第13話 ふれ合い反射フィールド

 こっちに転生して良かったことは3つある。持病も無くて健康なこと。体格が良くて身長が187センチメートルあること。そして根性がついたことだ。

 こっちでは学ばないと死ぬことがハッキリしていた。農家の出で職人さんの伝手つても無いから手に職をつけるのも難しい。

 目付きの悪いガキの相手をしてくれる爺さんがいなかったら、今ごろの俺は豚のエサになってから白いキノコの養分になっていたに違いない。

 ちなみに俺の顔はちょっとゴツゴツと骨張ってて、口元は食いしばってるみたいに見えるし、目は少しつり上がり気味で鋭いので普通のガキには評判が悪い。


 そんなことを考えてしまったのは、目の前に俺をエサにしたかもしれない豚がいるからだった。

 体長は約2メートル半、体高170センチはあるだろう。長い鼻面だが牙は短い。その代わりに額から80センチはある角が1本伸びていた。角は体長に含めてない。

 全身を毛皮が覆っていなければサイのような生き物だ。この角猪ツノイノシシは偶蹄類になるが、地球での分類なので意味はそれほど無いと思ってる。

 余談だが角が無い猪もいる。家畜として猪車イノぐるまを引いたり、食肉として食べられたりしているやつだ。


 俺の前方15メートルにいる角猪ツノイノシシを引き留めているのはマーちゃんだった。

 角猪ツノイノシシの方は興奮して排気音のような唸り声をあげているし、マーちゃんは雲間から差し込むような光と粒子状の光に包まれながら、そいつの8メートルほど手前で空中を泳いでいた。

 下手に声をかけると何が起きるかわからない。俺は黙って見ているしかなかった。


「ブルルル、ブブブブッ。よーし、よーし」


 マーちゃんは、先ほどからその怪しげな掛け声で猪の気を引こうとしていた。

 柔らかいアルトボイスなのがせめてもだ。

 白いキノコまで放おりながらだったので、猪の足元にはキノコが散乱していた。


 一方で、視界のすみでは離れた場所にいる黒子くろこさんが、移植ゴテを使って地面の花を植木鉢に移しかえているところだった。あれは熱冷ましの薬草だ。


 猪にしてみたら、光る変な奴が目の前に現れて、聞き慣れない声を出しながら自分の足元にキノコを投げてきた、という状況ではないかと思う。

 痺れを切らした角猪ツノイノシシは結局マーちゃんに突進してしまった。そして自分の生み出した衝突力を全部浴びて死んだ。

 マーちゃんを包む光が、致死性の攻撃を跳ね返すことが判明したのは最初の1頭が死んだ時だった。今ので5頭目だ。


「マーちゃん、やっぱり無理だぜ。そいつらの好物は確かにキノコだけどよ。イモだって肉だって自分が見つけたやつしか食わねえと思うぜ」


「ケンチ、神とは時に残酷なのかもしれん。まさかこの光がノーコストの反射シールドだとは思わなかったぞ。野生生物とのふれ合いは本気のぶつかり合いから始まるのだが……」


 そういうマーちゃんは実に残念そうだった。あそこなら動物を飼うスペースにも困らないだろう。なにしろ本物の森もあの中にあるからだ。


「鳥を飼ったことがあるのだ。最初は100万羽ぐらいはいたな。塔ではなくて大陸再現フィールドにしたら、400万年後には彼らの子孫が4000種類になっていた。大型化したり、飛ぶことをやめたり、乾燥地帯に適応したりして面白かった。それぞれが住みやすい世界の惑星に放したが、皆は元気にしているだろうか……」

 

 鳥が文明を築く前で良かった、と俺は正直に思った。




 結局、その後は弩貝イシユミガイ2匹、飛びクラゲ12匹、コボルト13体、地衣類とキノコと珍しい薬草各種を追加で手に入れた。動物達と原始人どもは、ことごとくが自分の武器で死んだが自業自得だ。


「森の入り口が近いし、そろそろ樹を抜いて帰るか。こういってはなんだが、植樹と樹を抜いて持っていくのは両方得意なのだ。

ある惑星のヒノキの一族の最大にして最後の者の遺体をもらう時に、私は彼の子孫の苗木を彼が生きていた大陸中に植えた。

『ひのきの棒ファイナルディザスター』はその時に……」


 本当に情けない話だが、俺はマーちゃんの話を最後まで聞くことが出来なかった。単純に怖かったのだ。


「マーちゃん、その話は今度にしてくれると助かる。ここにあるのは多分だが全部栗の木の仲間だ。イガはねえけどな。こっから入り口まで全部抜くんだろう? 俺もそこら辺は付き合うぜ」


 振るうだけで都市が壊滅する何かなんて想像もつかないが、それが目の前に現れる未来だけは避けなくてはならないだろう。


「そうか。話が脱線してしまったな。こんな時のために最適の装備を用意してあるのだ。楽しみにしてもらって良いぞ」


 どうやら今回の遠征では、まだ何か出てくるらしい。



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