第18話:危ない顧問には敵わない
行ったことを後悔するレベルの内容だった昼休みが終わりに近づき、教室へ帰っていた。
教室にはすぐに到着した。
「では、また部活で会いましょう!遅れずに来てくださいね〜」
そう言って教室へと姿を消した。
2人になり特に話すこともなく教室まで歩いた。
すぐに俺の教室の前に到着し、とりあえず挨拶だけして去ろうとしたら小池さんが目を合わさず話してきた。
「向井さん、あの、スマホ…って普段あんまり見ないですか」
「あー…そうですね、あんまり見ないかもしれません。そういえば今日まだ見てなかったかも」
そう言って取り出そうとすると小池さんに手を押さえられた。
「あ、あの、また放課後お会いしましょう!」
そう言って手を退け走り去っていった。
なんだったんだろうか。
とりあえず席に戻り、見てなかったスマホを確認した。
あ。
小池さんからの連絡だ。
「ところで向井さんはどうしてインタビュー部に入ったんですか?詳しく聞きたいです(*^^*)」
何となく分かった。
今日会って挨拶したとき少し違和感があったのはそういうことだ、たぶん。
今日会ったら謝っておこう。
インタビュー部に入った理由…か。
確かにインタビュー部である必要はなかったのかもしれない。
他の部活でもなんだかんだでやっていけるんだろうし、特にこだわりがあったとかではない。
強制的に入った感はあるが、断ることもできたはずだ。
やっぱりまだ研究者である親のこと、心のどこかで意識してるのだろうか。
考えても仕方ない、とりあえずは掃除と部活終わりの訪問をどうにかするべきだな。
そのためには体力を温存しなければならない。
そう、仕方ないのだ、こうして寝る分には。
放課後まで休憩ということにしておこう。
☆☆☆
授業の終わりを知らせるチャイムがなり、終礼を済ませたらすぐに部室へ向かった。
遅れて文句言われたら嫌だしな。
とりあえず小池さんには謝ろう。
こうして到着した部室はいつもより入りにくい雰囲気だった。
小池さんに会うのちょっと気まずいしな…
そう思って扉に手をかけていたがなかなか開けなかった。
しかし次の瞬間壊れるんじゃないかと思うくらい勢いよく扉が開いた。
「おらー!!何やっとんじゃいわれ!」
とんでもない声量で耳が潰れるかと思った。
おそらく170cmくらい身長があり、長めのポニーテールのかなり美人な人だ。
しかし顔が怒っているようだった。
どこかで見たことあるような顔だ。
「あ、部屋間違えました」
俺の出した結論はこうだ、今日はもう帰る。
「さっくん、どこ行くんですか」
ダメだった。
「冗談。ていうかこの人は?」
「顧問です」
「え?」
「顧問言うとるやろ!何回も聞くなや!」
なぜか顧問に怒られた。
「顧問の林静香先生です。しずちゃんです」
「しずちゃんやめろや、ぶっ殺すぞ」
口悪すぎないか。
「とまあ、こんな感じで部活中はほぼヤンキーです。授業中とか廊下ですれ違ったときはもっと静かです。キャラ作ってるらしいんで口外禁止でお願いします」
インタビューちゃんは慣れているのか何を言われても動じていなかった。
見た気がするのはそういうことか。
美人の先生がいると少し入学当初話題になっていた。
おそらくその人だ。
「おめぇ、言ったら二度と喋れねぇようにしてやるからな」
「はい。ここでの一件は一切口外致しませんことを約束します。私の名前は向井作と申します、以後よろしくお願いいたします」
これくらい真面目に対応したら大丈夫だろう。
「その真面目ちゃんやめろや、タメでかまわねぇよ。普段気をつけれんならな」
あれ、なんか思ってたのと違う。
「先生、本当はこんな感じなんですけど、キャラ作るの辛いらしくて部活中は解き放ってるみたいです」
「おい、余計なこと言うなや。まあ、てなわけだからとりあえずこれからよろしく」
「よろしくしずちゃん」
そういうと急に胸ぐらを掴まれた。
「しずちゃんはやめろぶっ殺す」
怖いこの人。
教室に入ったが、小池さんはまだ来ていなかった。
一旦全員部室に入り教室の真ん中にある椅子兼段ボールに着席した。
インタビューちゃんとしずちゃんの間に座る形になってしまって少し怖い。
「小池さんはまだ来てないの?」
「多分もうすぐ来ると思うんですけど」
そう言ってると走ってくる音が聞こえた。
そしてすぐに扉が開いた。
「すみません、遅くなりました」
疲れたのか少し息を切らしているようだった。
「こんにちはりこぴー、全然遅くないですよ」
「そうですか、よかったです」
そう言って部室に入ってちょうど俺の対面にある椅子に着席した。
一瞬俺の方をチラッとみたが目線を逸らした。
気まずい。
「そういえば、そちらが顧問の先生ですか?」
先に口を開いたのは小池さんだった。
「えぇ、初めまして?になるのかしら、私は林静香です。これからよろしくね」
いや誰だよ、さっきまでと全然違うじゃねぇか。
「林先生って、あの有名な方ですよね!綺麗な人だなぁ〜」
感心してる小池さんを横目にしずちゃんの方を見ると一瞬だけ睨まれた。
怖い。
しかし話し始めると同時にすぐに笑顔に戻った。
「ありがとう、あなたもお人形さんみたいで可愛いわよ。えっと、名前は…小池さん?でよかったのかしら」
「はい!小池莉鼓です、吹奏楽部です」
「そう、これからよろしくね小池さん」
小池さんは感動しているようだったが、先ほどの一件を見てからの今だから俺は少し笑ってしまった。
すると横にいたしずちゃんから耳打ちされた。
「おめぇ、あとで覚えとけ」
笑顔でそうささやいた。
いつからこんな危ない部活になったのだろうか。
「それでは、お話はこれくらいにして清掃を始めましょう。とりあえず捨てていい備品とか分からないんで、しずちゃんに全部確認しましょう」
「分かったわ、でも左鳥さん、先生に向かってしずちゃんは良くないから気をつけてね」
そう言ったしずちゃんは笑っていたがその奥深くに闇を感じた。
「ではさっくんとりこぴーで外側、しず…先生と私で廊下側を担当しましょう。ではお願いします」
こうして始まった片付けだが…
気まずい。
小池さんもこっち見ないし…
とりあえず謝ろうか。
「あの、小池さん」
「は!はい!何でしょう」
驚いた様子だった。
怒ってはなさそうでよかった。
「昨日、その、連絡送ってきてくれたんですね。すみません、気づかなくて。あまりスマホを見ないもので」
「いえ、こちらこそ夜分遅くにすみません。次からは気をつけます…」
小池さんは本当に申し訳なさそうにしている。
俺が120%悪いのに、心が痛い。
「いや、今回の件は俺が完全に悪いので。今日から毎日スマホを見ながら寝ることにします」
真面目に話したら笑ってくれた。
「そこまでしなくて大丈夫ですよ!本当に全然気にしてませんので」
「ですが俺としても何かお詫びをしたいです」
「本当にいいですよ!向井さんが悪いとも思ってませんし!」
「いや、何かさせてくださいお願いします」
そう言って盛大に土下座をした。
これで許してくれるだろう。
「分かりました!分かりましたから頭をあげてください!」
これ以上はないくらいの完璧な謝罪だった。
さすがの小池さんも少し動揺していた。
そして少し顔を赤くして話した。
「では、私からのお願いは…敬語を、敬語をやめてください、私もやめます」
「そんなことでいいんですか」
「敬語!」
顔をふくらさせて怒っていた。
「分かったよ、じゃあこれからは普通に喋るからな」
「うん!それでお願い」
満足そうに笑みを浮かべていたのでよかった。
「早く働いてください」
そう言ったのはインタビューちゃんだ、こっちをジト目で見ていた。
「悪い、じゃあ始めようか」
「うん!」
今日一の笑顔にこちらも笑みが溢れそうだった。
これだけで今日来た価値はあったってもんだ。
しずちゃんの一件さえなければ完璧な1日になるところだったんだが。
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