第4話 先生達との個人授業で放課後は忙しい


「昨日の小テストの結果、返すわよー」


 数学の時間、すみれが採点を終えた小テストを返却していく。


 そして拓雄の名前が呼ばれ、


「はい。もうちょっと頑張りなさい」


「はい……」


 ムスっとした表情をしながら、すみれが拓雄に答案を返し、その点数を見て、拓雄もうなだれる。


(二十点……酷い点数だなあ……)


 元々、数学は苦手とは言え、今回は特に酷い点を取ってしまい、すみれも目の前に居る彼を時折、睨みつけながら、テスト問題の解説を行う。


 これは後で何か言われるだろうと、覚悟しながら、数学の授業を受けていき、その予感は的中してしまったのであった。




「拓雄、話があるわ、来なさい」


 授業が終わると、すぐにすみれが拓雄を呼び出し、彼を教室の外に連れ出す。


「今日の小テスト、随分と酷かったわねえ。ちゃんと勉強して来たの?」


「すみません……」


 廊下で、縮こまっていた拓雄を見下ろしながら、怒気の篭った低い声で、迫るが言い訳が出来ず、ただ小さな声で謝るしか出来ない拓雄。


 手を抜いていたつもりはなかったが、ヤマが外れてしまった為、いつも以上に酷い点数を取ってしまい、直接すみれに説教されて、二重に落ち込んでいたのであった。


「先生の教え方が悪いのかしらねえ……でも、平均点は低くなかったから、拓雄の出来が特に悪かったのよねえ……」


 そうは言う物の、出来なかった事は仕方ないので、そこまで言わなくてもと思いながらも、ただお説教が終わるのを縮こまって待つしかなかった。


「仕方ないわ。あんたには、先生が直々に補習してあげるわ。感謝なさい」


「え……補習?」


「そうよ。小テストとは言え、赤点なんだから、補習は当たり前よね。放課後、職員室に来なさい。生徒指導室で補習をしてあげるから、覚悟なさい」


「はい」


まさか、小テストで補習を言い渡されるとは思わなかったが、


「声が小さいわよ!」


「ひゃあっ! は、はいっ!」


 返事が小さかったので、気合を入れる意味とセクハラを込めて、すみれが拓雄の股間をパンっと手で叩き、思わず奇声を張り上げて、顔を赤くする。


「ふふん、じゃ、そういう事だから、先生の個人授業、楽しみにしててねー♪」


 してやったりとした顔をして、すみれが身を屈めて呻いている幼い生徒を置いて、職員室へと戻っていく。


 補習を言い渡され、陰鬱な気分になっていた拓雄とは対照的に、すみれは上機嫌のまま足取りが軽いまま職員室へと行ったのであった。




「この前の単語テストを返します」


 四時間目の英語の授業で、ユリアが淡々とした口調で、昨日行った単語テストの答案を返却していく。


「拓男君」


「はい」


 拓雄の名前が呼ばれ、ユリアから小テストの答案を手渡される。


 結果は七十五点と、まあまあの出来だったので、安堵したが、ユリアは特に表情を変えず、他の生徒と同様に、特に何も言わないまま返却を終え、そのままテスト問題の解説をしていき、授業を進めていったのであった。




 キーンコーンカーン……。


「では、今日の授業は終わり」


 そして四時間目の授業が終わり、ユリアが退室して間もなく、拓雄も教室を出て、購買でパンに行こうとした途中で、


「拓雄君」


「? はい?」


 急にユリアに呼び止められ、何事かと振り向くと、


「…………あなた、今日も授業中、ボーっとしていたわね」


「え? そ、そうですか?」


「そうよ。見ていた物。授業中、私と目線を何度も逸らしていたわ。最低でも十回は。小テストで少し良い点取ったからって、気が抜けていたんじゃないかしら」


「そんな事は……」


 確かに小テストの点が思ったより良かったので、ホッとしていた所はあったが、だからと言って騒いでた訳でも居眠りしていた訳でもなく、真面目に授業は受けていたので、何故、ここまで言われないのかと、首を傾げていた。


