第17話:慣れない事象には敵わない
昨日とは一変して部屋の中は静かである。
物足りなさを感じるが、騒がしいのとどちらが良いか選択を迫られた時に悩むほどには1人の時間も好きなのだ。
嫌なことと言えば暇なくらいである。
それはもはや慣れっこだが。
そういえばしばらくスマホ見てなかったな。
そう思いスマホを開くと小池さんから連絡が来ていた。
「今日は楽しかったです、ありがとうございました」
わざわざ1文だけを送ってきたみたいだ。
小池さんらしい。
「こちらこそありがとうございます。本当に助かりました、またこちらが力になれることがあったら協力します」
返信はこんなところでいいだろう。
そういえば今日別れる前に何か言いかけてたような…
まあいいか。
送信を確認していつも通りの日常に戻った。
自ら調理した夕飯を済ませ風呂に入り歯磨きを済ませると時間は22時を回った頃だった。
今日は疲れた。
明日は片付けもあるしもっと疲れるんだろうな。
そう考えると憂鬱になってきたのでソファーに横になった。
☆☆☆
毎日7時になる目覚ましの音で目が覚めた。
2回の寝室にあるのにその音を聞いただけで目覚めてしまった。
どうやら気付かぬ間に眠っていたらしい。
庭から鳥のさえずりが聞こえる…なんてこともなく静かな朝だ。
少し寂しさを感じたのでテレビをつけ、朝の支度を済ませる。
顔を洗い、ご飯をたべ、髪を直す。
普通の準備だ。
舞がいない朝は準備がスムーズに進む場合が多い。
だから7時にアラームをセットしておく。
舞がいる日は6時半に起こされるため7時にセットしておくと30分も長く眠れるのだ。
これで変に待つこともなくちょうどいいぐらいの時間に準備が終わり出発できる。
まさに完璧な朝だ。
しかし完璧なのはここまでである。
玄関を開けるとそこに待っていたのは舞…はいなかった。
あれ、いつもはいるんだけどな。
まあいいか。
久しぶりの1人の通学だった。
特に何事もなく学校まで舞には遭遇しなかった。
珍しいこともあったもんだと思いつつ、いつも通り教室で授業開始を待っていた。
「おはよう。今日はいつもより眠そうじゃないな。よく眠れたか?」
そう言って前の空いている席に座ってきたのは朝から爽やかな顔をした調本計人だ。
「おはよう。そうだな、いつもよりは眠れたかな、それで何のようだ」
「用がなくても話すことくらいあるだろ。まあ今回は用アリなんだが」
そう言った計人はすこし呆れたといった表情だった。
「例のインタビュー、受けてもいいそうだ」
サッカー部のインタビューの話だ。
本当に聞いてくれたらしい。
「まじか、それは助かる。本当にありがとう」
「だが1度、直接話をしに来て欲しいとのことだ」
部長に話に行くのは少しトラウマだ。
前回の吹奏楽部があるからな。
「それは、何故?ちょっと怖いんだが」
「それは…行ってからのお楽しみってことで」
計人が珍しく目を逸らした。
なんだよその間は、怖いだろ。
「まあ分かったよ。とりあえず話してくれてありがとう。いつ行けばいいんだ?」
「練習中でもいいし、なんなら校内ですれ違った時とかでも構わないそうだ。まあできるだけ早い日程でってことだな」
「分かった。また相談しとくよ」
そう言うと時計をチラッと見て計人は立ち上がった。
「それじゃあな、授業ちゃんと聞けよ」
そう言うと少し笑って去っていった。
計人が去って少しした後にチャイムは鳴り授業が始まった。
またいつも通りぼーっとしておこう。
⭐︎⭐︎⭐︎
なんとか授業を乗り越え、昼休みが始まった。
いつもの場所で昼ごはんを食べようと教室を出ると目の前にインタビューちゃんがいた。
目があったが何も言われなかったのでスルーして進むと腕を掴まれた。
「なんだよ、いまから昼飯なんだが」
「部室で、ですよね」
まあそうなるよね。
俺は腕を掴まれたまま連行された。
部室に到着すると小池さんもいた。
「あ、どうもこんにちは小池さん」
「あ、こんにちは…向井さん」
そう言った小池さんは笑顔であった。
これだけでも来た価値がある。
