第46話 遂に先生たちの事が学園にバレる
「おっはよー、拓雄」
「うわっ! お、おはようございます……」
翌朝、拓雄が学校に行くと、すみれが背後からお尻を叩いて元気よく挨拶する。
「体調はどう?」
「も、もう大丈夫です……」
「そう。昨日休んだ分の課題、後で渡すから、放課後いつもの所に来なさい。ユリア先生からも同じ事、伝えてくれって言われたから。んじゃねえ」
そう伝えた後、すみれは職員室へと向かい、拓雄も思わず溜息をつく。
昨日、彼女らのセクハラに耐え切れずに休んだのを知っていても、すみれはそれを悔いる様子すら無かった為、拓雄も気が重くなるばかりであった。
放課後――
「失礼します……」
「あ、来た。んもう、一昨日は酷いじゃない、急に逃げてえ」
美術準備室に入ると、いつもの様にすみれ、彩子、ユリアの三人が待っており、拓雄が入ってきたのをみて、彩子が頬を膨らませながら、彼に抱きつく。
「うう、先生……」
「んー? 駄目よ、先生の補習から逃げちゃあ。罰としてえ……先生と今度、日曜日デートしましょうか。ちゅっ、ちゅっ……」
彼女に抱き付かれ、甘い声でそう言われながら、頬にキスをされる拓雄。
案の定、彩子にこんな事をされてしまい、困りながらも、自然に体が熱くなってしまっていた。
「くくく、ズル休みしたからって、大目に見てくれるとでも思ったのかしら? 駄目よ、先生たちの愛のスキンシップは延々と続くの。あんたが気持ちから逃げ続ける限りね」
すみれは、拓雄が自分達のセクハラから逃れたいが為に、休んだ事はわかっていたが、それでもなお止める気などなく、彼女の言葉を聞いて、背筋が寒くなってきた。
「ねえ、先生の補習、今度こそちゃんとやるよね? くす、ヌードデッサン描いてみる?」
「ちょっと、そんな事させようとしていたの? 学校でやる事じゃないでしょうが」
「大丈夫よ、ちゃんと鍵かけて、誰も入ってこれないようにしたんだから。ふふ、サボった罰として、すみれ先生にもモデルを頼もうかしら」
「何て事を頼むのよ、教師ですか、それでも……ま、見たかったら、先生の家にでも来なさい。あんたが脱いだら、私も脱いでやるわ、キャハハ」
と、すみれと彩子は、教師とは思えないような品性のない卑猥な会話を、教え子の前で平然と行い、拓雄も唖然とする。
二人の拓雄へのアプローチは、日増しに過激になって行き、遠慮もなくなっていった。
学校でも見られても告げ口をしても構わないとばかりに、押せ押せになっていき、拓雄ももう悪夢としか思えなくなっていった。
「二人ともいい加減になさい。これ以上やって、彼に嫌われてもいいの?」
「あら、自分もキスしていたくせに」
「そうですよー。今更、ユリアちゃんも良い子ぶらないでください。クビになる時は一緒だからね」
流石に二人を止めに入ったが、すみれも彩子も悪びれる様子はなかった。
「そういう話じゃないんだけど」
「ふん。まあ、良いわ。そうだ、これ課題ね。明日までにちゃんとやっておきなさいよ」
「あ、はい……」
すみれがユリアに文句を言いながら、昨日休んだ分の数学の課題を拓雄に渡す。
課題が本当にあったのかと驚きながら受け取ったが、
「今日は、ちょっと話しがあるの。今度の三連休、暇?」
「はい? えっと、暇ですけど……」
急に彩子に週末の予定を聞かれて、拓雄も面食らう。
「だったら、先生たちとデートしよう。四人でね」
「はあ……」
またこの四人で出かけるのかと、半ば呆れていたが、四人ならまあ良いだろうと拓雄も思っていた。
「ふふん、断る権利なんかないけどね。んじゃ、決定ね。今度、連絡するわ」
「はい」
あっさりと了承したので、すみれも彩子も顔を明るくする。
少なくともまだ嫌われてはいない事は確信し、彩子は拓雄に対して、
「じゃあ、今日は補習の続きをしましょう。先生のヌードデッサンを……」
「そんな事を私が許す訳ないでしょう。彩子先生、いい加減にしてください。彼は嫌がっているのがわからないんですか?」
「そんなに嫌……?」
「う……やりたくは無いです……」
