第2話 卸売り
オシタラカンのとっつぁんが、どうして俺をあんな目で見たのか気にはなった。なったが俺も緊張しているものだから理由を聞けるものでもなかった。
偶然にも、昼のこの時間は解体所に人がほとんどいなかった。今のところ見える範囲にはとっつぁんだけだ。
「とっつぁん、ここでもう出しちまっても良いか?
「待てケンチ。何頭ぐれえだ? その様子じゃあ1頭じゃねえな。こっちに来い。奥で出してくれ。 オイ! デコ! でかいのが何頭か入ってくる。査定の準備だ」
俺が聞いたところで、とっつぁんは奥に声をかけた。デコって奴は解体所の新入りだろう。そういえば孤児院でそんな名前の奴がいたかもしれない。
「はい、とっつぁん! 今は台の上は全部空いてます。
ケンチさんじゃないですか! 覚えてもらえてないかもしれないけど、孤児院にいたデコです。今年から解体所で働けることになりました」
普段から善行を積んでおくと、こういうところで信用出来そうな知り合いに会うことがある。
デコは、俺が孤児院に差し入れに行った時に見たことのある顔だった。今年で15歳になるんだろう。珍しい金髪に緑の目の少年だ。かなり整った顔つきをしていたが、何か疑うのは
孤児院の子供たちは栄養状態も良く、民間よりも充実した基礎教育を受けているから、頭が良い上に得意なことがある子供が多い。
教会は孤児たちの養育に本気で全力を傾けていた。それはやがて
つまり孤児院の運営も、長い目で見れば教会のシノギの一つになっている。
それはともかくとして、今のデコは俺たち現場組よりも良い場所にいるようで何よりだ。
「デコ、覚えてるぜ。今年からはここで働くんだよな。今度からはよろしく頼むぜ」
そう言われたデコは、真っ赤になりながら茶色い革エプロンの
「知り合いなら話は
「ハイ!」
オシタラカンのとっつぁんとデコのやり取りは、それなりの緊張感のあるものだった。
今回はとっつぁんとデコが、俺の納品に付き合ってくれるようだ。
「皆んな、これから俺がやることについては驚かねえで見てておくんなさいよ。俺の場合はちょっと特殊でしてね……」
周りにそう言って、俺はアイテムボックスの収納口に
「マーちゃん、黒クモさん。こっちの準備は出来たみてえだから、獲物を出すのを手伝ってくれ。俺が手で出してる感じが出てりゃいいや」
「ちょっと楽しくなって来たぞ、ケンチ。これではアイテムボックスではなくて
俺とマーちゃんの会話は外に漏れてはいない。
俺のアイテムボックスはたとえ手を突っ込んでも、マーちゃんか『黒子さん』か『黒クモさん』が用件を聞きに出てきてくれるという召還
前もって打ち合わせをしておかないと、飛び道具が必要な時に『おにぎり』を手渡される可能性があるのだ。
マーちゃんの場合は『おにぎり』で相手を何とか出来るかもしれないが、そういうのは普通の人間に出来ることではない。
内部の住人の皆さんとやり取りした俺は収納口から顔を出した。
「それじゃ、ソコに出せば良いんでしたね。今から出しますんで、ちょっと前を空けてもらいますぜ」
いきなり
それを黙って見ている3人から
残りの腹足、陶器の壺に別々に入った炸薬袋、分厚くて金属のような殻を3匹分だ。
続けてイノシシのバラ肉、ロース、肩肉、モモ肉、カルビ、ヒレ肉、毛皮に
最後に油紙で包んだ波のキノコを6株出して、その全てを何とか解体所の台の上に置くことが出来た。
気がつけば周りは妙に静かだった。
「ケンチ、俺はお
引退したらここで働かねえか? トマンネーノの親分には俺から口を
オシタラカンのとっつぁんが最初に口を開いた。この
ちなみに毛皮の処理はマーちゃんがやったことだ。流石だと思う。
「ケンチ。俺にもよく分からなかったがな。約束の物と追加の分までここにある。夢じゃねえとなりゃあ俺はこの件をトマンネーノのオヤジに伝えなけりゃならねえ。よくやってくれた」
デコは最初から目を見開いて全部をじっと眺めていた。小鼻が
「今回、持って帰ってこれたのはこれで全部でさぁ。そんじゃ買い取り金額の査定をお願いしますぜ」
俺としてはここまでくれば上出来だった。
買い取り金額は丁寧な解体をマーちゃんがしてくれたにせよ、事前に出した予想金額と変わらなかった。
つまり銀貨270枚=金貨2枚と銀貨70枚≒540万円だ。
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