第10話 弩貝《イシユミガイ》

 何かが破裂したような音が森に響き渡った直後、俺の100メートルほど前方にいる若い男の探索者が後ろにぶっ倒れた。


「ファガダァァァ!!」


 そいつの上げた叫び声は、俺を通り越してからそこらの木に反射して消えた。

 あの叫び声は最近の流行か何かか……。


「ケンチ、ここの探索者稼業かぎょうというのは中々に厳しいものだな。ああいう生き物が相手だと先に見つけられたら終わりではないのか? 鉄の盾かなんかで防げると良いがな」


 コボルトどもを退しりぞけた後、俺とマーちゃんはそのまま森の中を進んで今回の目的である獲物をとうとう見つけた。

 発見したのは獲物だけではなかった。全員18歳ぐらいだろうと思うが、男女の6人パーティがそいつから50メートルぐらい離れた場所にいたのだ。

 だから俺とマーちゃんは、気配隠蔽いんぺいを使ってまず隠れることにした。こんな森の中で同業者と鉢合はちあわせになるのはろくでも無いことにしかならないからだ。

 そうやって様子をうかがっていたところ、18歳仲良し6人組が5人組になってしまう現場に出くわした。


「ケンチ。素朴な疑問なのだがな、彼らを助けないのか? ケンチの信仰している神というのはこういう場合について、信徒に教えをさずけてはいないのか?」


 マーちゃんからはそういう突っ込みが来てしまったが、俺としては連中を助けるつもりも無ければ、教会からそういう教えをうけたおぼえもない。


「マーちゃん。相手が一般人なら俺も助けたろうよ。こんな所に来る一般人はいねえけどな。あいつらは自己責任でここに来てる。そしてここは『修行しゅぎょうの場』ってやつでな、俺たちにとっちゃお互いに手助け無用なわけだ」


 マーちゃんはそれで納得してくれた。


 そんなことを俺たちが話している間に、何かが破裂したような音はもう一回鳴っていた。

 木の後ろに隠れもしないでいた仲良し5人組の女がそれで倒れた。もう4人組だ。




 今回の獲物である弩貝イシユミガイは、低木が固まって生えているヤブの中に隠れていた。

 こいつの攻撃手段は、こういう所に住んでる腹足類ふくそくるいとして相応ふさわしいのだが、生き物としてはかなり珍しいものになる。


「アレが飛ばしているのはダーツか? ずいぶん短いようだったが。それに亜音速ぐらいは出てたな」


 マーちゃんにはアレが見えてたらしい。流石の動体視力だ。


「マーちゃんが見た通りだ。あいつは……イモ貝ってやつだ。前世の仕様しょうもないことはよくおぼえてんだよ。長い管のある巻き貝なんだが、そっから20センチぐらいのダーツを飛ばしてくる。それが銃の原理と同じだから厄介やっかいなんだ」


 生き残り4人組からは無理だろうが、俺たちのいる場所からはそいつの全身がよく見えた。

 体長は約3メートル、体高は130センチメートルぐらいだろうか。

 前後に長いイモみたいな巻き貝は金属のような光沢をしている。殻から大きくはみ出た中身の方は表面がウロコだらけでうるおいが無い。

 頭の方はカタツムリのように2本の目が上に出ているが、顔の横から追加で長い管が前に突き出ていた。あれが銃身だ。


「あいつぁな、2種類の体液を混ぜて身体ん中で爆燃ばくねんをおこしてんだ。それのガスでダーツを飛ばしてる。連射が出来ねえのと、生き物だから弾数が少ねえ。ただし弾速が速くて狙いが正確だ。正面から行くと死ぬ」


「それでどうするのだ、ケンチ?」


 今回はアイテムボックスもあるし、マーちゃんがいてくれるおかげで倒すのはかなり楽だ。


「本当は非常識なんだが、あいつぁ夜にろうと思う。こっちぁ安全に寝られるし、死体はそのまま持って帰れる。生き残りの4人組がこっから帰るまで待ちたいしな」


 そんなことを話していたら、視界のすみの方で3人目が倒れた。男だ。ヘッドショットだった。 

 どうしてあいつらは、いつまでも同じ場所に居るんだろうか。

 死んだ仲間の持ち物をあさって帰ろうという魂胆こんたんは分かるが、自分の安全を確保しようという気が微塵みじんも無いのは論外だ。

 これから日が落ちるまで、俺たちが休憩している間に3人組は全滅しそうだった。


 


「マーちゃん、探索者組合ってのは宗教組織なんだ。教会の下部組織って言やあ良いのか。つまりはゴーリ教会のシノギの一つなわけだ。正式名称は『勤勉なる信徒による探索者組合』ってんだよ」 


 夜を待つためにアイテムボックスに戻った俺は、マーちゃんから「探索者組合の社会的な位置付けについて教えてほしい」と言われてしまった。

 お世話になっている身の上だし時間が来るまではひまでもあるので、俺は自分が所属しているややこしい組織についてマーちゃんにかいまんで話すことになった。


 探索者組合は内海を囲む7か国の全ての都市に支部が置かれているし、税金は払っていても運営は独立している。

 借金の取り立てや店の用心棒、愛人に手切れ金を渡してきたり、冠婚葬祭かんこんそうさいの仕切りの手伝いまでやる。もちろん危険地帯に足を踏み入れるのも仕事だ。

 さらに、俺たちは武装勢力でもあるのに都市に入ることが出来る。ただし入れるのは外区だけで政治中枢のある内区には入れない。


 こういった特徴を列挙していくと、前の世界(つまり地球)で言うところのマフィアが近いという説があるが、もう一つだけこの条件をクリアしている組織がある。それが宗教組織だ。


 この世界には、聖人ターケシ・ゴーリを開祖とする多神教のゴーリ教会が存在する。

 複数の国の各都市に教会を建て浸透しんとうしたゴーリ教会は、影響力を拡大するため、運営資金を生み出す下部組織と合法的な私兵集団もまた各都市に置きたがった。

 こうして生まれたのが探索者組合というわけなのだ。


「俺たちは教会にとって、正式な資格を持った信徒ってことになってる。探索者を生きて引退することが出来たら、教会が次の仕事を世話してくれるし、助祭にだってなれることもある。大半は殉教者じゅんきょうしゃになるんだけどな」


 俺たちは教会が主にあがめている『法治の神』の従者である『戦いの神』や『魔法の神』、『幸運の神』の信徒として能力スキルの恩恵を受けながら、上納金を納めているというわけだ。


「それでケンチや組合事務所の人間は神のことをよく引き合いに出すのだな。納得した。

ところで私も神と部分的に交信することは出来ないだろうか? 信徒ケンチよ」


 組織の説明の後で、マーちゃんからはもっと面倒臭そうなお願いをされてしまった。


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