第46話 番と分かっていたのに?

 アルナンドはたじろぐ。


 いきなりプリムローズの赤ん坊は自分の子供だと言われ、そんなはずはと思うが…


 (まさか…まさか。あの夢だと思っていた事が現実だったのか?


 うそだろ!あんな事本当にしたのか?


 俺が?


 信じられん!


 それが本当なら今まで夢だと思っていたことが悔しい!)


 眉は寄せられ目はきょろきょろして、いかつい顔がさらに際立つ。


 そして「くぅ~!」と苦しそうに息を吐きだすとやっと話しだした。


 「俺は…俺はてっきり夢だとばかり思っていたから…まさか俺が本当に?プリムローズと?プリムローズどうなんだ?その…はっきり言ってくれ!」


 「いい加減にしてよ。いきなり私にあんな事しておいて…夢だと思っていたですってぇ?わ、私だって最初は夢だと思ってたのよ。でも、それが現実だって…あなたに見つめられたら訳が分からなくなって…わ、わたしのせいじゃないわ。だってアルナンドが無理やり…」


 「俺が無理やり?いや、そんなはずはない!確かに俺の方が積極的だったが無理やりではなかったはずだ!」


 ふたりは顔を突き合わせて喧嘩腰になるが…


 (いや。やっぱり無理やりか…生贄の儀式とばかり思っていたからな。俺はプリムローズを傷つけたのか?どうすればいい…)


 アルナンドの心の中には怒涛のような後悔が吹き荒れる。



 「まあまあ、ふたりとも少し落ち着けって。まず話を整理させてくれないか?」ブレディが割って入る。


 「ああ…」


 アルナンドも少し落ち着こうとプリムローズから距離を置く。


 「まずアルナンド。プリムローズが番だと分かっていたのか?」


 「ああ、プリムローズとは8年前に出会ってすぐに気づいた。でも俺は竜帝になったばかりでこれからの竜人の子を増やす打開策を何とかしなければならなかっただろう?ブレデイが必死で番にこだわらなくて済む方法を探してくれてもいたし、そんな俺が番の事を話したらみんなどう思う?」 


 「まあ、そうだろうな。アルナンドは俺があの薬が出来た時一番に飲んでくれたからな」


 「当たり前だろう」


 「じゃあ、アルナンドはプリムローズが番と知っていて関係を持ったって事でいいんだな?」


 ブレディがアルナンドに尋ねる。


 「ああ、でも信じてくれ。俺はあの夜の事は夢だと思っていたんだ。確かにそんな事を想像したと思っていただけで…でも、プリムローズが部屋に来なければそんな事にはならなかったはずで…」


 「何よ。私が悪いって言うの?」


 「アルナンドはちょっと黙ってろ。話がこじれるばかりだろ。聞いての通りだプリムローズ。アルナンドが君を番として認めたくなかったのは俺達の事があったからなんだ。でも、君に再会ってしまった。きっとアルナンドは苦しかったと思う。ほんとは番をわかっている君を番と認められないなんて…」


 ブレディはあくまでもアルナンドよりで、気の毒そうにアルナンドを見る。


 アルナンドはこくこく頷くとプリムローズに言った。


 「でも、俺はプリムローズにあんな事をしたのは間違いだったと思ってる。まさかほんとにそんな事をしたなんて…」


 「間違い?ひどい!そんなに嫌だったなんて…」


 プリムローズはたまらず少し距離を置いてとうとうしゃがみ込んだ。



 ブレディが走り寄って来て話をする。


 「プリムローズの気持ちはわかる。どうしてそんな事になったかだけど…多分、魔力過多になったアルナンドのそばにプリムローズが近付いたせいもあるんじゃないかと思う。プリムローズにはきっとアルナンドの魔力を和らげる力があるんじゃないか。俺が思うに番同士だからこそ互いを助ける作用が働いて…きっと互いの求める気持ちが引きあう磁石みたいにしてふたりは結ばれたんだろうな。きっとこれは自然な事だ」


 「そんな事わからないわ」


 「でもプリムローズもアルナンドが好きなんだろう?アルナンドも番認識阻害薬を飲んでいても抑えられなかったって事だし」


 「そんなのただのいい訳よ。女なら誰でもよかったのかもしれないじゃない!」


 アルナンドが怒鳴るように言う。


 「俺はそんな男じゃない!好きな女意外となんか!」


 「そんなのどうとでも言えるじゃない!」


 プリムローズはいらいらしている。


 (もう、どうすればいいのよ。番だからって…だからって…ああ、もう!)



 「プリムローズがそう言うのもわかるけど…俺も驚いてる。少し説明をさせてくれないか?」


 ブレディが聞いてくれと言わんばかりにプリムローズを近くの木の根元に座らせた。


 それを見たアルナンドは風を大きくして周りの瘴気を振り払う。


 ブレディはプリムローズの横に座ると話を始めた。


 「アルナンドはいい加減な奴じゃない。元々あの薬は脳に番の事を忘れさせる作用がある薬なんだ。もう番を事を考えなくてもいいと思えれば次のステップに進めるだろう?でも、アルナンドにはもともと番の存在がわかっていたのにそれを犠牲にして薬を飲んだ。それなのに番に出会ったんだ。どんなに番の事を考えるなと言ったって無理だ」


 「じゃあブレディ。番認識阻害薬の効果はなかったって事なの?」


 「いや、番がいると分かっていてそれを止められるものがあると思うか?多分どんな薬を使ったって無理じゃないか?」


 「じゃあ、アルナンドは私を番とはっきり認識してるって事?」


 「もちろん。ただ。薬を飲んでいる事で番を認識できないと思い込んでいるだけで…それにアルナンドの態度を見ていたらもうわかるはずだろう?」


 「……」


 プリムローズははっとしたようにアルナンドを見た。


 アルナンドはふたりをじっと見つめたままで…


 「でも…俺だけが番を娶るわけにはいかんのだ」その声はすごく小さくて…


 「何言ってるんだ!番が見つかったんだぞ。みんな絶対に喜ぶに決まってる。竜人が番を見つけられる確率はすごく少ないと知ってるだろう?それなのにそのチャンスを棒に振るばかがどこにいるんだ。アルナンド。プリムローズが好きなんだろう?」


 「そ、それは…俺はただ彼女が番だと分かっていたから…だから、その…夢の中でしか俺のものに出来ないと思って…でも、みんなを裏切るつもりはなかった。だから…」


 強がりを言っているのだろう。アルナンドの顔は苦しさで歪む。


 「アルナンド。お前そんな事を気にしてる場合か?」


 「ほらごらんなさい。番だって言うのも嘘なのかもよ」


 ブレディは立ち上がるとプリムローズに話をする。


 「そんなことあるはずがない。番は竜人にとって何よりかけがいのないものだ。プリムローズそんなのは君の勘違いだ。アルナンドは俺達に遠慮してるだけで…」


 「「ブレディ!」」


 ふたりとも互いを意識してか心とは反対の方向に事は進んでいく。



 その間にカイトはマグダの墓を掘って宝珠を取り出そうとしていた。






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