第6話:部長さんには敵わない
部長の思わぬ発言に数秒間時間が止まった。
最初に動き出したのは部長だった。
「小池、早く練習に戻るぞ」
そう言うとドアノブに手をかけた。
それと同時にインタビューちゃんの口が開いた。
「待ってください!どうしてもインタビューしなければならないんです。どうかお願いします。私たちには後がないんです!」
インタビューちゃんの顔が明らかに焦っている表情だった。
「お願いします。どうしてもインタビューしないといけない理由があるんです」
俺は頭を下げた。柄にもないことだと分かっているが自然と動いていた。
「悪いがそんな時間はない。では失礼する。」
2人で頼み込んでもなお判断が揺らぐことはなかった。
しかし、手をかけたドアノブを捻り少しドアが開いた瞬間…
「待ってください!」
大きな声が響き渡る。
小池さんだ
「訳も聞かずに断っちゃうんですか。困っている人がいるんです。少しでも力になりたいと、助けになりたいとそうは思わないんですか」
顔を赤くしながら必死の表情で話した。
さっきまでの小さな声とは比べ物にならないほどの声量に俺とインタビューちゃんは驚いた。
それでも表情の変わらない部長はついに小池さんに手を伸ばした。
それに対し小池さんは恐怖を感じているような表情を浮かべていた。
そのときまたもや咄嗟に体が動いた。
パシッ
伸ばした手をはたき俺は部長の前に立っていた。
「あ、その、すみません、失礼なことを」
あまりの出来事に周りより自分が1番驚いていた。
「失礼なことをしたと分かっている上で言わせていただきますが、こんな些細なことで手を出すのはどうかと思います」
言ってしまった。
もうインタビューは絶望的だろう。
「何か勘違いしているみたいだが、まあいい。とりあえず諦めてくれ。インタビューを受けるつもりはない」
やはり判断は変わらないみたいだった。
硬直している俺を軽くどかし、再び小池さんの方に手を伸ばした。
「お願いします!」
小池さんのあまりの大声に手が止まった。
そして頭を下げた。
「どうかお願いします!このインタビューが受けられない理由は分かっているつもりです。ですが、やっぱり困っている人を見捨てることはできません。どんな罰でも受けます、だから!」
「分かった」
言葉を遮るように部長からokがでた。
「分かった。インタビューは受けると約束しよう。だからお前はもう練習に戻れ」
「あ、ありがとうございます!失礼します」
そう言って、嬉しそうにこちらに手を振りながら部室に戻って行った。
「ありがとうございます!!」
俺は頭を下げて礼を伝えた。
インタビューちゃんは何故か言わなかった。
「まあ、なんだ、不快に思わせたのなら申し訳ない。そんなつもりはなかったんだ」
「いえ、全然そんな…」
そう俺がフォローするとインタビューちゃんによって妨害される。
「ほんとに怖かったんですからね!」
なんて空気の読めないやつなんだろう。
あとでグーでいってやろうか。
「それは申し訳ない。改めて謝罪しよう」
「まあ、そこまで言うなら…」
そう言いかけたところでインタビューちゃんの発言を遮った。
「ところで!インタビューが受けられないと言っていた理由をお聞きしてもよろしいですか?」
なにやら不満そうな顔をしているのが横にいるがまあ気にしないで俺が話をしよう。
「単純なことだ。部の士気に関わる可能性があるからだ」
「何かあるんですか」
「来月に控えた大会だ。それに向けて今は練習中だ」
なるほど、大会が控えている中でいきなり訳のわからない連中がインタビューをしても茶化しているようにしか見えないということか。
「事情は分かりました。それでも受けてくれるんですか?」
「だから、条件がある」
「条件!いい響きですね」
そう言って不満そうにしていたインタビューちゃんが割り込んできた。
「聞きましょうその条件とやらを」
「条件は2つある。まず、部活終わりにして欲しい。部活前と部活中は士気に関わるからな」
「分かりました。では部活終了後にお伺いします」
「それで2つ目は!」
俺が真面目に回答しているというのにまたもや割り込んできた。
「2つ目は、小池のことだ。あいつと仲良くしてやって欲しい」
これに対しインタビューちゃんは即答する。
「もう仲良しですよ」
それに対し部長は驚いた顔をしていた。
「そうか、そうだったか。ありがとう」
今日一の優しい顔を見せた。
「話をしていたならわかると思うが、あいつは声も小さいし気弱だからまだ学校に馴染めてないみたいなんだ」
「そうは見えませんでしたが」
俺から見ると普通に話ができているし、優しい子という印象だ。
