第10話:朝と昼の部活動には敵わない
教室にはほんの数人、朝練が無い人たちがいた。
その人たちが全員こちらを見るほどの声量で話したインタビューちゃんとその相手であった俺は注目の的だった。
視線が痛い。
「早くいきますよ!時間がもったいないんで」
腕組みをしながら話したインタビューちゃんは楽しそうだった。
「もうあと20分ぐらいしか時間ないけど」
「だから早く行くんでしょ!さあついてきてください」
そう言って腕を掴まれ連行された。
ついてきてとは一体何だったのか。
腕を掴まれながら廊下を歩くと隣を通る人たち全員からチラ見された。
もう羞恥心なんてものはなかった。
練習中の元気な声が聞こえる廊下を歩き進めるとすぐに部室に到着した。
部室に入るとすでに座る用の段ボールが用意されており、準備は整っていた。
「さぁ、朝練を始めますよ」
「朝練って何するんだよ」
当然の疑問だ。
とりあえず段ボールに腰掛けて話を聞くことにした。
「今日は時間がないので今後の作戦会議をします」
そう言って腕組みをしながら段ボールに腰掛けたインタビューちゃんは眠たそうに軽くあくびをしていた。
「今後のって、前に言ったとおり部活にインタビューして回るんだろ?」
「その通りですが、まずこの状況をどうにかしなければなりません」
「と言いますと?」
「部室の片付けです」
改めて辺りを見渡すと確かにこの部屋は悲惨である。
もはや部室ではなく物置だ。
「片付けをするのはいいが、この量どうするんだ。どこに片付ければいいかわからないし」
「その点はご安心を、今こそ我がインタビュー部顧問の出番です」
人差し指を立て、得意げに話した。
そういえばいたなそんな人。誰か知らないけど。
「それで、これから毎朝やるのか?」
「朝は辛いので放課後にしましょう。また改めて日は考えておきます」
朝練やるってのに朝弱いのかよ。
少し呆れてしまった。
「じゃあ放課後、先生来れる日に頑張るか。とりあえず今日は吹奏楽部に行かなきゃならないしな」
「そうです!今日は待ちに待ったインタビューの日」
そう言うインタビューちゃんは嬉しそうだった。
俺が来るまで1人でろくな活動もできなかったし当然といえば当然なのだろう。
キーンコーンカーンコーン
ここで予鈴が鳴った。授業開始5分前だ。
「そろそろ戻りますか。眠たいですし」
「そうだな、早く戻らないと授業が始まるしな」
眠たいって。これから授業だぞ。
そう思いながら急足で教室にもどる。
他の朝練組の人たちも急足で戻っていた。
先に1年1組の前を通ったのでインタビューちゃんが先に教室に入って行く。
「それでは、また。おやすみなさい」
「あぁ、またな」
寝るつもりだなこいつ。
勉強についていけるのかこいつは。
バカなやつはほっといて教室に戻ろうとすると一旦教室に入ったはずのインタビューちゃんが扉からひょっこり顔を出していた。
「そうだ!昼休み!昼休みも部室来てくださいね〜」
それだけ言って教室に戻って行った。
拒否する時間もなかったので強制参加だ。
俺の昼休みは失われた。
落胆しながら教室に戻り席についた。
まだ少し時間があったので急いで授業の準備をしていると。
「よう!どこ行ってたんだよ」
「部室だよ。朝練」
すると驚いたような顔をしたのは計人だった。
そして俺の肩を掴んで前後に体を揺らされた。
「おまえ!ついに部活入ったのか!何部だ?」
「インタビュー部だよ。まだ部として認められてないけどな」
「インタビュー部か、聞いたことないな。何かインタビューとかするのか?」
そう言って動きを止めた。
「今は部員集めないといけないからインタビュー部の紹介として色々な部活にインタビューすることになってる」
「じゃあうちの部活にも来てくれよ!部長に言っておくよ」
こいつはサッカー部でかなり上手いらしく早くも部員からの信頼を得ているらしい。
そのため上級生とも仲がいいと聞いた。
「助かるよ、行っていい日聞いといてくれ」
「わかった。またなんか困ったら言えよ!それじゃあな」
そう言って席に戻った。
ただのいいやつだった。
しかしこれで新しくアポを取れたと言っても過言ではない。
あとでインタビューちゃんに報告しておこう。
話が終わった後すぐにチャイムが鳴って1限目が始まった。
ボーっと授業を聞きながら4限まで耐え、昼休みになったので憂鬱だったが部室に行かなければならない。
昼ごはんのパンだけ購買で購入し部室に向かった。
部活が盛んなうちの学校でもさすがに昼休みは部活をしていないので、放課後とはまた別の騒がしさがあった。
部室の前に到着し部屋を開けようとすると中で話し声が聞こえた。
「あ、ようやく来ましたね!」
扉を開けるとそこには段ボールに座った小池さんとインタビューちゃんがいた。
「こんにちは向井さん」
小さな声は健在だった。
昨日のメールにあった部室ってここだったのか。
「こんにちは小池さん。どうしてここに?」
「昨日帰る前に私が呼んでおきました!」
そう言ってドヤっと言わんばかりの表情を見せたのはインタビューちゃんだった。
まあ部長にも仲良くしろって言われてるしいいんだけど。
「それはそうと今度は何をするんだ」
「とりあえずは何もしません。お昼ごはんを食べるだけです」
そう言って2人は弁当箱を取り出し食べ始めた。
「教室で食べればいいじゃないか」
「こういうのは部室で集まって食べるもんなんですよ。知らないんですか?」
知らないし聞いたこともない。
また何かに影響されてるだろ。
「まあいいけど。ところで先生はいつこれそうか分かったか?」
「いつでもいいらしいです。仕事のしない顧問は暇なんでしょう。もう明日にでも片付けてしまいしましょう」
「ここ、片付けちゃうんですか」
なぜか小池さんは残念そうだった。
そういえば秘密基地みたいで良いとかいってたしそれかな。
子供っぽいところがあるんだろうか。
「じゃあ明日の放課後は片付けで決まりだな。ところで左鳥、お前に朗報がある」
「なんでしょう」
そう言って首を傾げている。
「サッカー部のインタビューのアポが取れそうだ。クラスにいいやつがいてな」
それを聞いたインタビューちゃんは目を輝かせていた。
「ほんとですか!さすがさっくん!私が見越しただけのことはあります」
ただの余り物だったはずなのに期待されていたらしい。
謎だ。
「本当に良かったです。困ったことがあったら私も力になりたいのでいつでも呼んでください」
そう小声でいった小池さんは本当に嬉しそうだった。
「では次のインタビューはサッカー部で決まりそうですね!よかったです」
嬉しくなったのかインタビューちゃんはすごいスピードで弁当を食べ進めあっという間に無くなった。
「ごちそうさまでした。さて、始めますか」
「一体何が始まるんだ」
「今日のインタビューの予行練習です」
昼休みが全部なくなることが確定した。
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