第11話:予行練習には敵わない
予行練習の準備を始めたインタビューちゃんはあたりに落ちていた段ボールなどを適当に端に集めて教室の中心には椅子だけある状態を作った。
その間に俺と小池さんは昼ごはんを急いで済ませた。
椅子に座って待機しているとインタビューちゃんはどこからかマイクを取り出して俺に渡してきた。
「なんだこれ」
「インタビューといえばマイクでしょ」
そう言って不思議そうにこちらをみた。
「もしかして俺も参加するのか」
「当然ですよ。部員なんですし」
インタビューをしたことのない俺は今回見学だと思っていたがそんなことはないみたいだ。
「ぶっつけ本番にならないように予行練習するんですよ」
「でも俺本当に何も知らないぞ」
「大丈夫です!気になったことを聞くだけでいいですよ」
それが難しいんだけどな。
そもそもインタビューって2人でするものなのだろうか。
そんなこと考えても仕方ないので諦めて参加することにした。
「では始めますよ!相手はりこぴーです」
誰か一瞬分からなかったが小池さんのことか。
これのために呼んだのか。
ようやく納得できた。
「え、私ですか!なんか恥ずかしいです…」
小声で驚いた。
知らなかったらしい。
「そこをなんとかお願いします」
そう言ってインタビューちゃんは手を合わせ頼み込んだ。
「恥ずかしいですけど…がんばります」
どうやらやってくれるみたいだ。
なんていい子なんだろうか。
「ありがとう小池さん。じゃあ左鳥、進行たのむぞ、俺は基本聞いてるだけだからな」
「了解です!では始めますよ」
敬礼して元気よく返事した。
そしていつもよりキリッとした顔になった。
「では初めの質問です。吹奏楽部の魅力を教えてください」
直球!いきなり本命聞くのか…
「え、えーと、そうですね…みんな演奏が上手いところ?とかですかね」
いつもより少し声を出して答えてくれた。
「なるほど、ちなみにあなたは何の楽器を演奏しているんですか?」
「今はフルートを練習しています」
まさかの木管楽器。
実は肺活量が凄かったりするんだろうか。
「他に何か弾ける楽器はありますか?」
「ピアノとバイオリンが弾けます」
凄い人だった。
今度聞かせてもらおう。
「ありがとうございます。それでは部活についての質問に戻ります。入って間もないと思いますが、これまで辛かった経験はありますか?」
なんかそれっぽい質問だなと感心してしまうほどにスムーズなインタビューになっている。
「そうですね…特段そのようなことはないですね。皆さん優しくしてくれますし」
「なるほど、ありがとうございます。素晴らしい部活ですね。それでは、私からは以上となります。続いてこちらの方から質問があります」
そう言って俺に回してきた。
「やっぱり俺もやるのか」
「割り込んでくるのを待ってたんですが来なかったので諦めました」
割り込む余地などなかったように思えるのは気のせいだろうか。
まあ気にしないでおこう。
とりあえず質問しないといけないが、簡単なやつでいいか。
「では、普段の練習内容について教えてください」
「基本的には個人練習で、部長がみんなの様子を見て定期的に合わせて練習しています」
「いいですよさっくん!その調子です」
メモをとりながら話を聞いていたインタビューちゃんが横から話してきた。
本番でも横からこんなこと言われるのだろうか。
調子狂うな。
「ありがとうございます…他に何か聞くことあるか?」
「あーだめですよさっくん、ちゃんと話を続けないと」
想像以上に難しいぞこれ。
インタビューちゃんが凄いってことがよく分かった。
「俺にはまだ難しいから本番は左鳥にほとんどお任せするよ。凄かったんだな」
すると嬉しそうな表情に変化した。
「仕方ないですね!では本番は私に任せてください」
ちょろかった。
褒めれば伸びるタイプだ。
「ごめんなさい小池さん。せっかく付き合ってくれたのに」
練習に付き合ってくれたのにまともに質問出来なかったのは申し訳ない。
「全然大丈夫です。楽しかったですよ初めての経験でしたし」
優しすぎて怖くなってきた。
「本当にありがとうございます、りこぴー。この予行練習の情報も使わせてもらって大丈夫ですか?」
どうやらメモしてたのはこのインタビューの情報を使いたかったからみたいだ。
抜け目ないな。
「はい!私も力になれて嬉しいです」
今日1の笑顔だった。
俺には眩しく見えた。
「ありがとうございます。ではそろそろ戻りましょうか、10分前ですし」
気づいたら5限開始まで残り10分といったところになっていた。
インタビューしてると時間が経つのが早いように感じるな。
結局俺の昼休みは無くなった。
1-1のインタビューちゃんが先に教室に入って行き、次は1-3の俺が教室に入るというところだったが改めて小池さんにお礼をしておこうと思った。
「小池さん今日はわざわざありがとう」
そう言うと小池さんは頭を少し下げ教室に戻って行った。
最後まで小池さんは小池さんだった。
席に着くと授業が始まる目前であった。
明らかに自分の自由な時間が減っていることは残念に思う。
今日は放課後もインタビューだし。
それまではいつも通りぼーっと過ごすことにした。
授業という時間が今は一番の自由時間のように感じた。
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