第47話 宝珠を取りこんだら

「おい、カイト何してる?」


 そう言ったのはブレディだった。


 「宝珠を取り出しているんだ」


 カイトの様子はおかしかった。なりふり構わず土を掘りマグダの墓を掘って行く。そして棺桶が見つかるとそれを持っていた手斧でたたき割った。


 そして骨になったマグダが胸に抱えていた宝珠を鷲づかみにした。


 「カイト、いくら何でも乱暴だろう?お前それは死者に対する冒とくだ」


 ブレディはカイトの乱暴なやり方に怒っている。


 「どうしたんだブレディ?」


 ふたりの会話が耳に入ったアルナンドが聞く。


 見るとカイトが宝珠を持って走り去ろうとしていた。


 「カイトどこに行く?ちょっと待て!」


 アルナンドがひょいとカイトを捕まえる。



 「離してくれ!頼む。森はもう取り返しのつかない状態だ。今さら何をしたって無駄だ。でも、俺にはこれが必要なんだ」


 「そんな訳に行くか!これはプリムローズにゆだねられたものだ」


 アルナンドは軽々とカイトから宝珠を奪う。


 「カイト。あなたどうしてそんな事をするの?」


 「頼むプリムローズ。兄を助けるには宝珠が必要なんだ。兄はずっと鉱山で働かされていて、逃げられないように捕まっているんだ。それに兄だけじゃない竜族の男達がたくさんそうやって苦しんでいる。あいつのせいで…」


 「そんな理由が通ると?」


 アルナンドはプリムローズの胸に宝珠をぐいっと押し付けた。もちろん持っていろと言う意味でだが…



 その瞬間プリムローズの身体が光に包まれる。


 宝珠が青い光を放ち宙に浮いたと思ったらプリムローズの胸にスゥっと吸い込まれて行った。


 プリムローズがばたりと倒れる。


 アルナンドは慌てて腕を伸ばして寸前のところで受け止める。


 「プリムローズ?おい、しっかりしろ!」


 「ああ、宝珠が…」カイトの身体が崩れ落ちる。


 「カイトしっかりしろ。お兄さんは俺たちが助けてやる。心配するな」


 そう言ったのはブレディだ。


 アルナンドはカイトの事など気にも留めていない。


 「おい、ブレディ。いいからプリムローズを見てくれ…」


 「大丈夫だ。宝珠を取り込んだせいで一時的に気を失っただけだろ?アルナンドいくら好きだからって、心配するな」


 「誰が!そんな事を言ってる場合じゃない。早くしろ!」


 ブレディは余裕の笑みを浮かべてプリムローズの身体に手をかざす。


 「うん?なんだこれは…」


 突然プリムローズが苦しみ始めた。


 「うぐぅ…く、苦しい…胸が…」


 プリムローズが胸元を掻きむしるようにして苦しみ意識を失った。


 「どうした?しっかりしろ!ブレディ…心配ないんだろう?どうなんだ。おい!」


 「いや…おかしい。もしかして宝珠に何か仕込まれていたのかも知れない。これは何かの魔法がかけられているみたいだ」


 「そんな…カイトお前何をした?どうすればプリムローズを助けられる?」


 アルナンドはプリムローズをその場に横たえるとカイトめがけて突っ込んだ。


 「バッコーン!!」


 カイトがアルナンドの拳をくらって吹き飛ぶ。


 カイトはひっくり返りながらも「何も知らない。俺は宝珠を届ければ兄を助けると言われて…」


 アルナンドがすたすた歩いてカイトに近づくとカイトは地面に這いつくばったままじりじり後ろに下がる。


 「お前!最初からプリムローズを騙してたのか?」


 アルナンドの顔はものすごい形相になり紫色の瞳がきらりと光る。



 ***


 そこに馬に乗った男と騎士たちが怒涛のごとく現れる。口には防護マスクのようなものをつけている。


 そして後ろには魔導士の姿も見えた。


 「お前らそこまでにしろ!」


 馬に乗った男が馬から飛び降りると後ろの騎士たちもそれに続いてゾクゾクと並んでいく。


 「誰だお前らは?」


 アルナンドの気迫はさらに上がり、首を左右に振ってその男たちを見据えた。


 現れたのはラルフスコット辺境伯の異母兄ライゼウスだった。


 「私はこのせぶりの森の領主のライゼウス・トラバウト子爵だ。勝手にこの森に入るとは不届きな奴らだ。ハインツこいつらを捕らえて牢にぶち込め!女は屋敷に運べ」


 「何を勝手なことを…彼女が俺達が連れて行く。決まってるだろう!」


 「私にそんな偉そうな口を利くとは…お前は誰だ?」


 ライゼウスは眉間にしわを寄せる。



 アルナンドは背筋をグイっと伸ばして顎を引くと彼を見据えて名を名乗る。


 「俺はゼフェリス国竜帝。アルナンド・エステファニアだ。この女はわが番。他の者に触れさせることは許さん!」


 「どうしてゼフェリスの竜人がここにいる?メルクーリ国には関わらないはずだ。まあ、竜帝と聞いたなら捕らえるわけにもいかん。お前らはさっさとここから失せろ!おっと、その前にプリムローズにお前と行くか聞いてみるといい」


 ライゼウスは口元を歪めて意味深な笑いを浮かべる。


 「プリムローズ心配するな。必ずお前を助ける。俺たちと行こう」


 アルナンドは今しがた気が付いたプリムローズの頬を指で優しくなぞる。そして優しく話しかけた。



 ライゼウスはそのやり取りを面白そうに見ていたが今度は自分の番だと言わんばかりに話しかける。


 「プリムローズ私だ。わかるか?お前は誰と行く?どうだ私と行くだろう?」


 朦朧としたプリムローズだったが、その男の声がしたと思ったらいきなり起き上がった。


 「はい、あなたと行きます」


 アルナンドは目を見開くとプリムローズの腕を掴んで身体を揺すった。


 「どうして?どうしてそんな事を言うんだ。お前は俺の番。俺はプリムローズを二度と手放したりしない。必ず幸せにすると誓う。だから行くな!」


 「おいおい、愛の告白か?でも、無理だな。プリムローズは私と行きたくて仕方がないらしいぞ。そうだろうプリムローズ?」


 「はい、あなたと共に…」


 プリムローズはふらふらする身体で立ち上がりライゼウスの元に歩いて行く。



 ライゼウスは余裕でプリムローズを引き寄せ口に防護マスクをつけてやると自分の馬に乗せ自分もプリムローズの後ろに乗った。


 「引き上げるぞ!」そう号令をかける。


 騎士たちはいっせいに引き上げていく。魔導士たちはアルナンドを警戒しながらそれに続いた。



 「待ってくれ。プリムローズ待ってくれ。どうして…」


 アルナンドはあっけに取られて去って行くプリムローズたちを止める事も出来なかった。

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