第16話 家に帰るまでがデートです
「んーー、今日は遊んだわね。そろそろ帰ろうかしら」
「そうですね。もう遅くなりましたし」
夕方になり、これ以上、生徒を連れ回すのは悪いと思った三人はここで家路に着く事にする。
あの後、三人と後に付いて来た拓雄と共に、ショッピングモールに行ったり、ゲームセンターに行ったりしたが、生徒と一緒に繁華街を遅くまで回るのは流石にまずいと考え、夜になる前に解散する事にしたのであった。
「まだ怒ってるんですか、真中先生」
「うう……だって、本当なら今頃……」
「今頃、なんですか?」
「何でもありません! 拓雄君、また先生と遊びに行こうね! 今度は二人で!」
「さり気なく、問題発言しないでくださいよ……」
未だに拓雄とのデートを邪魔された事を根に持っていた彩子は、すみれとユリアを恨めしそうに睨んだ後、性懲りもなく、拓雄の手を握り、またデートに誘うと宣言する。
言うまでもなく生徒とデートしている事がバレれば、解雇になるのは明らかであったが、何が何でも近い内に、デートしてやると決心しており、
「拓雄君は、もう帰りなさい。私達は、もう一本後の電車で帰るから」
「あ、はい。それじゃあ、今日はありがとうございました」
「またねー」
一緒に電車に乗っているのを見られるとまずいのだろうと考えた拓雄は、一足先に帰りの電車に乗る事にし、駅へと向かう。
何だかんだで、今日は楽しかったので、また出来れば三人と遊びに行きたいと思っていたが、今日はたまたますみれ達に会ったと言う事にしておけと言い聞かされていたし、一緒に居る所を見られたら、問題になるのはわかっていたので、拓雄も難しいのだろうと思っていた。
「じゃあ、行くわよ」
「え? 一本後の電車に乗るんじゃなかったの?」
「それは方便。生徒を見守るのも教師の務め。あの子が、帰りに何処か変な場所に行ったり、チンピラに絡まれたりしたら、どうするの?」
「そ、そうですよね。私が誘ったんですし、拓雄君、可愛くて、気が弱いですから、大人が付いてみてないと心配です」
と、ユリアの提案に二人も乗り、こっそりと後を付けて、拓雄と同じ電車に乗り込んでいった。
「…………」
拓雄が乗っている車両の隣に三人が乗り込み、ジーっと椅子に座って、スマホを弄っている彼をこそこそと観察する。
(やーん、拓雄君、可愛いなあ)
と、何気ないスマホを弄っている仕草にも彩子はうっとりとして眺めていたが、ユリアは帽子を被って、黙って見つめており、その様子はまるでスパイそのものであった。
「今の所、何も変わった所はないわね」
「ですね。まあ、真面目な子ですし、繁華街とかに行く事はないと思いますけど、一応、先生が誘ったんですから、家に帰るまで責任は持たないとねえ。あっ」
ユリアとすみれがそう話していると、三人の視線に気が付いたのか、拓雄がこちらを見始め、すみれたちもさっと身を隠す。
「今のは……」
普段、ボーっとしがちの拓雄も流石に三人が隣の車両に乗っている事に気が付き、何をしているのかと首を傾げていたが、自分が心配で付いてきたのだろうと即座に察し、見てみぬフリをする事にした。
「危ない危ない、見つかる所だったわね」
「静かに。降りるわよ」
「そうですね。てか、ユリアちゃん、すぐ近くに住んでるんだから、元々、同じ駅じゃない。一緒に帰っても良かったんじゃないの」
「そうですよ。でも、教師と生徒が二人で歩くのは問題だし、何より彼だって、日曜日まで先生と帰りまで一緒に居たくないでしょう」
「ですかねー……私は、家までと言わず……」
電車を降りて、駅の改札を出た後、三人もまた後を付けていく。
何だか犯罪行為をしているみたいで、三人も妙なスリルを味わっており、うきうきしながら、拓雄の後を付けて行った。
「…………」
(先生たち、まだ付いてきてる……)
コンビニに入り、立ち読みをしながら、拓雄が店の向かい側の物陰に隠れている三人を見つめる。