「だから、今日は罰として補習。放課後、職員室に来なさい」


「ええっ!? きょ、今日ですか?」


「そうよ。君は、先生に対するリスペクトが足りないわ。すみれ先生にも伝えておくから。それじゃ」


「あ、ちょっと!」


 と一方的に告げて、ユリアは職員室へと去って行く。


 まさか、そんな理由で補習を宣告されるとは思わなかったので、今日はすみれにも補習をすると言われていたので、どうするのかと唖然としながら、拓雄もしばらく立ち尽くしていたのであった。




「では、連絡事項は以上」


 立て続けの補習の宣告に頭を悩ませている間に、一日の授業も終了してしまい、すみれが教室を去ったのを見て、彼女の後を追って職員室へと向かう。


 ユリアとすみれの補習が被ってしまったので、どちらを先に受けるのか、彼も聞きにいかざるを得ず、


「失礼します」


「あ、拓雄。ちょっと」


拓雄が職員室に入ると、ちょうどすみれとユリアが話していたので、彼女たちに元に向かい、


「どういうつもり拓雄? 今日は私との先約があるのに、ユリア先生とも補習の約束を入れるなんて?」


「そんな事、言われても……」


「すみれ先生、あまり彼を責めないで。私も予定をよく確認しなかったのが悪い。でも、私、明日の午後は出張があるから、今日、彼との補習をやらせて欲しい」


「私も明日、剣道部の方を見ないといけないんだけど……どうしよう? じゃんけんで決める?」


「何を話してるんですか、三人で?」


「真中先生。いえ、今日、彼と補習する予定だったんですけどね」


 すみれとユリアが被ってしまった拓雄との補習の日程の調整に頭を悩ませている最中、彩子が何事かと話しかけてきた。


「補習?」


「ええ。今日、どっちが拓雄の補習するか話し合っているんです」


「拓雄君と補習って……まさか、二人きりで!?」


「はい。この子、今日の小テストで酷い点数を取って……だから、私がみっちり、基礎から教えてあげようと思って」


「私は授業中の態度が悪かったから、その罰で」


「そんな……羨ましいっ! じゃなくて、ふしだらです!」


 二人が拓雄とマンツーマンで個人授業をすると聞き、彩子も青ざめて崩れ落ちそうになる。


「ふしだらって、そんな発想する真中先生の方がよっぽどあれだと思いますけど」


「うう……拓雄君!」


「はいっ!」


「君も先生の補習を受けて貰います!」


「えっ!?」


 彩子がビシっと拓雄を指差して、一方的にそう宣告する。


「補習って、美術の補習するんですか?」


「そうです! 二人だけ、彼と補習なんてずるいですよ。先生も、拓雄君に補習したいわ。ね、良いよね?」


「え、えっと……」


 いきなり、むちゃくちゃな事を彩子に告げられ動揺していたが、彩子は彼の手をがっしりと握って、必死な目で彼に頼み込む。


「ずるいも何も、理由もなしに、補習を強要するのは職権濫用ですよ、彩子先生」


「ユリアちゃんがそれ言うっ!? お願いー、先生も拓雄君に補習したいの……悪いようにはしないから、ね?」


「その……は、はい……」


「やったーっ! へへ、拓雄君とのマンツーマンの補習、楽しみだなあ♪」


 彩子が目を潤ませながら、頼み込んだので、拓雄も断り切れずに、ついオッケーの返事をすると、彩子も飛び上がって喜ぶ。


 まさか、三人に立て続けに補習を言い渡されるとは思わず、溜息を付いていたが、はしゃいでいる彩子を見て、拓雄も苦笑せざるを得なかった。


「はあ……何だか、面倒な事になったわね」


「全くですね。それより、補習の日程、調整しましょう。私達は明日は無理だから、すみれ先生と私、どっちが今日やるか決めましょう」


「じゃあ、私は明日の放課後、美術室でね。きゃー、楽しみだなあ、拓雄君との個人授業。今から、課題考えておかないと」


 すみれとユリアがどちらが今日放課後、拓雄と補習するか話している間、彩子は大喜びしながら、彼の手を握り、明日の拓雄との個人授業に期待を膨らませて、立ち去っていく。


 折角の放課後も、彼女達との補習で予定が埋まってしまい、拓雄も頭を悩ませながらも、それだけ自分の面倒を見てくれる彼女らを見て、少しだけ嬉しい気分にもなっていたのであった。


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