第3話 監視カメラ


「今回はご苦労だった。ケンチ、支払いの方はどうする? 口座に入れるなら俺が手続きしてやる。今日のことは俺から報告しとくが、おめえはどうする?」


 おろし売りの査定が終わった後、アッコワ兄貴からは支払い方法をどうするか聞かれた。

 

「今回は受け取りでお願いしやす。金貨1枚、銀貨170枚で。それとトマンネーノのおやっさんには後で挨拶にうかがいやす。 それから兄貴、口座の金を全部おろしてえんですが、手続きをお願いしやす」


 組合は周辺国の各都市に支部があり、教会と同様に信用があるので巡礼者、聖職者、探索者のために預金口座を開設することが出来た。

 その代わり当人の死亡が確認されれば、その預金はゴーリ教会のものになるし、行方不明になった場合でも1年後にはそうなる。

 たとえ人気の受付じょうでも、口座の金をちょろまかせばのどを切られて街の外壁から吊るされるぐらいには管理が厳しい。


 ではあるのだが、俺には核融合兵器の直撃でも耐えてくれそうな高強度金庫であるマーちゃんがいる。

 それに文化的な物品は、購入してマーちゃんにみつがないとならない。

 俺は口座から金を全部おろすことにした。


「ケンチ、おめえのことだから妙な使い方はしねえとは思うが……そういや、装備を新調するっつってたな。分かった。良い機会なんじゃねえか」


 アッコワの兄貴には怪しまれるかと思ったが、兄貴が1人で納得してしまったので助かった。

 俺の口座にはそこまで大した金額は入っていない。

 具体的な金額は覚えていなくても、それは兄貴も把握しているらしく、装備の新調資金だと思われたようだ。


「それから森でこいつを拾いまして。遺体の方はもって来れなかったんで……全部埋めやした」


 俺はアッコワの兄貴に、死んでしまった若手6人組の鉄級身分証を手渡した。2枚は少し腐食してたんで、マーちゃんに頼んでみがいてもらった物だ。

 遺体の方は溶けた奴らも含めて生物学的な調査の為に利用されたし、装備の方は材料に還元されたので既にもう無い。


「フゥゥ……見ればまだわけえ奴らだ。森の奥に突っ込むんじゃねえといつも言ってるんだがなぁ。

祈りと鍛練を積まねえと能力スキルも身に付かねえ。実力が無けりゃ業界でやっていくのは厳しい」


 アッコワの兄貴は、深いため息をつきながら染々しみじみつぶやいた。


「ご苦労だったなケンチ。こいつも処理しておく。トマンネーノのオヤジにはこれから報告に行く。おめえは後から挨拶でも何でも好きにしろ。そん時にこの引換証ひきかえしょうを受付に持ってこい。これと交換で全額払う」


 アッコワ兄貴の一声でその場はおひらきになった。

 偶然に人気の少ない解体所ではあったが、そろそろ用事を済ませた連中が戻ってきそうな気配がする。

 オシタラカンのとっつぁんは2つの陶器のつぼの前で、デコにその危険性を説いている真っ最中のようだ。

 つぼには弩貝イシユミガイの炸薬の臓器を別々に収めてある。振っても落としても問題ないが、2つを間違って混ぜると爆発する為に毎年のように死人が出る。

 爆発するのは取り出しに失敗した時ぐらいなので、取り出された後のあの状態なら大丈夫だろう。


 引換証ひきかえしょうを手渡された俺は一旦アパートに戻ることにした。

 組合事務所のロビーや、併設されただだっぴろい酒場兼食堂で座ってなんかいた日には、誰に絡まれるか分からないからだ。




 ようやく探索者用のアパートに帰ってこれた時にはホッとした。今日はいつもの倍は疲れたのではないだろうか。肉体的にかなり楽が出来たというのに、妙な緊張感の所為でかなりしんどくなってしまった。


「マーちゃん、今日は本当に助かったぜ。『黒クモさん』たちもありがとうな。取り出しに連携プレイが必要だとか、直前まで気が付かねえのは俺の失敗だ。もちろん文句なんか言わねえよ。広くて住み心地が良いしな」


 俺のアイテムボックスは、どちらかと言えばセーフハウスのようなものだったりする。

 ただしフロアの真ん中の吹き抜けが直径14キロメートルもあり、これが大半を占めているため注意が必要だ。ここでは常に死の危険があるため、恐いもの見たさで近寄るのは推奨されてない。


「ケンチには詳しく話していなかったが、ロボットたちは魔法にも対応している。使える世界は限られるが電力よりも便利なリソースだからな。

『転送の術』には気がついていたかと思うが、アレを使っても不自然に見える可能性があったのだ」


 先進的なロボットさんたちには、やはり魔法も組み込まれていたらしい。

 おそらくは、俺なんかよりも出来ることが多いだろう。


「収納口のすぐ近くで手渡ししてもらったアレな、俺としては意外と楽しかったぜ」


「それでは今度から収納口の近くに手渡しカウンターを設置しよう。すぐ使う物だけでも出せると便利だと思うぞ」


 俺が手を入れると、待ち構えている『黒子さん』が何かを俺の手の上に乗せてくれるらしい。素敵なアイデアだと思うが、これには穴があると言わざるをえない。


「俺が必要だと思ってる物についてなんだが『黒子さん』やマーちゃんはどうやってそれを察するんだよ? 会話無しでやらにゃならねえんだぜ? 念話は聞けるけど俺が話せねえ」


「確かにそうだな。財布、飲料水、予備のナイフ、贈呈品ぞうていひんの酒、カロリーフレンド、雨具それに『ひのきの棒スーパーショーティ』も常備すべきだろう。多いな」


 手渡しカウンターのアイデアは良かったが、顔を突っ込んで物を指定するしかなさそうだった。

 俺のアイテムボックスは、咄嗟とっさの場合に使える能力スキルではないようだ。

 『ひのきの棒スーパーショーティ』については活躍してもらうとおそらく俺が困る。


「それよりマーちゃん。『黒子さん』はさっきからベランダで何やってんだ?」


 俺たちが帰宅した後『黒子さん』たちは例のジャージにヘアバンドという格好で、アパートのベランダから何かをはずしていた。

 ちなみにここは、それなりの通りに面した2階建て集合住宅の2階の一室になる。


「監視カメラを回収しているのだ。大陸公用語の学習の為に、往来の人々の様子と会話が記録されている。4日分だ」


 辞書と教科書を欲しがるだけあって、マーちゃんの学習意欲はやはり本物だ。動画教材については自力で用意したらしい。



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