第48話 先生たちの中の一人を選ぶのはまだ無理だった
「あ、あの!」
「? 何、拓雄君?」
放課後、拓雄は廊下を歩いていたユリアに声をかけると、
「その……少し、お話があって……」
「何? 長くなるようなら職員室で聞くけど」
「えっと、それはちょっと……」
職員室では話せる内容では無かったので、ユリアに目で訴えると、彼女も何を話したいのか察したのか、溜息を付きながら、
「付いてきて」
「あ、はい……」
ユリアは生徒指導室で話を聞く事にし、拓雄も彼女の後を付いていく。
今、この事を相談出来るのは事情を知っているユリア以外は思い付かず、重い足取りのまま、生徒指導室に入っていった。
「それで話って?」
「あの……彩子先生とすみれ先生の事で……」
「二人に交際を迫られている事なら、私の方から言う事はないわよ。嫌ならちゃんと断りなさい」
「でも……」
「でも、何なの? あなたがちゃんと断らないし、理事長達にバレても率先して、先生達を庇ったんじゃない。だから、嫌じゃないって私達も看做したのよ。付き合う気があるなら、ハッキリ本人に言えば良い。私は止めないし、その資格はもうないわ」
生徒指導室に入るや否や、ユリアは拓雄に対して、鋭い目で睨みながらそう言い、拓雄も困った様に言葉を詰まらせる。
彩子もすみれも嫌いでは無いが、付き合う気があるかと言われると、そんな勇気も無いので、彼も二人の気持ちに対してどう応えれば良いかわからずにいたのであった。
「はあ……二人にはあまり学校で破廉恥な事はしないように釘は刺しておくけど、期待はしない事ね」
「うう……」
突き放すようなユリアの言葉を聞いて、拓雄も逆に項垂れる。
三人の事は好きだったので、自分の事でクビになってほしくないという一心で、あの時は庇ったが、それが逆に状況を悪化させてしまった事を後悔していた。
「そんな顔をしないの。先生に相談してくれて、ありがとう。それだけでも嬉しかったわ。何かあったら、いつでも話は聞くから」
「はい……」
「うん。それじゃ、先生、これから生徒会の集まりに出ないと行けないから、もう行くわよ。じゃあね」
と、彼の頭を優しくなでた後、ユリアは生徒指導室を出て、職員室に戻っていく。
ユリアは拓雄が自分に相談してくれた事自体が嬉しく、少し浮かれた気分になりながら、職員室へ行き、拓雄も彼女の後を付いて、生徒指導室を出て行ったのであった。
翌日――
「拓雄~~……昨日の放課後、ユリア先生の個人指導を受けたんだって?」
すみれに放課後、美術準備室に来るよう呼び出され、行ってみると、すみれが壁に手を付いて、胸を拓雄の上半身に密着させながら、昨日の事を問い詰めていく。
「あーーん、ユリアちゃん、抜け駆けするなんてずるいわよ」
「抜け駆けなんかしてないです。二人のことを相談されただけですし」
「相談しただけー? 男子生徒と美人教師が密室で二人きりで、何もナシなんて、信じられないんですけど」
「お二人とは違うので。先生たちもいい加減にしたらどうです? 私に相談するくらい、彼はすみれ先生たちのセクハラに悩んでいるんですよ」
「セクハラですって。こんな美人先生のおっぱい触らせてあげてるのに、嫌なわけないわよねー」
「うぐう……」
ユリアがすみれに釘を刺すと、すみれは悪びれる様子も見せず、拓雄の顔を自身の胸の谷間に挟み込んで、圧迫していく。
「拓雄君、先生とお付き合いするの、そんなに嫌?」
「い、嫌じゃないんですけど、その……はうっ!」
「んー? ハッキリしなさいよ、このエロ坊主。それとも、私ら全員俺の女にしたいわけ?」
「いやーん、そんなのってないわよ、拓雄君♪ でも、先生、今はそれでも良いかな。最後には私を選んでくれれば、オッケーだし」
と、ふざけてすみれが言うと、彩子も彼の腕に密着して、頬ずりする。
相変わらず反省する素振りもせず、生徒に過剰な色目を使ってくるすみれと彩子であったが、彼女らは押し捲れば拓雄が折れて、靡いてくれると確信しており、遠慮する気など全くなかったのであった。
「ほら、そういう所よ。拓雄君が悩んでいるのは」
「悩んでいるねー……美人教師に密着されて、あそこは元気みたいだけど?」
ユリアが注意しても、すみれは凝りもせず、生徒の股間を手で弄っていく。
既にバレテも、拓雄が自分たちを庇ってくれることはわかっていたので、後は一線を超えるまで、誘惑していくだけと考えており、すみれはいっそ押し倒して、既成事実を作ってしまおうとすら思っていた。
「嫌なら、ここでハッキリさせなさい。私たちの誰と付き合いたいの?」
「そ、そんな事を言われても……」
「私よね、拓雄君! 先生、ずっと君の事、可愛いと思っていたし、本気だったんだからあ」
ユリアがそう問い詰めると、拓雄も相変わらず、言いよどんでしまう。
こんな所で結論を出せて言われても困ってしまい、拓雄も泣きそうな顔をして、うつむくが、三人は期待と不安に満ちた目で、ジーっと彼の返事を待ち、彼は更に気まずい気分になっていった。
「はあ……駄目ね。埒が明かないわ」
「そうよ。このままだと、あんた卒業までに子供が三人くらい出来ちゃうわよ? その歳でパパになりたいの、ええ?」
「やああん、拓雄君とデキ婚ですか♪ でも、三人って事は私たち全員……」
「そ、そんなのっ!」
「いいえ、なるわよ。あんたは、私らを孕ませて、既成事実を作りたいと思っているわ。可愛い顔をして女教師を手篭めにするなんてやるじゃない。くくく……」
と、恐ろしい事をすみれが拓雄に告げ、彼も一気に青ざめる。
しかし、彼女らも本気で既成事実を作るつもりでいたため、最悪そうなりかねなかったのだ。
「それより、今度の三連休。四人で出かける約束していたけど、どうします?」
「ああ、それね。それはそれとして、その前に私とデートしようか、二人きりで?」
「すみれ先生、そういう事、私たちの前で言わないでください! てか、私の時は邪魔した癖によく言えますね、そんな事!」
「えへへ。でも、今度は邪魔しないわよ。私と真中先生と、ユリア先生。それぞれ二人きりとデートして、それで誰が一番良いか決めてもらうってのはどう?」
すみれが、拓雄に抱きついて、胸の谷間に顔をうずめながら、そう提案すると、二人も考え込み、
「い、良いですよ。浮気するのが癪ですけど、今度こそ拓雄君と二人きりでデートできるなら」
「ユリア先生は?」
「私も構わない。でも、バレないように気をつけないとね」
「んじゃ、決定ー♪ んじゃ、じゃんけんして、誰が最初にデートするか決めようか。じゃーんけーん……」
「あ、あの……」
拓雄の意思など無視して、三人が勝手に話を進め、じゃんけんを始める。
しかし彼に拒否する権利もなく、言われるがままに、彼女らとのデートをさせられる事になっていったのであった。
「ぽんっ! イエーイ、トップバッターは私ね」
「うう……私、最後か……」
じゃんけんの結果、すみれ、ユリア、彩子の順番に決まる。
が、結局三人とデートさせられる事に変わりはないので、順番など大きな問題ではなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます