第13話 デート1
最寄り駅の有楽町線平和台駅から池袋までは電車で10分もかからない。
今日の目的地である池袋駅は、東西南北に抜けるように数多の路線が交差している。
まず営団地下鉄の丸ノ内線、有楽町線、副都心線が東西に抜けるように走っている。
有楽町線は銀座を横切り新木場まで行く。新木場からは京葉線に乗り換えが出来、そこから数駅で舞浜駅、東京ネズミーランドという有名な遊園地への最寄り駅となる。そのため、練馬区民がネズミーランドに行くときは必ず利用するのが有楽町線だ。
副都心線は池袋から新宿、原宿、渋谷、横浜と突っ切る便利な路線で、これの開通で練馬区民の渋谷へのアクセスがかなり容易になった。
南北に抜けるように通るのが、JR山の手線、埼京線、湘南新宿ライン。
ほかにも私鉄の東武東上線、西武池袋線、少し離れたところには路面電車の都電荒川線と様々な線が通っている。
数多の路線が交錯する中、特に私鉄の2路線や埼京線、湘南新宿ラインが埼玉方面へと伸びていることから、埼玉県民がよく遊びにくる東京の街としても知られる。
愛花と平和台駅から有楽町線にのり、5駅10分で池袋駅のホームに降りる。階段を上るとすぐ目の前には西分デパート、東分デパートが見える。
ちなみに西分デパートがある方が東口、東分デパートがあるのが西口なので、要注意だ。
遊び場が多いのは西分デパートのある東口方面。池袋のシンボルとも言える高層ビル・ムーンシャインも、こちら東口にある。
少し長い地下通路からエスカレーターで地上に出ると、人がごった返す池袋の街並みが目の前に広がっていた。
「センパイっ!ゲームセンターに行きましょう、ゲームセンター!」
「ああ。そうしようか」
愛花が、駅の出口の目の前にある巨大なゲームセンターに行こうとはしゃいでいる。
池袋は現在でこそ、腐女子…いわゆる女性オタクの聖地として知られるが2000年代前後は特にそういった雰囲気はなかった。
むしろ秋葉原が今ほどオタク向けを鮮明に出しておらず、男性のオタクが集まる街だった。
…と悠里さんが話していた。
その名残なのか、ゲームセンターがとにかく、たくさんある。時代の波か、閉店したものも多数あるらしいが…それでもほかの繁華街と比較してもかなりの数だ。
「お約束だけど、ゲームセンターに行ってからムーンシャインに行こうか。お小遣いも多めに持ってきたし俺が出すから、水族館にでも行こうよ」
「いいんですか?彼氏であるセンパイに甘えちゃいますよ!でも、水族館なんて、いかにもデートっぽくていいと思います」
またまたギュッと腕に抱きついてくる愛花にドキドキしながら、ゲームセンターに入る。
ゲームセンターの1階は定番のクレーンゲームコーナーだ。可愛らしいキャラクターのプライズが置いてあるからか、カップルらしき来客も見かける。
「あ、ちょいカワのぬいぐるみですよ」
「ちょいカワって人気だよねぇ」
「はい!女子はみんな好きです」
ちょいカワは、カワウソ亜科に属する動物をモチーフにしたキャラクター商品で、最近ではテレビアニメも放送されている。
悠里さんの事務所所属アイドルがちょいちょいコラボをしているのを見かけるからか、家にはちょいカワグッズが結構無造作に置いてある。
「愛花はどれが好きなの?」
「ノドブチカワウソちゃんです。このぶち模様が可愛いんですよー」
透明なクレーンゲームケーズの中にあるぬいぐるみを指さした。全身はいわゆるカワウソらしい黒茶色をしているが、たしかに名前の通り、喉の付近にだけ白のぶち模様がある。
「あの位置なら取れそうだな…」
「ほ、ほんとですかっ!?私、クレーンゲーム全然上手く出来なくて…取れないんですっ!」
よほど欲しいのか、愛花は、興奮のあまり、腕どころか身体に抱きついてきた。ギュッと俺の身体に押し付けられた愛花の胸元から、花みたいな匂いがしてきて、頭がクラクラする。
「わ、わかった…取ってみるよ」
「やった!ありがとうございますっ!」
さらに強く捕まってくるので、愛花の緩やかだけどたしかにある女の子らしい起伏まで、バッチリわかってしまう。
くっ…なんで女の子ってこんなに柔らかくて、いい匂いがするんだっ!?