謎の間があったのは少し気になるが…
部室の真ん中に置かれた段ボールを中心に段ボール兼椅子を設置し、着席した。
「それで、今日は何の用なんだ」
「用がないと集まってはいけないんですか」
なんか朝似たようなこと言われたな。
「教室で食べればいいじゃないか。かく言う俺も教室では食べないが」
「ところで、今日の放課後なんですが」
「あれ、俺の話は」
「小池さんも来てくれるそうです」
そう言われたので小池さんの方を見ると苦笑いだった。
もしかしたら何か地雷を踏んだのかもしれない。
「部活はいいんですか?」
「はい、今日は部長の都合で休みです」
部長の都合だけで休みになるとかあるんだな。
部長ってすごい。
「ありがとうございます。いつもお世話になってばかりで」
「いえいえ!気にしないでください。それに、私がやりたくてやってることなんです」
両手を左右に振りながら話していた。
「そこまで私たちのことを…」
インタビューちゃんが涙ぐんでいた。
いくら何でも大袈裟だろう。
「そこまで手伝ってくれるんでしたらいっその事部活に入りませんか?」
これで入ってくれるなら部員3人以上のノルマを達成し、部活として認められる。
そう思っていたが、小池さんの表情は少し暗く、一瞬沈黙が生まれた後に話し出した。
「お誘いありがとうございます。ですが、ごめんなさい。私、どうしても吹奏楽部で頑張らないといけなくて…」
「そうですか、それなら仕方ないですね」
「本当にごめんなさい。でも、これからも力になれることがあったら是非声をかけてください!」
そう言って再び笑顔になった。
「ありがとうございます。是非頼らせてもらいます」
「私てっきりりこぴーが入ってくれると思ってました。どうしましょう部員足らないです!」
なんて計画性のないやつ。
「まあ、部員はどうにかなるって。そんなことよりだ、サッカー部の部長がいつでもいいから会いに来いだって」
「え、なんですかそれ怖い」
まあそうなるわな。
「本当にいつでもいいらしいぞ、練習中でもいつでもだ」
「分かりました、ありがとうございます。考えておきます」
内心もうやめてもいいかもとか思ってる自分がいる。
だって怖いし。
「では、食べましょうか」
そう言ってインタビューちゃんは購買で入手したであろうメロンパンを取り出した。
俺も今日はメロンパンだ。
なんか被って複雑な気持ちだ。
小池さんはお弁当だ。
「小池さんそれ、自分で作ってるんですか?」
「はい、毎日自分で作ってます。練習です、将来のための」
「はぇ〜すごいですね」
そう言って左鳥の方を見たら少し睨まれた。
「なんですか、私だって料理くらいできますよ」
「本当かな」
「分かりました、では明日さっくんの分も作ってくるので楽しみにしててください」
「分かったよ、楽しみにしてる」
面倒なことになった。
これで飯まずだったらどうしよう。
とりあえず逃げる術だけ今日中に考えとくか。
話をしながら素早く食べ終わり、教室に帰ろうとしたが引き止められたので諦めて残った。
その後もインタビューちゃんはずっと何かを小池さんに話しかけているようだった。
そういえば昨日帰る前インタビューちゃん変だったけど。
多分聞いたらまた話逸らされるだろうな。
今度小池さんに相談しておこう。
「では、本日の予定ですが」
全然話聞いてなかったけどなんか始まった。
「掃除終わりにさっくんの家に集合で決定でよろしいですか?」
「分かりました!」
小池さんなんていい返事。
「よろしくねぇよ」
「え、でも誰もいないんですよね」
何でそんな不思議そうな顔なんだよ。
「いない、と思うけど。それはわからん、舞がいるかもしれないからな」
「まあそれはいいですよ。舞さんはもう友達だと思ってます」
「いいんですか?小池さんは」
「はい!是非いってみたいです!」
何でそんなに乗り気なんだ。
「てことで決定ですね!ぱちぱち」
そう言って2人は拍手していた。
俺の自由はもうないらしい。
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