第45話 反乱計画の一部

 イラーネオ・ヤッパリォーネ副長は、現在は本部で会議中であるシオタイオ隊長に代わり、ここで館内警備の指揮をとっているとのことだ。


「前よりも重いが輝きが少ない。いや、冗談だ。ハハハハ、ここも物入りでな。こいつはありがたくもらっておく。総督閣下のところまで案内するぞ」


 ヤッパリォーネ副長には、階段を登り受付から離れた所で銀貨を30枚ほど出しておいた。俺もマーちゃんも、金を出すにしても加減が大事だと思っている。


 実はカモネのところからは、地下の隠し金庫に入っていた金貨と銀貨を半分ほどいただいて来た。それでも金貨200枚と銀貨400枚ほどだ。有効に使って、全部を社会に還元する予定だ。


「それにしてもひでえ扱いだ。俺ぁこう見えても街につくしてきたつもりですぜ。受付の奴なんか元患者だ。犯罪者みてえに見られちまいましたよ」


 本当は余計なことは言わずに黙ってやり過ごすのが正しい。愚痴ぐちが出るのは油断だ。だから俺みたいな奴は、貴族社会でやっていくのは無理だろう。


「そう言ってやるな。ここ最近は安全とはほど遠くてな。詳しくは言えんが、館内で妙な事件は起きたしデカい汚職も発覚した」


 ヤッパリォーネ副長の台詞で思い出した。

 スーちゃんが、非殺傷型の無力化兵器をここでバラいた事を俺は忘れていた。まだそこまで日は経っていないというのに。俺もうちのトカゲ姉さんのことは言えないらしい。


「ところで、変なトカゲを連れているな。うるさくは言わんがお前さんも程々にな。南門から帰ってきた時は、そんなトカゲは居なかったろ?」


 俺は少しだけ股間が冷えた。ヤッパリォーネ副長は時々は鋭いのだ。

 

「いえね、実ぁあん時にゃ背囊はいのうの中で寝てまして。起きてる時ぁ何でも見たがるんですがね。ヘヘヘヘっ」


 大荷物を持っていると、こういう時の言い訳が利く。


「じゃあ山から拾って来たのか。確かに俺の方を見てる。さっきからずっとだ。好奇心が強いトカゲなんだな」


 ヤッパリォーネ副長の変な勘繰かんぐりは回避できた。

 

 受付から総督執務室まではすぐだ。受付の横にある広い階段を登って、金を渡してから今のような雑談をするのに、扉の近くで立ち止まらないといけないのである。


 ここまで案内してくれたヤッパリォーネ副長は、ブラブラと歩き去ってしまった。案内はらなかったんじゃないだろうか。






「待っておったぞ、ケンチ。もちろんマーちゃんもだ。それに、これがないとな。最近は他の酒が不味くて仕様しょうがない。ありがたくいただいておこう」


 ヒルマッカラン総督閣下は、ここ何日かで酒が切れたらしく、端から見ると酷い喜びようだった。執務室に入って挨拶あいさつをし、カバンから土産みやげの酒を取り出した途端とたんにこれだ。


「その後はいかがですかい? エラベル・カモネの奴は、もう元に戻らねえと思いますがね。鉱山でこき使うんなら出来ますぜ」


 実はカモネ一家いっかを捕まえた後、全員を単純労働に使用できるようにしてあるのだ。

 連中は弥助やすけになってもらい情報を抜いてから、兵器の標的にして何回か生き返ってもらい、試験用人間改変薬『肉刑にくけい』を投与されてほぼロボットの様になった。


「衛兵隊本部に送った9人を含めて、全部で147人なのだ。この街に来る他の商隊は今は無いそうだ。黒幕に報告する為の郵便は出しておいた。ローンダイン・シンシャー氏は頭が回るのだな」


 ヒルマッカラン総督閣下には全てを報告してある。

 今マーちゃんの言ったことだが、カモネは郵便を使って、暗号文で黒幕に報告を送っていた。異常が発生した場合には、遠隔地であってもすぐに分かるというわけだ。

 俺たちはこれを逆手に取って、本人に偽の報告書を書かせて先に送った。トクシマティ商会よりも郵便の方が早いので、あと1ヶ月は相手にバレないだろうと思われる。


「黒幕が大公家の者とはな。ローンダインは本家筋だが、今代こんだいの大公になれなかったという男だ……」


 ヒルマッカラン総督閣下としては頭の痛い話だろう。

 妙な犯罪だと思うのだが、目的の方は何となく分かる。

 スマッキオの奴は知らなかったが、連中は爆発物や毒薬、遺跡の発掘品をさらに東へと流していたのだ。行き先はヨバンサード領かキテルモントリサール領ではないだろうか。


「総督閣下、それでもこの件は失敗してますぜ。無駄になったって言った方が良いかもしれねえ。ヨバンサード卿が消されちまいましたからね」


 ガンジオ・スカラ・ダガ補佐司教様が持ってきてくれた情報では、告発騒動の後でヨバンサード卿が消された事により、同じ派閥の人間がやっていた事も証拠が随分ずいぶんと消えたらしいのだ。

 そして、キテルモントリサール伯爵は立ち位置を変えたに違いない。または追い詰められている可能性もある。

 ローンダイン・シンシャー氏が、頼りにする予定の隣国の貴族は居なくなってしまったのだ。これが、反乱計画の一部だったとしても、白紙に戻さなくてはいけないのではないだろうか。


「それについてだがな、ローンダイン・シンシャー氏は、この街の密輸事業もたたむつもりなのかもしれん。隣国から、受け取りの商隊が来なくなっているのは知っているはずなのだ」


 うちの秘密警察姉さんは、俺と同じような事を考えていたらしい。

 ただ俺としては、ローンダインに逃げられても良いという気もしている。何も無かった事になりそうなら、その時はマーちゃんに頼んで現地に行き、奴には廃人になってもらうことにしよう。


「オーデン伯爵閣下にはもう連絡した。聴取内容がまとまり次第、それも送るようにしてある。トクシマティ商会については事故情報を流す。それで時間は稼げるだろう」


 ヒルマッカラン総督閣下もやるときはやるのだ、と俺はこの御人おひとのことを少しだけ見直した。串焼き屋で仕事をサボっていたり、この執務室で飲んでいたりするのも真の姿なのだが、こういう時の対応も早いらしい。


「それなら安心だ。残りの奴らの引き渡しはどうすんですかい?」


 ここ最近の内区では、おかしな事ばかり起きているのだ。更に怪しまれるような事が起きても良いか、というぐらいの気持ちで聞いてみた。


わしを現地に案内してもらう前に頼む。全員を捕縛した状態にしておきたい。費用なら、奴らの溜め込んでいた金を没収ぼっしゅうしたからそれを使う」


 そういうわけで、俺たちは残りの奴らを収容施設に突っ込んでから、街守閣下を岩塩鉱山へ案内することになった。



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