第14話 夕食は冷たい雰囲気に包まれて


 ピックにダイニングルームに案内にされるとダイルが忙しそうに準備をしている。


 「ダイル。夕食まだ?」


 はっ?一瞬でダイルの顔が険しい顔つきになる。


 (そりゃそうだよ。一人で大変なのに、それはないでしょピック)


 「私、お手伝いします」


 プリムローズは急いでキッチンから出来上がった料理を運んだりグラスやお皿の用意をする。


 「ピックお前も見ていないで手伝え」


 「え~、プリムローズお手伝いなんかいいんだよ。今日はダイルの当番なんだから…」


 「でも、私は新米ですから…ピック。ちょっとそこをどいてもらえる?」


 椅子に座って邪魔なピックに遠慮なくプリムローズが告げる。


 「いいって言ってるのに‥」


 ちなみに今日の夕食はビーフシチューとサラダにパン。プリムローズは一般的な家庭料理だなと思うがいい香りにお腹がぐぅと鳴った。


 恥ずかしさで赤くなる。


 「プリムローズ今お腹鳴ったよね?かわいい」


 ピックがいきなり立ち上がる。


 そこにどやどやと男たちが入って来る。


 「なんだピック。何がかわいいんだ?」


 ブレディとレゴマールが首を突っ込んで来る。


 「レゴマール。プリムローズのお腹が…」


 (シャラップピック!私はこれ以上の恥辱にまみれるつもりはない!)


 「ピック。これお願い」


 プリムローズはすかさずピックにパンの入った籠を突きつける。


 「何?これをどうするの?」


 「いいから黙って籠を置いて!」


 「プッ!何だかプリムローズがいるだけでいい雰囲気だよ。いつもの夕食が華やかって言うか」


 くすくす笑いながらレゴマールがつぶやきながら席に着く。続いてブレディとアルナンドも席に着いた。


 ダイルがビーフシチューの入った鍋を持ってくると大きな皿にシチューを入れて行く。


 プリムローズはそれをかいがいしくそれぞれのテーブルの前に置いていく。


 「うぅっ、プリムローズにこうやってもらうだけで料理がうまそうに見えるよぉ~」


 プリムローズは思う。(ピックあなたは子犬なの?今にはぁはぁ舌を出すし始めるのでは?)


 ダイルの冷たい視線と氷のような一言が…


 「あのなピック。作ったのは私だ。勘違いするな。あっ、でもプリムローズも当番に入ってもいいって言ってくれた。これからは少し楽になるぞ。でも手抜きは許さないからな」


 「ほんとかプリムローズ?仕事も出来ておまけに家事まで出来るのか?すげぇな」


 レゴマールやブレディも驚く。


 「私は貴族のご令嬢ではないので、でも、しばらく家事はしていなかったので失敗しても多めに見て下さいね」


 「そんなの気にするもんか。その気持ちがうれしいんだから。なっ、アルナンドもそう思うだろう?」


 アルナンドは置かれたビーフシチューをすでに食べ始めていた。


 素っ気なく「ああ」の一言。


 プリムローズはそんなアルナンドの態度に少し寂しさを覚えるが…


 (ああ、私って相当嫌われてるのかな?でも、生贄になるような女だからかな?まあ、別に好きになってもらわなくたっていいんだし…でも、何だろう。この胸がきゅって痛い感じ…きっと疲れたのかも。だって今日は色々なことがあり過ぎたもの)



 「さあ、盛り付けも終わったし、そろそろ食べるか」


 ダイルが機嫌よく席に着いた。


 「おい、アルナンド?お前もう食べたのか?」


 「ああ、先に失礼する。ごちそうさま」


 「なんだよ。プリムローズと一緒の夕食だぞ。いくらアルナンドでもそんな態度許せないぞ」


 ブレディも気分を悪くしたらしく文句を言う。


 アルナンドはぶすっとした顔でブレディに言う。


 「彼女はお前たちと仲良く出来れば問題ないだろう?俺はその結婚相談所とかには関わる気はないからな」


 「そんなの出来る訳ないだろう!メルクーリに来たのは5人の結婚相手を探すためだろう?アルナンドも相手を見つけてくれなきゃ」


 「ああ、そうだな。番は関係ないんだ。俺はどんな相手でもいい。子供さえ作れればそれでいいさ。じゃあ、おやすみ」


 「そんな…アルナンド考え直せよ。きっと気に入った女の子が見つかるって」


 レゴマールもアルナンドにすがるような視線を送るが…


 アルナンドの決意は固いらしく彼は何も言わずダイニングルームを出て行った。


 「プリムローズすまんな。嫌な気分にさせてしまった。いつもはあんなじゃないんだが…」ダイルが謝る。


 「いえ、気にしてませんから」


 「きっと照れてるんだよ。気にするなよ。さあ、冷めてしまうよ。食べよう」


 そう言って場を和ませたのはピックだった。




 

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