「しかし真実だ。用があってクラスに行った時も1人で寂しそうにしていたんだ。だから……仲良くしてやってくれ」
「私たちに任せてください!」
そう言いインタビューちゃんは胸を張った。
「さて、本題に戻ろうか」
再び表情が硬くなった。
「私がインタビューを受けたのは初めてあそこまで必死になった小池を見たからだ。だからあいつに感謝しろよ」
本当に小池様様だ。神様のように思える。
インタビューモードになったインタビューちゃんが話を始めた。
「ではインタビューをする日程を決めましょう。私たちはできるだけ早い方がいいですね」
あれ、なんか思ってたのと違うな。
それにちょっと顔が怖い。
「部活終わりならいつでも構わないぞ、今日はいきなりすぎるし明日の18:30頃でどうだ」
時刻は18:30となっていた。もう部活終了間際だろう。
「わかりました。では明日18:30にまた来ます。それではインタビューの内容なんですけど」
「もうちょっと丁寧な話し方はできないのか?相手は先輩でこっちが頼んでる側なんだぞ」
さすがに止めた。
「友人に手を出すような人には最低限の礼儀で大丈夫です」
どうやら怒っていたみたいだ。
確かにあの瞬間は少し思うところはあったが…
すると部長は先ほどまでの硬い表情から一変して申し訳なさそうに頭をぽりぽりしながら話し出した
「あー、やっぱり勘違いしているみたいだから言っておくが。ただ服に埃がついていたから取ろうとしただけだぞ」
インタビューちゃんが石になった。
「まあ確かにややこしかったとは思う。タイミングが悪かったってことだ」
「あ、いや、その…すみません!」
俺は光の速さで謝った。
いや、埃をとっただけ!?そんなわけ、てか俺はそれを手で弾いて、恥ずかし!ていうか、あの状況でよく見つけられたな。観察力凄すぎないか。
「謝らなくて構わない、こちらにも非はあるからな。もうこの話はよそう、本題に戻るべきだ」
石となったインタビューちゃんの代わりに俺が話すことになった。
「分かりました。インタビューでお伺いしたいことは、この部の1番の魅力についてです」
「それだけか?」
「それだけです。しかし、いろいろ掘り下げて聞くつもりなので、30分はかかると思われます」
「分かった。また明日こちらに来てくれ。待っている」
「分かりました。本日はお忙しい中ありがとうございました」
俺は深々と頭を下げた。
すると部長はそのまま部室の中に戻ろうとしたが先に扉が開いた。
「あ、部長。お疲れ様です」
そう言い小さな声で出てきたのは荷物をまとめて帰る用意の済んだ小池さんだった。
「副部長が部活終了の挨拶をしてくださったので、様子が気になって急いで見に来たんですけど」
それを見た部長は明らかに表情が柔らかくなっていた。
「大丈夫だ。インタビューは受ける。明日また来るそうだ」
そう言って小池さんの頭を撫でた。
「ありがとうございます」
「それでは私はこれで、気をつけて帰るんだぞ」
そう言って撫でるのをやめ部室に戻って行った。
「はい!お疲れ様でした」
ことが済んだし帰りたいが、この石をどうするか考え部室に置くことを選んだ。
「では、今日はありがとうございました。俺はこの石を一旦部室に預けるので部室に戻ります」
「あ、あの、部室、ついていっても構いませんか」
小さな声で少し照れくさそうに話した。
なんだこの小動物は。
「構いませんよ。では行きましょう」
そう言って2人と1つで部室に向かうのだった。
⭐︎⭐︎⭐︎
おまけ
部室に戻っている際、俺は少し思ったことについて質問した。
「純粋な疑問なんだけど、部長って普段から頭撫でたりするんですか」
「何かあるたびに撫でてきますよ。あ、でも今日の部長は少し怖かったですね。普段あんな表情じゃないんですけど」
「もしかして部室に戻る前の表情が普段の表情だったりしますか」
「あ、そうですね。普段はあんな感じです」
俺たちって相当警戒されてたんだな。まあ異物みたいなもんだしな。
「結構いろんな人の頭撫でたりするんですか」
「そうなんじゃないですか?あぁ、でも私は他の人が撫でられてること見たことないですね。あまり人目につかないところでやってるんでしょうか」
あ、これ好きだわ。
部長小池さんのこと好きなやつだな。
埃とろうとしたってところで違和感はあったけどやっぱりそうだったんだ。
「まあ、なんて言いますか。この話はやめときましょう」
「 ? 分かりました」
不思議そうに返答してきた。
これから小池さんの扱いには気をつけようと思った。
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