第14話 吸い取るさん( •̀ㅂ•́)

※執筆に関して訓練中の身ですので、何かご指摘があればよろしくお願いいたします。


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 とうとう、マーちゃんが木をひっこ抜いて持っていく時が来てしまった。

 しかもここから森の入り口まで、幅は40メートルだそうだが、予定の範囲に生えているヤツを全部抜いていくと思われる。

 俺としてはこの森に初めて『道』が出来る事態を目撃することになるのだが、マーちゃんに協力を約束したし、こんなことを気にする奴は本当に誰もいないだろう。

 距離にすれば1キロメートルというところだそうだ。本当に近くまで戻って来ていたのだった。

 森の樹は樹冠が重ならないように生えている。なので20メートル四方の範囲内でも4本以上は生えていない。幅40メートル、長さ1キロメートルの範囲で樹を抜いていくとしても、本数としては300本を少し越える程度に収まるのではないだろうか。と俺は非常に大雑把おおざっぱに暗算してそれで納得することにした。




「私にとって質量的には今回の遠征のメインイベントだ。それでは『吸い取るさん』、樹木類の引き抜きだが、伐採は出来るだけ避けたい。共生菌類も調べたいので地面もいただくことになるが頼んだぞ!」


 マーちゃんのアルトなボイスながら勇ましい呼び声に応え、その妙な名前のロボットさんは俺のアイテムボックスから出現した。2体もだ。


 そのロボットさんは良く言えばアイロン、悪く言えば便器を逆さにして前後を逆にしたような胴体をしていた。歩くための脚が6本、作業用の腕は左右2本ずつの4本ある。全部『N』字型関節で黒クモさんと共通だ。

 頭部は無く、機体の正面に『( •̀ㅂ•́)』というような顔が貼り付いていた。全高は10メートル、全長15メートルなのは充分に巨体と言っていいだろう。

 もっとも特徴的なのは『吸い取るさん』が機体の両脇に太いパイプを2本ずつ持っていて、常に何か吸い込んでいるような音を出していることだった。


「マーちゃん、あれは何か吸い込んでんのか? 大きい音がしてるが」


「よくぞ聞いてくれた。吸い取るさんはあのパイプで空気を吸い込んで、あのフロアの『吹き抜け』にある貯蔵タンクに送っているのだ。もちろん大気成分の分析もやる。

ケンチ、水と空気と鉱物があれば大抵の物は再現が可能だ。機会があれば水質調査もやりたい。よろしく頼む」


 マーちゃんには何やらえらいことを頼まれてしまった。

 俺はどこか人が来ない場所にある泉を調べて、うちのトカゲ姉さんをそこまで連れていかないとならないらしい。

 トカゲ姉さんがそこで何をしようと俺は何も言わないつもりだ。本当に駄目な場合には神が止めて下さるだろう。

 ちなみに海に連れていく勇気は今は出なかった。


 巨大な移植ゴテのような装置を使い、吸い取るさんは次々と樹の周りを掘り返していった。

 対象の樹は空気にとけるように消えていったため、後には大きな穴だけが残ることになった。おそらくは移植する予定の場所に送られたのだろう。

 俺のいる『塔』は同じものが1200万基あるそうだが、塔以外である可能性だってもちろんある。


 周辺の緑の絨毯じゅうたんについては黒クモさん達が引き剥がして行き、穴だらけの地面をさらに茶色にしていた。

 視界の隅では黒子さん達が、舞茸マイタケのようなキノコを丁寧に袋に詰めていた。あれは『波のキノコ』だ。珍味として名高いがこんな浅層にあったとは。


 そんな次第で、その日のうちにマーちゃんたちの作業は完了した。

 吸い取るさんのやりきった感があふれる『(๑•̀ㅂ•́)و』な顔が印象的だった。


 余談だが皆が作業したそこは『道』じゃなかった。茶色で柔らかい土がむき出しで、ついでに大きな穴が一面に開いている為に足を踏み入れるのも躊躇ためらう場所になっていた。




 森の入り口に戻った頃には8ザイト半(17時)になっていたため、明日の帰還に備えてアイテムボックスに引き上げることにした。


「マーちゃん、街に戻った時のことについてなんだけどな、俺のアイテムボックスの容量は馬車か猪車イノぐるまが2台分ってことにしようかと思ってる」


 俺は帰還した後の事について相談した。


「アイテムボックスの能力スキルは珍しいのか? それなら用心に越したことはないが」


「それなりに珍しいが、戦いの神でも幸運の神でも授けてくださるから、使える奴はそこそこいる。ただし俺の場合はマーちゃんがいてくれるから容量が出鱈目でたらめだ」


 常時まぶしい状態のまま、マーちゃんはその場で空中前転をきめながら納得してくれた。


「それで馬車2台分なのだな。ところで奇蹄類の馬もいるなら見てみたいものだ。そういう動物がいるフィールドがあれば連れていってほしい」


 マーちゃんからは例のお願いが出たが、それはかなり難しい内容だった。


「残念ながら馬は貴族の所有してる牧場にしかいねえ。どこかに野生の奴らがいるとしてもだ、国を出て北の山地を彷徨さまようか、海を渡って気の短い民族のいる土地を抜けるしかねえんじゃねえかな。ネタ元は田舎の師匠だ」


 残念ながらうちの国で馬車に乗ってるのは本当にお貴族さまだけだ。


「そうか。それは仕方がないな。では次は山脈の方に連れていってほしい。山を掘りたい。鉱物資源のサンプルが欲しいのだ。鉄が必要というわけではない。あれば色々と出来るがな」


「分かった。そいつは約束する。急ぎの件で横やりが入らなきゃあ今度は山脈の方に連れていくぜ。

ところで弩貝イシユミガイ3匹と角猪ツノイノシシ3頭は今回譲ってもらえねえかな? そんぐれえなら馬車2台に入る」


 図々しいとは思ったが、思いきってマーちゃんにお願いしてみた。


「それはもちろん提供しよう。あれらは解剖もしてデータは全部取ってある。コボルトたちもそうだ。キノコや薬草も相当数を採ったから、必要な物は分けるがどうする?」


「ありがてえ。そんなら『波のキノコ』を譲ってほしい。一抱えでイノシシの肉500食分と同じ値段なんだ」


「それなら6株で良いかな。12株見つけたのだ。樹を引き抜いた甲斐かいがあった」


 マーちゃんからはありがたい申し出もあって、俺は買い取り額の査定が楽しみになってきた。

 もちろん、マーちゃんに頼まれた辞書と教科書も買わなくちゃならない。



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