ユリアが助け舟を出したことで、やっと断る決心が付いた拓雄は小さな声でそう呟く。
その言葉を聞いて、彩子も頬を膨らませながら、
「そう。でも、拓雄君。これは補習なの。補習は君に拒否する権利はないのよ。わかる?」
「それは……でも……」
穏やかな口調ながらも、彩子がいつになく強い調子で迫って来たので拓雄も困惑して、言葉を詰まらせる。
拒否する権利がないとは言っても、あんな補習をしていることがバレたら、彩子の方が即解雇になってしまう訳で、なぜ付き合わないといけないのかと思っていたが、
「むうう……しょうがないわね。じゃあ、先生と付き合ってくれる?」
「ど、どうしてそんな事に……あう……」
彩子がまたも交際を迫りながら、抱きついてくる。
最近は会うたびにこれであり、拓雄が昨日、学校を休んでしまった原因を作っているのだが、彩子は何が何でもうんと頷かせようと躍起になっていた。
「先生と付き合うか、補習するか選んでくれる? でないと、ここから帰さないよー」
「くくく、悪い先生ねえ。すっかりエロ先生になっちゃって。んーー、どうなのよ、拓雄。折角だし、ここでハッキリさせちゃったら? 真中先生と、憧れの美人おっぱい先生のすみれ先生に、美人過ぎる英語教師。ほら、誰を自分の彼女にしたいか、さっさと選びなさい」
「うう……」
どうせなら、ここで決着をつけてやろうと、すみれと彩子の二人が教え子の体にしがみつき、すみれは自身の胸を腕に押し付けて、頬を舐めていく。
教師に交際を強要されてしまい、やっぱり学校に来るのではなかったと、後悔していたが、
「止しなさい、二人とも。いい加減にしないと、怒るわよ」
「ふん。余裕ぶって。ユリア先生だって気になってるくせに」
「気になってるに決まってるじゃない。でも、もう止めないと……」
「そこで何を騒いでいるのっ!」
「――っ! きょ、教頭先生っ!?」
と、彩子とすみれが拓雄に抱きついて、交際を迫っている最中、たまたま通りがかったこの学園の教頭先生が異変に気づき、準備室に入ってきてしまった。
「な、何をしているの、あなたたちはっ!?」
中年の女性教頭は、すみれと彩子が教え子に密着しているのを見て、青ざめた顔をして駆け出す。
遂に見つかってしまった――これで、少なくともすみれと彩子はもう処分は免れなくなってしまい、すみれも彩子も絶句して、血の気が引いた顔をし、ユリアも呆れた顔をしてその場に立ち尽くしていた。
「それで、三人はあそこで何をしていたのですか?」
「えーっと……最近、彼の授業態度が悪いので指導を」
三人と拓雄が理事長室に呼び出され、教頭と理事長に先ほどのことを問いただされると、すみれはあまり悪びれる様子もなく、言い訳をする。
その言葉を聞いて、老年の女性理事長はため息をつき、
「黒田君でしたっけ? どうなの?」
「は、はいっ! 僕が授業中、居眠りしたりボーっとしていたりして……先生は悪くないです。僕が悪いんです」
と、咄嗟に三人を庇う事を言う。
彼女らのセクハラに頭を悩ませていたが、拓雄は三人がクビになるのは望んでおらず、すぐにそう言うと、理事長はうつむきながら、
「ここは学園です。男子生徒にあんな破廉恥な事は今後、絶対にしないように」
「はい、すみませんでした……」
「もういいわ。三人は職員室に戻りなさい。黒田君は残るように」
「は、はい。失礼します」
と、軽く説教しただけで理事長は三人を許してしまい、拓雄が残される。
あまりに呆気なかったので、拓雄も驚いていたが、
「あなたが望んだ事ですよ、これは。良いですね? 学園の名誉があるので、今回は公にしないので、そのつもりで」
「は……はい……」
と、理事長は予想もしなかった事を言い、拓雄も思わず返事をする。
学内で女性教師が生徒に猥褻行為をしていたなど、バレたら学園の評判が落ちてしまうので、隠蔽されてしまい、三人はお咎めなしにされてしまったのであった。
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