第57話 ユリア先生との淡々とした補習授業
「じゃあ、補習始めるわよ」
「は、はい……」
翌日約束通り、ユリアの補習を受ける事になった拓雄は、補習を行う教室に行き、彼女の個人授業を受ける。
学園でも一番の美人とマンツーマンの授業と言うことで、彼も緊張していたが、ユリアはいつになく厳しい表情で補習授業を行っており、拓雄も彼女に気圧されて、縮こまりながら、授業を受けていた。
「この構文の訳は……ほら、やってみなさい」
「はい」
ユリアがホワイトボードに滑らかな手付きで、英文を板書していき、拓雄が懸命にそれを書き写していく。
淡々とした口調で授業は進み、拓雄も息が詰まるような緊張感の中、ユリアの講義を聞き、彼女と二人きりの授業である事も忘れてしまう程、打ち込んでいったのであった。
「という意味になるの。わかった?」
「は、はい」
「じゃあ、小テストやるから、解いてみて。六十点以上取れたら、今日は終わりで良いから」
と言って、ユリアはプリントを差し出し、腕時計で時間を確認した後、小テストが開始される。
シーンっと静まり返ったユリアと二人きりと言う、独特の緊張感の中、拓雄はどこか居心地の悪い気分になりながらも小テストの問題を解いていった。
「出来ました」
「うん。ちょっと待ってて。採点するから」
それから十五分ほど経ち、小テストをユリアに提出して、ユリアが採点を手早く済ませる。
「七十点」
「そ、そうですか」
採点を終え、すぐに拓雄に返却し、合格点を取ったのでホッとする。
「じゃあ、帰って良いわよ。お疲れ様。この調子で頑張りなさい」
「はい。えっと……」
約束通り、六十点以上を取ったので、これで補習授業は終了し、ユリアも教材をしまって、職員室に戻る準備をする。
しかし、拓雄は淡々と帰り支度をするユリアをジーっと見つめ、
「何?」
「え? えっと……もう終わりですか?」
「そうだけど」
「そ、そうですね……」
あまりにも何事もなく終わってしまったので、拍子抜けしてしまったのと同時に、ユリアともっと二人で居たいと目で訴えていたが、ユリアは全く表情を変えず、用があるなら、早く言えとばかりに冷たい目で拓雄を見つめていた。
「はあ……何か質問でもあるの?」
「えっと……もう少し、先生と一緒に居たい……です」
「…………」
勇気を出して、拓雄がそう告白すると、ユリアは相変わらず、表情を崩さず、じっと彼を眺める。
そして溜息を付き、
「五分だけよ。まだ職員室に戻って、やらないといけない事があるから」
「は、はい」
駄目元で、一緒に居たいと言うと、ユリアも少し呆れたような笑みを浮かべながら、了承し、拓雄も顔を真っ赤にして喜びを露にする。
ユリアも拓雄にしては思い切ったことを言ってくれたと、内心、嬉しく思いながら、彼と向かい合う形で座った。
「それで、何か話でもある?」
「いえ、特に……」
「そう。私も特にないわ」
向かい合って、二人が座り、ユリアがあっさりとそう言うと、拓雄も更に居心地が悪い気分になる。
実際、話があった訳でもなく、ただユリアと二人きりになりたかっただけなので、彼女の顔を見ると、何で一緒に居たいと言ってしまったのかと、無性に恥ずかしい気分になってしまった。
「話がなくても、一緒に居たいと言われて、悪い気はしないわ。でも、今日はあくまでも補習のために呼んだということを忘れないで」
「は、はい……すみませんでした」
「うん。拓雄君、学校は楽しい?」
「え? 楽しいですよ」
「本当に? 前、学校休んだりしていたけど」
「あ、あれはちょっと体調を悪くしただけで……」
度重なるすみれや彩子のセクハラに耐えかねて、一日休んだことはあったが、別に彼女たちのことが嫌いになった訳ではなく、実際、三人と居るのは悪い気分はしなかった。
しかし、まだ三人の誰かを選んで付き合うという気はとてもせず、悪いとは思いながらも、返事を引き延ばす事しか彼には思いつかなかったのであった。
「悩んでいるなら、別に無理に付き合う必要もないわ。あの二人のことで悩んでいるなら、遠慮なく言って。それとも私のことで何か悩んでいる?」
「いえ、そんな事は!」
ユリアのことで悩んでいることなどないので、即答すると、ユリアも穏やかな笑みを見せながら、彼の頭を撫で、
「そう。何かあったら、すぐに言いなさい。先生、ちょっと不器用な所あるかもしれないけど、出来る限り力になるから」
「は……はい」
思いもかけず、ユリアに頭を撫でられ、拓雄は顔を真っ赤にして、縮こまりながら、そう答える。
いつもは冷たい印象があるユリアが、こんなにも優しく接してくれたのが、彼にとっては新鮮であり、うれしくて舞い上がってしまう程であった。
(ユリア先生、もしかして僕のこと、本当に……)
ストレートに好意をぶつけてくる彩子やすみれと違って、ユリアは何を考えているのかわからない所があったが、少なくとも嫌われてはないと確信してしまい、胸が高鳴っていった。
「もう、五分経ったわ。先生、職員室に戻るから、もう帰りなさい」
「は、はい。さようなら」
いつの間にか五分経ってしまい、約束どおり、ユリアが職員室に戻る。
二人だけで一緒に話したのは、ほんの僅かであったが、それでも距離が縮まった
翌日――
「はーい、拓雄♪ 昨日はお楽しみだったみたいじゃない」
「すみれ先生……お、おはようございます……」
「うん、おっはよ」
「ひゃあっ!」
朝、廊下ですみれにバッタリ会い、不気味な位、上機嫌な彼女に挨拶され、股間をポンっと叩かれる。
「ふん、だらしない声ね。これ位、慣れなさい。よかったわねー、昨日はあの美人教師のユリア先生と、マンツーマンのレッスン受けられて」
「そうよ。本当なら、毎日でも私がしたいのに、ユリアちゃん横やり入れてきて」
「真中先生、いつの間に」
嫌味をこめて
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