押しのける訳にもいかないため、愛花に抱きつかれたまま、煩悩を一時的に消し去るために深呼吸。そしてクレーンゲームに100円を投入する。
1回目は捨てだ。掴みにいき、アームのひらき方、ボタンとのタイムラグ、握力、ぬいぐるみのバランスを確認して、記憶する。
2回目。200円目を投入。
(
確実に取れるタイミングの計算はバッチリできた。
「すっ、すごいですっ!センパイ!」
ガコン、と落ちる音がしたので、下の取り出し口からぬいぐるみを掴んで、愛花に渡す。
「ほい、どうぞ」
「うわー!うわー!うわー!センパイ、ありがとうございますっ!好きっ♪」
大きめのチェーンが頭についていて、カバンとかにつけられるようになっている。愛花は早速カバンに取り付けた。
「とれて良かったよ」
「ふふふ。早速カバンにつけました!」
「気に入ってもらえたんだね」
「はいっ!ずーっと欲しかったんですよ!でもお小遣いが結構飲み込まれてしまって…」
クレーンゲームあるあるだな。つい夢中になると思っていた以上にお金を飲み込まれてしまうという。
「よし。じゃあ、ほかのも狙ってみようか?」
「はいっ!」
※※※※※※※※※※
「うわー!これがホンモノのカワウソなんですね。生で見るのは初めてですっ」
「愛花、大興奮だな…」
「センパイ、あの子、見てくださいよっ!ほらっ!器用に両手を使うんですね」
池袋と言えば、シンボルとも言える60階建てのビル・ムーンシャイン。ムーンシャインと言えば展望台と水族館である。
ムーンシャインの水族館は、池袋という繁華街のど真ん中にある。交通の便に関しては、抜群の立地を誇る水族館だろう。
ちなみに有楽町線で行く場合は、池袋駅で降りるよりも、隣の東池袋駅から降りると駅から直結でムーンシャインに行ける。
今回は途中のゲームセンターによるだろうと池袋駅から降りているが…水族館やムーンシャインが目的なら東池袋駅がオススメだ。
「たしかに…基本的にはリスみたいに両手で挟むように使ってるけど…片手で簡単に握ることはできるんだなぁ」
霊長類は親指がほかの指とついている向きが違うため、残りの4本指と向き合わせる形で『掴む』ということができる。
ほかの動物は、親指と向きが同じのため、向かい合わせて握ることはできない。
しかしこのカワウソは、指と手の平だけでの片手で器用に物を掴んでは、餌を口に運んで食べている。
寝っ転がりながら、餌を取る姿は、なんというか…
「日々の働きで疲れ、ようやくの休日に昼間まで寝っ転がっている中年を想像させ、どこかコミカルにも感じる」
「センパイ〜、そんなんじゃあ、言い方が可愛くないですよ!」
「愛花はともかく、俺に可愛さは無理じゃない?」
「センパイ、ダメですよ諦めちゃ!」
俺は、可愛くなることについて頑張らなくてはいけないのだろうか。あまり頑張りたいと思えない課題である。
「えっと、可愛さを目指した方がいいの…?」
「もちろんです!今どきは男の人もどこかしらに可愛さが必要ですよっ!」
力説する愛花に、何となくそうしなくてはいけないような気に…なってこない。
「いや…難しそうなので、保留にしておくよ…」
「そうですかぁ?でも〜センパイはそもそも素材は良いんですから、もう少し磨きませんか?」
「磨く?」
俺が、あまり身なりなどに気を払っていないのは確かだ。面倒ということもあるが、勉強に必死だったのだから仕方ない。
とは言え、俺も年相応の中学生男子なのだから、モテたい気持ちは持ち合わせている。せっかくだから愛花に話を聞いてみても良いかもしれない。
「そうだ!美容室に行きましょう!オススメのお店があるんです!」
「えええ?いま、デートの途中なんだけど…」
「私も一緒に行って、ちゃーんとカッコよくなるように指示してあげます!」
「そ、そお?じゃあ、お願い…」
こういうとき、男ってなんで女性に逆らえないんだろうなぁ。愛花に言われるがまま、水族館の後は美容室に行くことになった。
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