第32話 再会
「ここにいる、ということはシャーロットは異能使いな…の?」
「あ、はい、そうです。じゃあ、蒼紀くんも?」
「そうなんだよ…まさか…びっくりした…」
隣の席に、ここ毎日、電話やらメッセージやらで何気ない会話をしていた癒やしの天使シャーロットが座っていたなんて、いくらなんでも想像できない。
『さすがに私も予想はできませんよ』
『あ、やっぱり?』
『予想の根拠となるデータがありませんからね』
異能使い同士は引き合うとは聞いていた。
だが一千万人以上が住む東京で会うことはいくらなんでもないだろう、と高を括っていたのだが…。実質的には入学前に4人に偶然で会ったことになる。
「私もですよ!すごくびっくりしました。まさか蒼紀くんが…ですかぁ…でも、納得もしました」
「納得?」
「はい。ほら、私たちを助けてくれたときの…」
「ああ…あのときの不良との喧嘩?」
2人をかばったりしたなぁ。あれからも、体力つけたり、武術の鍛錬は怠っていない。合気術と太極拳はマスターして、暗器術と杖術の使い方を覚えている最中でもある。
「そう。あのとき、きっと蒼紀くんは異能を使って助けてくれたんですね…ものすごく強いから格闘の達人なんだと思っていたんですけど…全然ゴツくないですし…」
「あはは…」
あのときはあれが精一杯だったけど、いまなら、もっとスマートに2人を助けられる自信がある。
『しかし計算外でしたが、シャーロットや優美が異能使いならば2人をデートに誘っても断られる以外のリスクはありません。積極的にいきましょう』
『それはそうだな!よし!いやっていうか、断られるんかーい!』
『大丈夫だとは思いますが、女心と秋の空とも言いますからね。骨は拾いますから頑張ってください』
頭の中にいるユイに俺の骨は拾えないと思う。
うむ。久々に生シャーロットを見たがやっぱり可愛いよなぁ。ぽっちゃりなところも何となく可愛げがあるというか…。
『御託はいいから、さっさと誘う!』
『へいへい』
…では早速、声をかけてみることにしよう。
「でもさ、シャーロットが異能使いなら遠慮なくデートに誘えるよね…一緒に犬カフェとか行きたかったんだ…しろもふでもしばわんでも良いけど」
「でっ、デート?私が?蒼紀くんと?」
「もちろん…えーと、ダメかな?」
メッセージSNSやりとりしている感じだと、デートくらいは許してくれそうだったけど…。ユイに骨拾われたくない。
「だ、ダメなんかじゃ…ない…ですけど…むしろ…ぜひ…行きたい…です」
「本当っ!?」
思わず、シャーロットの手を掴んでしまった。ひゃわ、とかなんか可愛らしい声を出していたけど…。
「そ、そそ、そ、蒼紀くん…あ、あの」
うわ、やばい。女の子の手って、なんでこんなに繊細で、柔らかいんだろう。顔を真っ赤にしてるシャーロットも可愛い…。
「はい!今日はここまでですよ〜」
横からぬっ、と伸びてきた手が俺の手首とシャーロットの手首を掴む。そして、俺の手がシャーロットの手と離れるように反対に引っ張く。
「うん。蒼紀っち、今度は動くことのないナンパとセクハラの証拠だね!シャーロットを口説くなら、まず私を通してからに貰おうか?」
「優美は、シャーロットの親でもマネージャーでもないだろうが…だいたい今、シャーロット本人は、ぜひ行きたい、と言ったのに、それを優美が断るのか?」
「うぐ!蒼紀っち!そういう理屈で責めるのは卑怯だぞ!」
「理屈で責めるのは、卑怯じゃなくて、至極まっとうな方法だ。話を逸らすのはよくないぞ、優美」
「うぐぐぐぐ…」
優美め、悔しそうな顔をしていやがる。ふっ。勝ったな。シャーロットがぶんぶんと顔を振ってから、優美の手を取る。
「じゃあ、優美も一緒に出かけようよ」
「ええ?それは、その、さすがに、申し訳ないというか、馬に蹴られるというか…シャーロットは蒼紀っちと2人で行ってきなよ」
シャーロットに言われると優美も弱いな。珍しく変な気を使っている。
「気を使うなんてお前らしくないな。何なら別の日に3人で行くか?」
「へー、蒼紀っちもわかってるじゃない?じゃあ、蒼紀っちのおごりで遊び行くかー」
いえーい、とか言って、ノリで手を挙げさせられたシャーロットとハイタッチしてる。勝手に奢りにしてるけど…ま、いっか。
そんな風になりゆきで知己の2人と話していたが、ふと周りを見回すと、すでにクラス内ではグループができ始めていた。
高校あるあるだな。
きらりの周りにも、いつのまにか2人の男がいた。序列1位の火焔と序列3位の池名である。2人からは恐らく褒め千切るような言葉が投げかけられているのだろう、まんざらでもなさそうにしている。
『心底、よかったですね。火焔、池名の口の動きからきらりを褒めているみたいです。これなら絡まれる機会が減るでしょうね』
