第20話:家庭訪問には敵わない

 珍しく家に4人いる状況に新鮮さを感じる中、恐怖も感じていた。


それは隣にいる舞の笑顔からくるものだった。


夕飯の時間だったため机に4人座れるように椅子を用意して舞と小池さん、俺とインタビューちゃんが向かい合う形で着席していた。


「それにしてもよかったね、夕飯たまたま多く作ってて」


本日の夕飯はカレーだった。


2日かけて食べる派なのだろうか、2日分作っていたためちょうど人数分あった。


米だけ冷凍してあったものを解凍した。


それにしても一昨日も似たようなもの食べた気がするけど気のせいか。


「いきなり押しかけてすみません、ご迷惑おかけします」


インタビューちゃんは舞に気を使ったのかやけに丁寧に話していた。


「気にしないで、こういうのは人数が多い方が楽しいんだから」


そうは言ってるが少し顔が怖い気がした。


早く帰ってもらったほうがいいなこれ。


「早く食べよう、冷めても良くないだろ」


早く食べてこの空間から脱出するしかない。


「そうだね、じゃあいただきます」


舞がそう言ったと同時に全員いただきますを言って食べ始めた。


「このカレーおいしいです!舞さんすごいですね」


「ほぼ毎日作ってるからね、腕には結構自信あるよ」


「ほぼ毎日、ですか?」


ここに来て初めて小池さんが反応した。


「そうだね、中学に上がってからはほぼ毎日だよ」


「そうでもないだろ」


せいぜい3日に1回くらいだったはずだ。


「それでも凄いですね、中学生からご飯作れるなんて」


「そうでしょ、これは努力の賜物なの。長い年月をかけてるからね」


心なしか圧をかけてるような話し方な気がした。


「そぉーーれにしても、舞さんとこんなに早く再開できるなんて思ってなかったです」


変な話し方でインタビューちゃんが割り込んできた。


舞の圧を察したのかもしれない。


「そうだね、でもこれからはもっと会うとおもうよ」


「え、それって」


「まぁ気にしないで」


「家には呼ばないからほとんど会わないと思うけどな」


そう言ったら舞は再び黙って食べ始めた。


「てか聞いてなかったんだけど、今日何で来たんだ」


「インタビュー部としての活動です、家庭訪問は当然でしょう」


インタビューちゃんは何故か不思議そうな顔をしていた。


そんなの聞いたことないんだけどな。


「じゃあそれ食ったら帰るんだぞ、目的は達成されているからな」


「そうだよ、家族が心配するからね」


何故か舞も帰らせようとしている。


「お前も帰るんだぞ」


「え、帰るも何もここが家なんだけど」


「お前の家は向かいだ」


「ぶー、分かったよ」


そう言って頬を膨らませていた。


にしても今日はやけに素直な気がする。


いつもならもう少し粘ってきそうなもんだが。


「そうだ、少し聞いておきたいことがあったんだけど」


膨らませた頬を元に戻した舞が話し出した。


「インタビュー部にいるのってこの3人だけなの?」


「いえ、小池さんはインタビュー部では無いので今は私とさっくんの2人だけですね」


「前にも言ったろ、2人しかいないって」


「え、てっきり入ったのかと思ってた」


確かに側から見たら部員に見えてしまうかもしれない。


ほぼ部員みたいなもんだな。


「私はただ、友達…を手伝っているだけです。特に深い理由はありません」


「へぇー、優しいんだね。本当に理由はそれだけなのかな」


「もちろんです。ご迷惑でしたらすぐにいなくなります。それまでは力になりたい、そう思っています」


なんか小池さんがカッコよく見えた。


「ふーん、まあいいや。じゃ、ご馳走様」


いつの間にか食べ終わっていた舞は先に片付けを始めた。


俺含め他の全員も食べ終わる寸前だった。


☆☆☆


 食べ終わり片付けを済ませると意外とすぐに帰ってくれた。


「では、今日はお邪魔しました。また明日お会いしましょう。舞さんもさよなら」


「うん、またね」


「ご、ご馳走様でした。今日はありがとうございました」


そう言って頭を下げた小池さんはパッと家を後にした。


「あ、待ってくださいよ夜怖いんですから一緒に帰りましょうよ〜」


それを追いかけるようにインタビューちゃんも出ていった。


「さ、邪魔…じゃなくて、お客さんもいなくなったし、今日はゆっくりしよっか」


「何言ってんだ、お前も帰るんだぞ」


「けち」


そうは言ったが案外素直に帰る支度を済ませてくれた。


「じゃあさく、また明日ね」


「うん、いつもありがとうな」


そう言ったら嬉しそうな顔で帰っていった。


その笑顔はいつもの、そう。


今日みたいな裏のある笑顔ではない純粋な物のように感じた。

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