第15話:初インタビューには敵わない
部室内には緊張感が走っている…ような気がした。
その理由はなぜかバトル展開になりそうなこの状況にあった。
「どうした?来ないのか…ならこちらからいくぞ」
部長がなぜか質問する立場にあるようなことを言ってきた。
後ろにいる吹奏楽部一同がボスの取り巻きに見えるのは気のせいだろうか。
「いえ、こちらからいかせてもらいます。それでは始めます、この部活の一番の魅力を教えてください」
インタビューちゃんもなぜかその空気に馴染んでいる。
表情はまるで強敵を前にワクワクしていると言った表情だ。
額にはうっすら汗が浮かんであるように見えた。
それを見て舞もなぜか同じような雰囲気が出てきている。
仲良いんじゃないかこいつら。
「この部活の魅力…か、そうだな、レベル高さは
言わずもがな、一体感の高さだな。簡単にいえば仲が良いということだ」
「なるほど、それは学年を超えてもですか」
「そうだ、学年を超えても話しやすいように上級生には下級生と積極的に接するようにしてもらっている」
「なるほど、では男女間はどうでしょうか。見る限り女子が圧倒的に多いようですが」
言われてみればそうだ。
この教室にいる生徒の9割ほどが女子だ。
「なに、簡単なことだ。4月から5月の間、学校のある日は毎日昼休みに集まって話をしながら昼ごはんを食べている」
いや簡単なことではないだろ。
それによく人集まるな。
「それはすごいことです。さすがは大人数の部活といったところでしょうか」
「大人数であることはそれほど重要ではない。真に大事なのは…ここだ」
そう言って部長は拳で自身の胸をトントンと叩いた。
それに対し後ろから部長のかっこよさなどを褒めたたえるような歓声が飛び交っていた。
「ハート、というわけですか…なるほど、勉強になります」
部長が部長である理由がわかった気がした。
人を惹きつけるカリスマ性のようなものを感じる。
関心しているだけではダメだ、せっかく時間をとってくれたんだから何か1つくらいは質問しないと。
なぜこのような考えになったのか分からないが、これも部長の影響なのだろうか。
「それでは続いての質問です。今後の部についての展望についてお聞かせください」
「展望…か。現状維持以上だな。部のレベルや部員数などが大きく減少することのないように努めたい」
「つまり、多くは望まないということでしょうか」
「そうなるな。学校内での評価も下げるわけにはいかん。それだけは何があろうとだ」
何やら難しい話になってきて分からなくなってきた。
インタビューちゃんはペンがすらすら動いているし、舞も感心している様子だ。
浮いているのは俺だけってことだ。
ここらで質問しておこうか、一応部員だしな。
「ありがとうございます。私からも1点質問させていただいてもよろしいですか」
「なんだ、言ってみろ」
ちょっと怖かった。
まあ聞いてくれるみたいだからよかったけど。
「部長さんが信頼されているのは非常に良く理解しました。その上で信頼やコミュニケーションを取る上で重視していることがございましたらお聞かせください」
我ながら素晴らしい質問だ。
インタビューちゃんもこっちを見て下手くそなウインクをした。
やめとけ
「そうだな、やはり一番上に立つ人間として関わりやすい関係を保つことは重要だ。そのためにも練習中だけでなく、廊下ですれ違った時に話をすることも多いな」
「なるほど、良好な関係づくりには欠かせませんね。他にはございますか」
「そうだな…強いていうなら…」
「部室内限定だけど撫でてもらえます!」
後ろから話を割り込むように話してきたのは吹奏楽部員だ。
「撫でてくれる上に褒めてくれます!普段はカッコいい雰囲気ですが、この時は可愛い雰囲気になります!」
「な…なるほど、それも1つのコミュニケーションとしては良いですね」
言われた部長はそんな話されると思っていなかったのか、今までにない赤面を見せた。
そして何故か俺が睨まれた。
質問した俺が悪いのか。
後で土下座しておこうか。
「もうこの話は終わりだ!次!次だ!」
話を切り替えるスピードがとんでも無く早かった。
隠し事だったのだろうか。
1つ弱みを握ったのかもしれない。
「それでは少し早いのですが、時間も押してますので最後の質問とさせていただきます」
「今度の部長会議、どのように動かれるのでしょうか」
それを聞いた部長の目の色が変わった。
先ほどまでとは別人のようにキリッとした表情だ。
それにしても知らない単語だ、部長会議とはなんだ?