声をかけようか悩んでいたが、自分の家のすぐ近くに住んでいるユリアはなぜ、一緒の電車に乗らないと言って後を付けてるのかと首を傾げており、三人が本当に自分の家まで付いていくのか、観察する事にした。
「拓雄君、何を読んでいるのかな……まさか、エッチな本っ?」
「まさか。今は、ビニールで包装されてるから、そういう本は読めないわよ」
「あれは、多分、最新号の漫画雑誌ね。彼が愛読というか、良く読んでいる雑誌」
「そうなんだ……残念。でも、どうせエッチな本を読むならあれですよね。女教師ものの本を……」
と、色々と妄想しながら、三人がコンビニで立ち読みしている拓雄を観察し、拓雄もジュースを買って店を出て行く。
もう自宅はすぐ近くであり、他に寄るような店もないので、このまま
「どうやら、何もないまま、家に着きそうね」
「ですね。あーあ、何かつまらないわね。あの子の、弱味……じゃなくて、秘密がわかるかなとか思ったのに」
「ふふ、でも無事に着いて良かったじゃないですか。じゃあ、ついでにユリアちゃんの家にも寄る?」
「構わないですけど、お茶くらいしか出せませんよ。明日、学校ありますし」
結局、何もないまま、家に入ったのを見届けた後、三人が安堵の息を漏らしながら、ユリアのアパートの寄る事にする。
真面目な彼に感心したすみれと彩子は上機嫌になり、ユリアのアパートから、彼の様子を観察してやろうと、
「ちょっと、待ってて。今、言って来る」
「あ……」
三人が拓雄の家の前を通った所で、拓雄が突然玄関から出て来て、ユリア達とばったり顔を合わせる。
「た、拓雄君! き、奇遇ね……」
「せ、先生……どうして、ここに……」
まさか、ここで鉢合わせになるとは思わなかった拓雄もビックリして、三人を見つめるが、ユリアは全く表情も変えず、
「どうしても何も、私の家、ここ。ちょっと三人とお茶でもしようかと、家に招いたの」
「そ、そうなんですか……」
ユリアの家がすぐ目の前にあったので、彼女と出会う事は不自然な事ではなかったが、まさか彩子とすみれまで居るとは思わず、驚いて言葉を失っていた。
「そうなのよーっ! 奇遇ね、拓雄君! 良かったら、先生達と一緒する?」
「いえ、ちょっと……」
「遠慮しなくても良いのよ。酒なんか飲ませないし、本当にちょっとお茶を頂くだけだから。学園一の美人教師のお宅、訪問したくないー?」
彩子もすみれも困惑しながらも、白々しい態度で偶然を装い、すみれが一緒に来ないか誘うが、
「別に構わないけど、一つ聞かせて。気づいてたわね、あなた?」
「えっ? き、気付いてたとは……」
「とぼけないで。私達の尾行によ。正直に答えないと、また個人指導するわよ」
「う……は、はい……」
鋭い視線でユリアに指摘され、拓雄も力なく頷く。
「え?_た、拓雄君、私たちに気付いていたの?」
「まあ、バレバレだったか。でも、私らに気を遣って、気付かないフリするなんて、感心するじゃない。先生がお礼に、サービスしてあげるから、やっぱり来なさい」
「い、いえ、あの……今日はちょっと……」
すみれが彼の手を引いて、ユリアの家に来ないか誘うが、もう遅いし、これから買い物を頼まれたので、首を横に振ると、
「わかったわ。じゃあ、またの機会で構わない。すみれ先生、行きましょう。今日は悪かったわね、拓雄君。また明日」
「あ、はい」
「またね、拓雄君。明日、絶対、会おうね! 先生、いつ押しかけても大歓迎だから」
と、ユリアと彩子に言われて、拓雄も一礼して買い物に向かう。
結局、今日は家に帰るまでずっと三人と一緒だったと苦笑しながら、近くのコンビニに小走りで向かい、三人との距離が確実に縮まった事をうれしく思っていたのであった。
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