出した。金貨の方は、無事に副長が預かってくれることになったわけだ。もちろん無期限で。

 彼女が副長をやっているのは、若いのに腕っぷしが強いのもることながら、あのリアホー隊長と波長があってしまうという理由もある。


「本部へ呼び出しってなぁ、穏やかじゃねえですな。どこでも噂になってますぜ。外の宿泊所が封鎖されて、カモネの事務所までからになったそうじゃねえですか? もちろん俺ぁ余計なことぁ聞きませんぜ」


 最近は衛兵たちも、外区北側の屋敷と壁外にある宿泊施設の調査と封鎖に駆り出され、隊長たちも本部に呼び出されているときて、内壁西門はいつも以上に静かだ。

 とぼけ通すにしても、カモネ一家いっかの残りの連中を引き渡すタイミングについて、ヒルマッカラン総督閣下に相談する必要がある。


「頼むからそうしとくれ。それとカモネのところにゃ、出入りしてるだけの下働きが居ただろ? まだ17とかの奴らだよ。見かけたら捕まえて、ここまで連れてきてほしいんだよ。どうせ暇なんだろ?」


 ガウリーノ副長の話からすると、どうやら下っ端の下っ端をやってるような連中まで、今回は捕縛の対象になるようなのだ。奉仕活動の一環いっかんとして、組合の方にも話が降りて来るだろう。

 今頃、連中は家を出て、知り合いの所を泊まり歩くか、隠れ家に集まっている可能性がある。


「心当たりの場所を探ってみますよ。そんじゃ俺ぁこれで失礼さしてもらいゃす」


 ここで教えてもらえそうな事は全部聞けただろう。早速中へ進もうとした俺だったが、思わぬことで呼び止められた。


「ケンチ、さっきから気になってんだけど、そのトカゲはアンタが飼ってんのかい? アタシの方をじっと見てるし、太ってる動物が趣味だとは思わなかったね」


 ガウリーノ副長はマーちゃんが気になったらしい。

 アパートを出た時からずっと、マーちゃんは俺の頭の上と肩の方を往復して、周囲を熱心に観察していた。俺の方も通行人からジロジロと見られた。


「この子はマーちゃんっていいましてね、山の方で会ったんでさ。幸運のお守りみてえなもんなんです。愛嬌あいきょうがあるって言ってくだせえよ。太ってるんじゃなくて、元から丸いんでさぁ」


 いきなりデブ呼ばわりされるのも何だと思うので、ガウリーノ副長にはやんわりとそう返しておいた。

 うちのトカゲ姉さんは、今回の人間狩りの主力なのだ。いでだから、その他の違法実験も捕まえた若い奴らでやるだろう。ふんわり効果の奴とか、怪しいドリンク類は全部試してもらって、今後に役立ててほしいと心から思っている。


 ガウリーノ副長とそういうやり取りはあったものの、俺たちは内壁西門を堂々と通過して領主館へと足を運んだ。






「ああ、ケンチさん……あなたですか。一応は神官身分で、許可証も身分証もお持ちで、施療院でお世話になったこともあります。それでもここでお待ちください。いま衛兵を呼んで来ますから」


 領主館の正面玄関口をくぐると、そこはもう受付窓口だったりする。

 街守閣下への面会をそこで申し込んだところ、理由はよく分からないのだが、何故か衛兵を呼ばれるということになってしまった。外見に関して自信は無いが、扱いがほぼ犯罪者か危険人物級なのは、どうしてなのか答えていただきたいところだ。


 騒いでも仕方がないので、大人しく座って待つことにした。


「何だケンチじゃないか……。

心配ない。知ってるだろう? こいつは『行き倒れのケンチ』って外区じゃ有名な男だ。見たことあるだろ? 何で呼ばれるんだよ」


 受付の担当者に呼ばれてやってきたのは、南側担当のイラーネオ・ヤッパリォーネ副長だった。我が街がほこる、ことなかれ主義衛兵その3だ。その1とその2は西側にいる。


 俺は話を進める為に『好き好きヤッパリォーネ副長作戦』で行くことにした。マーちゃんや俺にとっては、極端なデフレの真っ最中なのだ。こういう時は思いやり募金でもやって、恵まれない俺を助けなきゃならない。



====================

※今日のオマケ

ケンチとマーちゃんの所持金

違法鋳造金貨含めて30万398枚

6000億+7億9千600万円

違法鋳造銀貨含めて30万354枚

60億+708万円


※お読みいただきましてありがとうございます。この作品について評価や感想をいただければ幸いです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る