「その話は無しだ、黙秘ということにしておいてもらおうか」
「分かりました。不躾な質問をしてしまい申し訳ございません」
「いや構わない。それで、これで終わりなのか」
「はい。本日はお忙しい中ありがとうございました」
そう言って席を立ち全員で頭を下げた。
部長の後ろからは拍手が巻き起こっていた。
それに便乗するように舞も拍手をしていた。
そこで一気に緊張が解けたような感覚があった。
「はぁー、疲れた」
思わず口に出してしまった。
「こら!さく、失礼でしょ!すいません、うちのさくが」
どこのさくだよ。
「なに、気にするな。それにわざと緊張感のある雰囲気を作ったつもりだったんだ。こちらこそ失礼した」
最初のバトル展開はわざとだったらしい。
まあそうだろうとは思っていたが。
「ちなみにそれは何故?」
インタビューちゃんが素早く反応して質問した。
「お前たちインタビュー部がどの程度のものか見たくてな、あの程度の緊張に耐えきれないようではこの先部として活動していくのは不可能だ」
活動するだけなら必要ないのでは?という考えは頭の中にしまっておこう。
それを聞いたインタビューちゃんは深々とお礼をしていた。
「それはそれは、お気遣いどうもありがとうございます」
「さて、片付けをするか。全員片付け開始だ」
『はい!!』
部長の号令とともに片付けが始まった。
片付けをしている間、舞は他の部員と何やら話しており、インタビューちゃんは部長さんと仲良さそうに話している。
そして俺は1人になった。
まあ気にしてないし!
「あの、今日はお疲れ様でした」
そんなことを考えていると1人の少女が話しかけてきた。
いつもの小池さんだ。
「あ、わざわざありがとうございます。色々迷惑かけてしまって申し訳ないです。練習のお邪魔でしたよね」
「全然そんなことないです!初めての経験で見ているだけでワクワクしました」
少し赤く染まった頬がよく目立つ彼女は見上げるようにこちらを見つめていた。
なんだこの天使は。
「ところで片付けはもういいんですか。俺何もしてないですけど」
思わず目を逸らしてしまった。
「あぁ、それでしたら問題ないかと。私自身の片付けはもう終了してますし、皆さんもあの方とお話しされているようですので」
そう言って見ていた先には舞がいた。
本当にすごいコミュニケーション能力。
そこだけは見習える。
「小池さんはいいんですか?舞と話さなくても」
「私は…私は、今は向井さんと少しお話しがしたくて、いや!その、あれですよあれ、珍しいことしてたし今日のこと聞きたいなーって思いまして」
そう言った小池さんは今までにない早口だった。
それに何か焦っている?ようだった。
「そうですね、俺自身そこまで何かをしていたわけではないのでそこまでお話しができるわけではありませんが」
「それでも少し聞きたいなと思いまして」
「ここまで来れたのは左鳥と小池さんのおかげですよ。俺自身まだ入って2日目でまだまともに役に立ててるわけではないので」
「そんなことないです、たとえ間違いだったとしても私のことを守ろうとしてくれたその姿を見て私はあなたを尊敬しています」
そう言った小池さんは両手をお願いする時のように握り、胸の前で組んだ。
そうしてまた見上げるように見つめられた。
なんか恥ずかしい。
「あーまぁ、あれは忘れてください、恥ずかしいですし」
「いや、私はあの日のことを忘れることはありません。私をこうして守ってくれたのはあなたが初めてで、私は向井さんに…」
「さくー、そろそろ行くよー!」
小池さんが何かを言いかけたと同時に舞が手を掴んで引っ張ってきた。
「ちょっと、引っ張んなよ」
そう言っても止まる気配はなかった。
「それではお先に!失礼しまーす!今日はどうもありがとうございましたー!」
「あ、ありがとうございました、それでは失礼します」
そう言って大きな扉を開けて外へ出た。
インタビューちゃんをほって先に出る羽目になった。
「もういいだろ、離してくれよ」
「あーそうだね、もういいかな」
「話してた途中だったんだが」
「あの女、誰か知らないけど危険な香りがする。近づいちゃダメだよ」
どこが危険なのだろうか。
見た目では分からないが女の勘ってやつなのだろうか。
「あれは天使だ。今日のインタビューのMVPと言ってもいい、彼女のおかげでアポが取れたからな」
「と!に!か!く!あの女には近づいちゃダメ!」
「あの子、俺の唯一の友達なんだけど」
そう言うと表情が暗くなった。
「あー、あれがそうなの。ふーん、なるほどね」
なんだよ怖いな。
そう話しているうちにまた扉が開いた。
「皆さんお疲れ様でした!本日はありがとうございます!」
インタビューちゃんだ、ベストタイミング。
「では一旦部室に戻りましょうか、荷物もありますし」
そう言って3人で来た道を戻って行った。
その間舞の表情は暗いままだった。
しかしインタビューちゃんは満足げに舞に話しかけていた。
怖いこの部活。
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