『たしかに助かったよ。このままどっちかとくっついて欲しいもんだな』
ちなみにきらりは、山田とは別れたらしい。きらりの気まぐれに振り回された山田もある意味、被害者とも言える。
『ご主人様、殴ってきた相手の心配まですることはないでしょう?』
『あれは俺から喧嘩売ってるし』
『翌日は向こうからふっかけてきてます』
『なら両成敗じゃね?』
『お優しいことで』
ユイと脳内でそんな話をしていたら、ガラガラと前にある教室の扉が開いた。
「よーし、席につけ。始業だ」
そんなありきたりな掛け声とともにノシノシと教壇に登ってきたのは不動先生である。
時計の針はちょうど8時半を指していた。
教壇から、教室をギロリと見回す不動先生の眼光は鋭い。焼き肉のたれを漬物にかけて悲しい顔をしていた人と同一人物とは思えない。
「俺の紹介はいらないだろうが、クラスメイト同士は必要だろう。まずは火焔から序列順に自己紹介をしていけ」
「よし!序列1番の俺様から自己紹介をするぜ!」
不動先生の『序列順』という言葉に、ヤバめの俺様キャラ火焔が意気揚々と立ち上がった。
「俺様がこのクラスの支配者となる
やはり、ぶっ飛んで頭がおかしい。マンガのキャラクターじゃないんだから、冷静に見ると単に恥ずかしいだけな気がする。
もしかして、俺と同じく、高校デビューを果たすため印象的な自己紹介を敢えてしているのかもしれない。俺はそんな方法で高校デビューは目指していないが…。が、いずれにしてもなかなかに痛々しい。
不動先生が補足してくれた。異能名は
そして、先生側からクラスメイトの異能を教える、ということは、だ。
『異能者向けカリキュラムの中で、このクラスのメンバーが、チーム連携して課題にあたることを想定していますね』
クラスメイトの異能者を
2位の
「序列3位、
火焔に劣らない癖のある自己紹介に呆れた顔をした不動先生は、池名が周囲の感情や簡単な思考を受動的読み取れるテレパシー使いであることを補足説明した。
4位きらりの自己紹介でも不動先生は補足説明をしていたが分類としては池名と同じテレパシーになるらしい。
異能名は
なるほど、あの事件のとき、きらりの支配を受けたのがみんな男性だったのには、そういう理由があるのか、と感心した。
ちなみにテレパシーは、部分的に脳を支配して、記憶や感情などの操作をする異能だ。
が、ユイ曰く『
テレパシーによっては強引に割り込んできたりもするらしいが、それも『ファイアウォールを作ったんでまず突破は無理』と断言していた。頼もしい。
ほとんど本能的に殴りかかってきた不良ゴリラの名前は
まだ壁に埋まってるので、先生が代わりに説明をしていた。
6位
瓶底メガネをかけ、おかっぱ頭にまとめていて、なんとも言えない独特の雰囲気を持っている。彼女はメガネの位置を神経質にあげてから自己紹介を始めた。
「谷です。フフ…筋肉が好きです。はい。特に血管がよく浮き出た上腕二頭筋が好物です…フフ。異能名は
どうやら筋肉フェチらしい。ムキムキな金剛に熱い視線を向けていたが、その肝心の金剛はまだ壁に埋まって、気絶している。
7位
異能名は
「やっほー私、飯田優美って言うんだ〜みんなよろしくね〜異能名は
そんな感じで比較的無難というか、普通に人懐っこい感じで自己紹介をした優美は、序列8位で異能はヒーリング能力だそうだ。
彼女は人間や動物の怪我を治せるとても便利な異能を持つが、どうも使用には制約がいろいろあって、そのために序列が低いらしい。
あーもしかしてシャーロットとしていた動物の保護でもその異能を活かしていたのか?
「次、河合」
「はい。河合蒼紀です。能力の分類としてESPにあたります。具体的には頭の中にスパコン10機ほどの計算処理能力と、それに連動した記憶容量があり、自在にそれを扱えるというものです。異能名は
「河合の異能は一応、ESPに分類されてはいるが、似た異能どころか類似する異能を持つ人間も記録上いない、かなり特殊なものだ」
最後、俺の隣に座る序列10位になるシャーロットが立ち上がった。
「シャーロット・神楽坂です。戦ったりとかは苦手ですけど…よろしくお願いします」
「神楽坂の能力は、テレパシーの一種で動物と心を通わせて、使役する能力だ。異能名は
「あっ…はい。そうです」
シャーロットが座り、全員の自己紹介が終わった。
この10人がクラスメイト。ここから高校生活の3年間を一緒に過ごすメンバーになるわけか…。
『ご主人様、彼ら彼女らの性格含めて、人間関係はかなりややこしそうです。無難な高校生活は望めませんよ?』
『異能の連中を集めてるって時点でそのくらいの覚悟はしてたさ』
頭の中でユイに向かって肩をすくめた。
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