第12話 祈り
翌朝3
アイテムボックス内では困ったことに雨まで降っており、塔の中だというのに灰色の景色が視界一杯に広がって、
この円形の塔の内部のような空間は、本当に塔の内部だそうだ。
床の幅3キロメートル、天井まで1キロメートル、直径20キロメートルの細いドーナツの上で俺は暮らしてることになる。
真ん中にある恐怖の吹き抜け部分については、直径が14キロメートルもある。つまりほとんど吹き抜けだと言ってもいい。
俺がいるここは10階で、全部で30階もある。
これを支える地面は下に無く、塔の一番上が
もし例の『吹き抜け』から落ちれば、一生涯そのまま同じ速度で落下し続けるだろう。あるいは落ちずに
「おはようケンチ。今日ここは雨の日だが屋根も増やしたので安心してほしい。お祈りが終わったら食事にしよう」
精神が未知の金属で出来ているマーちゃんは今朝も平常運転だった。
「そういえば約束したんだったよな。よっしゃ。この教会の正会員であるケンチがお祈りについてレクチャーするぜ。大事なのは気持ちだ。祝詞や作法じゃねえ」
俺は携帯用祭壇をかまくらハウスの外に出して、マーちゃんを連れて
「天におわします我らが魔法の神よ。今日からもよりいっそう、あなたの御心にしたがって生きることを誓います。
この卑しい身をどうかお守りください。ご威光がいつも世に降り注ぎますように」
最初の言葉を唱えてから、地面に額がつくまでの礼を2回、更に頭上を仰いで両手を広げてから礼を1回。
実にシンプルなお祈りながら、気持ちを込めた朝の習慣は終わった。
「前に見た時も思ったのだが、ずいぶんシンプルな祈りなのだな。んお!?」
朝のお祈りが終わった直後、感想を述べるマーちゃんの身体は
マーちゃんの背中にもしも『つぼみ』があったとしたら、もっと危険だった。頭に葉っぱがあるし、尻尾も長いし、角もないから大丈夫だとは思うが、これは進化の光ではないかと俺は不安になった。
「今のところ光ってるだけだな。不思議なことに何も消費していないように感じる。それにしても消えないのは困った」
マーちゃんにマイナスの変化は起きていないようだ。
それにしてもスタミナも何も消費せずに光を発するのは奇跡の一種なんじゃないだろうか。
「すげえなマーちゃん! きっとマーちゃんは神様に認められたのかもしれねえ。いつも俺を助けてくれてるし」
俺だって善行は積むようにしている。
出来るときには孤児院に差し入れをして、子供と一緒に店に怒鳴り来んできたどこぞのカミさんを丁寧に追い返し、借金を返せない飲んだくれのオヤジをブチのめして鉱山に送り、貴族の旦那と別れたくないお姉さんの懐に金を差し込んで慰めたりした。
そんな俺のお世話をしてくれるマーちゃんに対し、神は応えてくれたに違いない。
「そうなのか。確かにノーコストで8畳の部屋用LED照明器具ぐらいの光量は奇跡だと思うが、これは消えないようだぞ」
「そのうち都合良く消せるようになるんじゃあねえかな。それにひょっとしたら組合でウケるかもしれねえ。自由に外に出られるかもしれねえぜ。辞書だって割引で買えるかもしれねえ」
マーちゃんの扱いは精霊とか聖獣になるかもしれない。
もちろん教会本部に連行される可能性があるが、悪い扱いはされないだろうし移動に便宜を図って貰える可能性がある。
「紙媒体は高いのだろうな。割引は大きい。国をまたぐ際に楽が出来るのも大きいか。それではしばらくこのままでいても良いな。
これから先、神と言葉を交わせる可能性も出てきた」
マーちゃんは、最初のお祈りから良いスタートをきったようだった。
探索は3日目の今日、森の入り口に引き返しながら持って帰れそうな物を採って、それからもう1日使って帰れば4日間で依頼は完了出来そうだ。
朝食のミルクコーヒーと『カロリーフレンド』をモソモソと食いながら今後の予定をマーちゃんと話し合った。
懐かしのカロリーバーはポテト味とチョコレート味だ。
マーちゃんの奇跡も俺の食欲を元に戻してくれなかった。
それでも他では絶対に食べられないし、これはこれで美味い。
「
「そりゃな、大きいやつだったら500食分ぐらいはあんじゃねえかな。マーちゃんと会う前は
探索でしんどいのは大型の獲物を持って帰ることだ。どれだけ多く獲物を狩れても、持って帰れないのでは意味が無い。
普通は6人ぐらいで組んでやるんだが、あいにくと信用できそうな奴が居なかったし、早くから
教会と組合の『しきたり』を守るよりも、変なところで仏心を出してしまう
俺たちのケツを持ってくれるのは今でも組合長と司祭様だ。
「昨日聞いた話からすると
マーちゃんがそう言うからには期待が出来る。樹を引っこ抜く余裕もありそうなので、帰りはお任せすることにした。
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