第13話:部活見学には敵わない
拝啓未来の俺、お元気ですか。
私は今元気に楽しく過ごしていることをあなたは知っているでしょう。
ですが、部活が始まってすぐの事件、こちらは記憶から消し去っていることでしょうから思い出せるようここに書き記します。
肩を掴んだまま押し潰す勢いで攻撃を開始した舞はもう止められなかった。
「この泥棒!私の、じゃない。さくをこんな部活に無理矢理入れていいと思ってるの?バカじゃないの!」
突然のことにインタビューちゃんは驚きを隠せない様子だった。
「泥棒ってなんですか、ていうかあなたは誰です!」
「私は伊手真舞、さくのおさなな…ちがう恋人!」
何を言い出すかと思えば恋人って、とんでもないやつだ。
「え!?さっくん彼女いたんですか!てっきりいないかと…失礼しました!」
驚いた表情だ。
相手の話を簡単に信じる単純な人間だった。
「違うぞ、ただの幼馴染だ」
「そう!幼馴染!あなたの入る余地は無いの!てことで帰って!!」
もう話にならないので一旦舞を引き剥がすことにした。
「一旦落ち着け、ほら離れろ」
「嫌!このクソアマじゃない、クソ泥棒とっちめてやるんだから!」
なかなか離れそうにないので無理矢理引き離した。
少し暴れたら落ち着いたのでダンボールに座らせ、インタビューちゃんに向かい合うような形で座らせた。
インタビューちゃんの顔が少し怯えているような気がした。
「とりあえずどこから話そうか」
「いろいろ質問させていただきたいのですが…」
この時のインタビューちゃんはいつもより控えめなように感じた。
「まず、幼馴染というのは分かったのですが、泥棒って何ですか」
「あなたが私からさくを盗んだんでしょ!」
「盗んだというか部活に入ってもらっただけなんですが」
「無理矢理入れたんでしょ!」
「それはー…否定はできないです」
確かに半強制的だったのでこれは否定できない。
「でも今は入ってよかったと思ってるよ。入らなかったらどこか適当なとこに入ることになったし」
「それなら陸上部でよかったじゃん!なんでこんな訳わかんない部活なんかに…」
「訳わかんなくないです!ちゃんとした部活で適当にやってるつもりもありません!今は確かに部員も2人で側から見たら部活には見えないかもしれません。ですが…」
舞に負けないくらいの大声で反論し始めた。
ちょっと怒っているのかもしれない。
「ですが、私はこの部活を始めて一度も手を抜いたつもりはありません」
真面目な時のインタビューちゃんに戻った。
この時は素直にかっこいいと感じる。
この反論に驚いたのか舞は少し小さくなっていた。
「ごめんなさい。部活をバカにしたことは謝ります。でも!なんで、なんでこの部活なの!陸上部でもよかったじゃない」
舞の目がうるっとしてるのが分かる。
今にも泣きそうだ。
「さっくんが陸上部って、何があったんですか」
「簡単に説明するとわけあって一時期陸上を出来なくなった。それで辞めたんだ」
「なるほど、お二人は元々一緒の部活で舞さんはさっくんが戻って来るのを待っていたということですね」
こういう時頭がキレてくれて非常に助かる。
「そう!だからさくはここにいるべきじゃない。ねぇ、戻ってきてよ」
「悪いけどそれはできない。分かるだろ、もう昔とは違うんだ。それに今はこの部活で頑張ってみようと思ってるんだ」
「そう、そうなんだ。もう戻って来るつもりはないんだね」
それに対し俺は小さく頷く。
「分かった、もう大丈夫。じゃあ私はさくの行くところに一緒に行く」
「あ、あの、すみません舞さん」
インタビューちゃんはそう言って慎重に話しかけた。
「あなたとさっくんが今まで何を見て、何をしてきたのか私は知りません。ですが、その期間の長さと絆は本物であることは分かります。さっくんは今まであなたを引き離そうとしましたか。それが何よりの証拠だと思います」
そういうと落ち込んでいた舞は元気を取り戻した。
「そう、そうよね!私とさくの間に障壁なんてない!今までもこれからも。あなたいいこと言うじゃない」
