第32話 全部ボツ
「あの……食べ物か何か……持ってないかしら。出来たら肉が良いわ……」
内容は別にして、落ち着いた女性を想起させる念話が出し抜けに届いた。発したのは、目の前のヨレヨレになったスーちゃんことスーラネオラさんだろう。
マゼンダという感じの色合いの
頭から尾の付け根まで5メートル、尾が5メートルぐらいなので意外と小柄な体格のようだ。翼は広げれば19メートルぐらいになるのではないだろうか。
「あんたさんがスーラネオラさんかい? 途中でエっちゃんに会ってな。俺ぁケンチって探索者だ。こっちのトカゲさんはマーちゃんっていう。今、マーちゃんがどうにかしてくれんだろうから待っておくんなさいよ」
「マンマデヒクという。マーちゃんと呼んでほしい。砦の牛肉が残っているから、それを出そう。水もあるから飲んだ方が良いだろうと思う」
俺達が自己紹介を簡単にした後、収納口から出てきた黒クモさん達が、骨付き牛肉を丸ごと1頭分と
水と肉の気配を感じ取ったスーちゃんの行動は早かった。
「助かりました、通りすがりの
スーちゃんは龍種の中でも、要介護認定が必要なタイプであるようだ。今まで生きてこれたのが奇跡のような存在だった。
黒クモさんは黙って2頭目を持ってきてくれた。
そして2頭目の牛肉もあっという間に骨ごと消えた。
「本当に助かりました。何かでお返し出来れば良いのだけど、ここにはウレズトバズ
エっちゃんから大体のことを聞いている俺達は、スーちゃんの言う内容の全部を理解していた。
実際に出会うまでは、話と異なる可能性もあったのだが、出会った後でそれが
ちなみにウレズトバズとはヴァンドヴォシュー伯領の領都で、ここから東にはウレズトバズ
「気にしないでもらいたい。ところでスーちゃんとお呼びしても良いかな? 実はこの遺跡を解体して持っていこうとしている途中だったのだ。他の住まいはあるのかな?」
マーちゃんは事情を正直に話すことにしたらしい。
知的生命体が、住み込みで原稿を書いているかどうかは知らなかったのだ。そして
「まぁ! それはちょっと困るわ。私ここに住んでるのよ。意外と暖かいし、紙と印刷機がある場所って
スーちゃんからは困ったという念話が返ってきた。そりゃそうだろうという話だ。紙と印刷機のある天然の洞窟とか聞いたことがない。火山地帯とか
「ではこうしよう。スーちゃん、このままで
は、いつ記事の
うちの新聞社オーナー姉さんの申し出は、スーちゃんにアイテムボックス内に
「それはちょっと心
恥ずかしそうではあるものの、それなりの自信も含んだ念話と共に出されたのは、印刷がきれいな1枚の
「あんまし言いたかねえんだがな、スーちゃん。この『おすすめの釣り場』に出てくる場所なんだが、ここには誰も行けねえよ」
スーちゃんから差し出されたウレズトバズ
『おすすめの釣り場』は3000メートルを越える山に囲まれており、50人のチームがフル装備で行って、釣りを楽しまずに帰らないと死人が出そうな場所だった。
スーちゃんはそれを聞いて衝撃を受けた様に見えた。
「それから『今月の峡谷の風景』なんだけどな、定点観測をやりてえ研究所のお
記事には、草も生えないような無情感
毎月知りたいような情報では無い上にメインの記事だった。
スーちゃんはそれを聞いてから
「あとは『探し人のコーナー』だが……下の渓谷で子供を探してるお母さんはもう生きた人間じゃねえ。昨日で36400日を越えてるじゃねえか。100年も姿が変わらねえ時点で察してくれや」
その母親がいつ何の事情があってここに来たのかは不明だ。
見習い聖職者の俺としては、こういう人をそのままにしておくのは抵抗があるので、取りあえずは後で何とかしようと思う。
スーちゃんは両前足で目を
「最後に『今月の生まれ月占い』なんだけどよ。これぁ人間の事情で申し訳ねえんだが、幸運を呼ぶ色の
もし、許可を得ない人間がこれらの色の物を身につけた場合、そいつは思想犯として牢獄にぶち込まれることになる。最悪は鉱山送りになるだろう。
そういう事情もあって、この手の品物については専門店で身分証を提示しなければ買えない様になっている。
スーちゃんは先程から変えない姿勢のままで震え始めてしまった。
「そのぅ……何だ。もうちっと庶民の事情つーものを知らねえと駄目だな。俺もマーちゃんのところで世話になってるし、姉さんも来てみちゃあどうだい?」
気が付けば俺は、このマスコミ志望のドラゴン姉さんがすっかり気の毒になっていた。
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※お読みいただきましてありがとうございます。この作品について評価や感想をいただければ幸いです。
※第3章の16話『ミノル100%』を書き足しました。そちらもよろしくお願いいたします。
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