第7話:伊手真舞の夕飯には敵わない

 部活中からは考えられない程に静かになった廊下を気弱な少女小池さんと2人で歩いていた。


ついでに石を抱えながら。


すでに外は暗くなっており廊下の電灯だけが頼りだった。


「部室って、部室棟だけじゃなかったんですね」


この静けさに小さな声は透き通るように聞こえた。


「うちの部だけだと思いますけどね」


「でも、なんかいいですね、そういうの。他から隔離された空間というか。上手く言葉にできませんが素敵です」


そう言って微笑んだ彼女の笑顔は純粋無垢なものだと思った。


「ところで、向井さんはどうしてインタビュー部に入ったんですか?」


「入る部活がなかったからです」


小池さんは驚いた顔を見せた。


「うちの学校、部活の数は多い方だと思うんですけど」


「まあ、適当に入ろうとは思ってたんですけど、部活勧誘で左鳥に捕まってしまって」


「あぁ、なんだか想像つきます」


そう言って苦笑いをした。


そんな話をしているうちに部室に到着した。


「ここです」


そう言って戸を開いた。


中を見ると真っ暗だったが物がごちゃごちゃしているのがよくわかる。


「秘密基地みたいでいいですね。ワクワクします」


そう言って楽しそうにしている小池さんは天使のようだった。


明かりをつけ中に入りとりあえず部室の真ん中にインタビューちゃんこと石を置いた。


てかいつまで固まってんだ。


こいつもう人間じゃないだろ。


とりあえず小池さんに聞いてみることにした。


「これどうしましょうか」


すると、石の前に行き頬をぺちぺち叩き始めた。


「ダメですね、叩いても起きません。何かアイテムを使えば起きるかも」


アイテムってゲームかよというツッコミは一旦置いといて何か探してみることにした。


「これとか、どうでしょうか」


そう言って物の山からマイクを取り出し持たせてみた。


「マイク…インタビュー」


動き出した。


もう人間じゃないな。


「みなさん、ありがとうございます。おかげで目が覚めました」


「よかった、本当によかったです」


そう言って小池さんは感動に涙を浮かべていた。


なんだこの茶番は、帰ろ。


「じゃあ、俺はもう帰るから。またな」


そう言って教室を後にする。


ちょ、待ってくださいとか聞こえた気がしたが気のせいだろう。


⭐︎⭐︎⭐︎


外に出ると外は完全に暗くなっていた。


こんな時間に帰るのも久しぶりだった。


高校が始まってから1番ボリュームのある1日だったし、これ以上の日はもう訪れないだろう。


インタビュー部に入ったはいいけど、これから大丈夫だろうか。


苦労しそうだな。


憂鬱になりながらそんなことを考え歩いているうちに曲がり角を曲がって少し歩くと家に着くあたりまで来ていた。


学校から家は20分ほどの距離にあるため立地はかなり良い。


しかも頭が悪かったうちの中学からこんな名門が出るわけもなくて誰もいないしな。


一応、部活推薦とかいうのもあったみたいだけど、まあ全国に出てるレベルじゃないとダメだしうちの中学だったら1人ぐらいしかいないだろう。


そんなことを考えながらボーっと歩いていると家の前に到着したわけだが、家に明かりがついていた。


家の鍵を開けようとしたが、すでに開いていたためそのまま戸を開いて入ると


「あ!おかえりー」


そう言ってひょっこりと玄関のすぐ左手にあるリビングから顔を出したのはエプロン姿の伊手真舞だった。


セミロングの髪につけている定期的に変わるヘアピンは、今日はにんじんであった。


なんだそのピンどこで買ったんだよ。


「舞、家にくるのは全然構わないしむしろありがたいけど、戸締りはしてくれ」


「あれ?開いてた?ごめんね、そんなことよりご飯にする?お風呂にする?それとも」


「ご飯で」


途中からニヤニヤしだしたので発言を遮った。


こいつがニヤニヤしているの時は大体からかっている時だ。


すると頬を膨らましたながらブーブー言っていた。


「ネタが古いんだよ。新しいの考えてくれ」


「分かった。でも思いつくまで我慢して」


もう放っておこう。そう思い洗面所で手洗いを済ませた。


手洗いを済ませリビングに向かうとほのかにスパイスの香りがした。


「もしかしてカレーか?」


「正解だけど不正解!」


どっちだよ。


訳がわからないのでキッチンに見に行った。


「大正解はスープカレーでした!残念!ハズレだったからお皿とか準備よろしくー」


そう言って舞はソファにどかんと座った。


まあ元々いつもやってることだからいいんだけど。


俺が準備している間、舞は鼻歌を歌いながらスマホで誰かにメッセージでも送っているのか、とてつもないスピードで指を動かしていた。


俺にはとてもできそうにない。


それを横目に見ながら準備を進めるとあっという間に終わった。


「準備できたぞ」


そう声をかけると首が飛んでいくかと思うほどのスピードで振り向き、ソファーから飛び出した。


「は〜いとうちゃ〜く。ありがとね」


そう言って椅子に座ったので、俺も着席しお互い向かい合う形になった。


「じゃあ、手を合わせていただきます」


「いただきます」


メニューはメインのスープカレーと白ごはん、サラダといったシンプルな構成だった。


「う〜ん、おいしい!私ってやっぱり天才!」


舞はそう言って自分をべた褒めしながら食べていた。


俺も一口スープカレーを食べると


「うま」


思わずこぼれてしまったが、本当に美味かった。


「でしょ〜!やっぱり長年さくの舌を研究してきてるからね」


言ってることがちょっと怖かったが美味かったので気にしないでおこう。


「ところで今朝は間に合ったのか?」


今朝はかなりギリギリだったはずだ。


「もちろん!運動部なめないでよ」


そう言ってドヤ顔を披露した。


彼女は陸上部に所属し短距離を専門としている。全国大会にも出るほどの実力者だ。


「そういやさく、部活どうするの?まだ入ってないんでしょ。よかったら、また一緒に」


「入ったよ」


なんか言いかけてたところで遮ってしまったがまあいいだろう。


「え?なんて」


「いやだから入ったんだって」


「え、あーまたやる気になったんだ!嬉しいよ」


「インタビュー部に入ることになったよ」


舞は凍りついた。

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