インタビューちゃんはホッとした表情だ。
フォローが上手くて助かる。
「とりあえず落ち着いたか、もう暴れるんじゃないぞ」
「分かってるよ。それで、今日は何するの?私一応見学に来たんだけど」
見学って、入るわけでもないのに。
「あなたもインタビューに興味が!?見る目がありますよ!是非我がインタビュー部へきませんか!?」
先程までの落ち着いた表情から一転していつものうるさいインタビューちゃんに戻った。
なんかこっちのほうが安心感あるな。
「まぁ、そうね。今日は見学させて欲しいかな。普段どんなことしてるのか気になるし」
普段も何もまだ俺が来て2日目なんだけどな。
「いいでしょうとも!是非見ていってください!何せ今日はインタビューの日ですからね!」
そういえばそうだった、すっかり忘れていた。
現在時刻は17時前といったところだ。
まだ30分ほど時間があるわけだが。
「まだ結構時間あるけどどうするんだ」
「私、さくの友達?に会いたいな。ほら、紹介するとか言ってた人」
「誰ですか?あ、りこぴーですか」
「りこ?女?」
また顔が怖くなった。
「女の子だよ。後で会えるからそれまでお預けだな」
「この学校は危険ね…さくに手を出す…まぁ私が入ればお邪魔虫は…消し去れるし」
恐ろしい単語が聞こえた気がするが気のせいだろう。
「舞、頼むから暴れないでくれよ。お前のその表情見てると不安になる」
「大丈夫!何もないから気にしないで!」
本当だろうか。
不安である。
「少し気になるところがあるんですが、舞さんとさっくんは何故違う高校に進学したんですか」
「それは学力の問題。私にはこの学校はレベルが高すぎたの。普通に入試で入るのは無理だったから諦めた」
そう舞は言うが、部活を最後までやり続けた舞と途中でやめた俺とでは勉強できる時間が全然違うので仕方のないことである。
「でもそんなに学校も遠くないし、家に行けばいつでも会えるからよかったの。今までは」
「今までは?」
「ほら、さくったら私がいないと女をたぶらかすみたいだから。私が見張っとかないといけないでしょ」
いつ俺がたぶらかしたと言うのだろうか。
「見張らなくていいぞ、たぶらかさないし。まず人とそんなに話さないからな」
「そんなこと言って、私から離れようったってそうはいかないんだから」
「別に離れようとしてないだろ。離れようとしてるなら家の鍵回収してるし、飯作ってもらってないよ」
するとインタビューちゃんは驚いた表情になった。
「お二人は同棲を…もうそんな関係になっているとは」
もう勘違いしてるよこの人。
「違うぞ、1人暮らしだから手伝ってもらってるだけだ」
「なんですかそれ初耳です。私も遊びに行きたい」
「だめだ」
家で騒がれたら近所迷惑だからな。
「そう、私とさくの家なんだからダメだよ」
それも違うけどつっこむのが面倒だったので無視した。
こうしてダラダラと雑談をしていると約束の時間が近づいてきた。
「もうそろそろ時間ですね、行きましょう!いざ、インタビューへ!」
「おー!」
なぜ見学の舞がそこまで乗り気なのだろうか。
「本当に邪魔するんじゃないぞ、邪魔だと思ったらつまみ出すからな」
「もう!分かってるって!私がそんなことするように見えるの?」
「いやまあ、うん。そう見えるわけじゃないけど一応な」
見えるけど肯定したら怒られそうなので否定した。
とりあえず必要な物はインタビューちゃんが持ってくれているのでお任せした。
俺は舞のお世話がかりというわけだ。
本当に大丈夫だろうか。
心配しすぎて心臓がはち切れそうになっていた。
「あ!ちょっと待ってください」
そう言ってインタビューちゃんはダンボールを漁り始めた。
「あった、これ必要ですよね」
手に持っていたのはマイクだった。
いやいらないだろそれ。
ますます不安になったが気にしても仕方ないので何かあったら帰ることにしよう。
そう心に誓った。
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